日産キャラバン グランドプレミアムGX MYROOM(FR/7AT)
三河の芝生は青いけど 2026.02.09 試乗記 「日産キャラバン」がマイナーチェンジでアダプティブクルーズコントロール(ACC)を搭載。こうした先進運転支援システム(ADAS)とは無縁だった商用ワンボックスへの採用だけに、これは事件だ。キャンパー仕様の「MYROOM」でその性能をチェックした。競争原理が正常ではなかった時代
仕事でバイクを積む機会が多かったこともあって、4ナンバーのワンボックスバンに日常的に接していた時期があった。今から35年くらい前、編集者だった20代のころの話だ。
当時、編集部にあったのは登場から間もない100系の「ハイエース」だ。そのころからサーキットやモトクロス場に通うライダーたちのハイエースに対する信任は厚く、「スーパーGL」はそういうバイク趣味人にとって頂点的な選択肢だった。時折乗せてもらうと会社の「DX」とは音・振動の抑え込みが全然違っていて、高いぶんだけしっかりつくり分けるもんだなあと感心させられた覚えがある。
そのハイエースが出払っている際に、折につけ近所のレンタカー屋さんで借りていたのがキャラバンだ。フルモデルチェンジの年次でいえば100系ハイエースよりも3年ぶんお兄さんにあたるE24系は、音・振動や乗り心地、動力性能など、動的なところでははっきりハイエースに劣っていた。当時は月に1度の鈴鹿日帰り往復取材というルーティンもあったが、夜中に東京にたどり着くともうヘモヘモで何もやる気が起こらない。歴然と違う疲れにハイエースを知る身には、なんでこんなに差があるのかと不思議に思うこともしばしばだった。
そもそも当時はトヨタと日産のシェアが近接していただけでなく、日産の個性を支持する個人客も多いうえ、法人営業力も潤沢だったのだろう。加えて忘年会の乾杯はサッポロビール指定みたいに、芙蓉グループの互助意識も強かった時代である。放っておいても一定数は見込めるうえ、「シーマ」を買った日産ファンの社長が社用車も日産でまとめようかという話になれば、キャラバンのような平社員御用達の仕事グルマは商品力向上という競争原理が二の次にされてしまっていたことは想像に難くない。
が、そういう囲い込みが時代や社会の変容とともに通じなくなったのはご存じのとおりだ。そのうえ、日産はゴーン体制のもと、内側でも系列解体のような荒療治をやってのけている。半ば義理事の扱いだった商用車のシェアが落ちるのは自明でもあった。
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トヨタに先んじたADASの充実
今や忘年会どころかお歳暮でさえコンプラが……といわれるご時世である。買う側も台数を餌に行きすぎた値引きを要求すると優越的地位の乱用ともいわれかねないし、売る側も無謀な横取りやむちゃな押し込みといった旧態的な営業行為は社会的な反感を買うことになりかねない。要は短期間で白を黒にするような法人シェアの塗り替えはどだい無理筋で、日産としてはモノのよさをしっかり押し出しながら、小口や個人のユーザーにもコツコツとアプローチし続けるのが大事なことになる。
もっとも、日産としてもそんなことは先刻承知なはずである。5代目となるこのE26系は2012年に発売となり、年次改良ごとにADASや視認補助機能などを積極的に更新し、上位グレードの層を厚くするなど、プラスアルファの魅力を高めるように仕向けてきた。今回の取材車以外にも、より簡易的な就寝設備を持つ仕様も用意するなど、個人のレジャーユースにも力を注いでいる。なんだかんだいっても14年前のクルマかよと思われるかもしれないが、現行の200系ハイエースは22年選手だ。人生で商用バンのフルモデルチェンジに出くわす機会は、お伊勢さんの式年遷宮並みということになるだろうか。
そのキャラバンにマイナーチェンジが加わったのが昨2025年夏のことだ。法規にのっとった先進運転支援機能の強化に乗じて、ガソリン車の一部グレードに日産いわくクラス初の「インテリジェントクルーズコントロール」=ICCが搭載された。ここでは総称的にACCと記すが、今回の取材車においての注目点はこのACCの作動感や、MYROOMの架装に向かい合う2リッターガソリン車のパフォーマンスということになる。そのMYROOMも昨秋に、遮熱や遮音性能の向上や装備の見直しといったマイナーチェンジを受けている。機能的な変化はないが、停車時の居心地も地道ながら確実に向上しているというわけだ。
全長や全幅はいわゆる5ナンバー寸の4ナンバーということもあり、車体の白場についてもお決まりごとのようなもので、ハイエースとの差異はほとんど感じられない。突き詰めれば荷室長はキャラバンが50mm長いものの、最小回転半径はハイエースが0.2m小さいとか、そういう競争領域は詰めに詰められ続けて飽和している感がある。
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メーカー純正という安心感
じゃあ競争領域はどこなのかということで、キャラバンはゼログラビティーの概念を採り入れたシートを前席に採用している。そのサポート&ホールド感はもっちりしていて、見た目以上にアンコがたっぷり詰まった感触はハイエースのそれよりもリッチな印象だ。
21世紀の幕開けと相前後して生まれたQR20DEユニットは、今や乗用車的には世代交代しているものの、信頼性や耐久性重視の商用車用としてキャラバンを支え続けている。最高出力130PS/最大トルク178N・mという数値をみるに、2t級の車体を引っ張るのは心もとない感もあるが、ポート噴射らしく1000rpm辺りからねっちりと粘り強いトルクが出ていて、タウンライドでもどかしさを感じさせることはない。さすがに高速ではスイスイというわけにはいかないが、7段ATをうまく使いながら120km/h級の巡航域まできっちり仕事をしてくれる。でも、余裕があるわけではないし、燃費計の数字をみるに移動効率も高くはなさそうだ。長距離を一気に走るという使途に照らすなら、所要時間や経済性、快適性などを総合的に判断すると90km/h前後がベストな速度域ではないかというのが試乗しての実感だった。
MYROOMの使いでについては前記事(参照)に詳しいが、こと、寝る機能だけに注目すればキャラバンにはさらに簡素で廉価な「マルチベッド」というグレードも用意されている。もちろんバンコンバージョン型のキャンピングカーは世にあまたあるが、近ごろは車検が厳しく、例えば空調の吹き出し口に取り付けた汎用(はんよう)のカップホルダーが突起物とみなされることもあると耳にする。あるいは造作物に修繕が必要になるとか、そういう面倒ごとを全国のディーラーに一任できるというのがメーカー販売車両の強みだろう。
ドライバビリティーは、主に車体後半側に架装が150kg程度加わっていることもあって、硬めにしつけられた後軸のホッピングも程よく抑えられており、恐らくキャラバンのベストに近いだろう質感を感じさせてくれる。150kgといえばバイクの重量にほど近いこともあって見当がつくが、乗り心地だけにフォーカスすればもう少し荷重が加わるとよりいい感じに収まるだろう。でもバイクを2台積んで走ると運動性能的にはさすがに考慮しなければならないこともあったのを思い出すにつけ、乗用ユースではMYROOMくらいの負荷がちょうどいいのではないかと思う。
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やっぱりトヨタは恐ろしい……
そして注目のACCだ。衝突被害軽減ブレーキの法規強化のオマケくらいのものかと思っていたら、望外にきちんとしたものだった。前車へのリニアな追従性だけでなく、減速時にじんわりとGを伝えて作動していることを伝えてくれるなど、絶品とはいわずとも中庸かもしくはそれ以上のレスポンスはみせてくれる。トラフィックがビジーな都市部の高速域では必要な加速を得るためにキックダウンの頻度も増えるが、郊外では疲労軽減に十分貢献してくれるだろう。停止保持には至らずとも全車速追従してくれるということで、週末の渋滞ストレスが軽減されることも間違いない。願わくばディーゼルにもACCが採用されればよかったが、三菱のユニットを共有している関係もあってキャリブレーションの段取りや検証が自前のガソリンユニットのようにはいかなかったのだろうか。
個人的には昨夏に実家まわりのメンテでレンタカーの200系ハイエースを借りていたこともあって、その記憶を元にある程度キャラバンとの比較もできたが、総じて両車の乗り心地はイーブンにあるのではと思う。そのうえでキャラバンの課題であり期待できる伸びしろは、自分が四六時中接していた平成初期とまるで変わらず、伝わる音・振動の成分が硬くて乾いているところだ。デシベル的に差異はなくとも、質感による疲れの違いは乗っている時間が長い傾向のクルマだけにばかにならない。でもその差を補えるACCが、キャラバンの価値を一気に高めてくれるはずだ。
……と思いきや、かぶせるようにハイエースもACCを採用というニュースが入ってきた。しかもエンジン形式を問わずあらかたのグレードで、ついでにカメラ&モニター関係も強化したことで忌まわしきガッツミラーもほぼ廃されている。他方、新型「リーフ」が航続距離700km超を売りに発表されるや否や、「bZ4X」はそれを上回る一充電走行距離と下回る価格でビッグマイナーチェンジと相成った。トヨタも容赦ない……というよりも、日産の間の悪さを憂うべきだろうか。でも、住めば都ではないけれども、乗って寝てみればその居心地は悪くないと思っていただけるはずだ。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=日産自動車)
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テスト車のデータ
日産キャラバン グランドプレミアムGX MYROOM
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4695×1695×1990mm
ホイールベース:2555mm
車重:1940kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:130PS(96kW)/5600rpm
最大トルク:178N・m(18.1kgf・m)/4400rpm
タイヤ:(前)195/80R15C 108/106S LT/(後)195/80R15C 108/106S LT(ミシュラン・アジリス クロスクライメート)
燃費:--km/リッター
価格:640万3100円/テスト車=750万2242円
オプション装備:特別塗装色<サンドベージュ×ホワイト ツートン>(17万6000円)/MYROOM跳ね上げベッド(17万6000円)/MYROOMフロントシートカバー(7万9200円) ※以下、販売店オプション ウィンドウはっ水<フロントウィンドウ1面+フロントドアガラス2面>(1万4850円)/ETC2.0ユニット(5万5142円)/日産オリジナルナビゲーション(26万7350円)/スライドサイドウィンドウ用網戸<片側>(1万5400円)/日産ポータブルバッテリー from LEAF(17万0500円)/フロントデュアルカーペット<消臭機能付き>(1万8700円)/「MYROOM」ステッカー<左右リアサイドガラス+バックドアガラス>(1万9600円)/ミシュラン・アジリス クロスクライメート<4本>(10万6400円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1686km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:225.0km
使用燃料:29.9リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:7.5km/リッター(満タン法)/7.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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