ジープ・アベンジャー アルティテュード(FWD)
高評価の理由がわかった 2024.11.16 試乗記 デビューするやいなや、欧州の名高い自動車関連アワードを数多く受賞したジープの電気自動車「アベンジャー」が上陸。コンパクトなサイズとジープらしいデザインが持ち味だが、高評価の理由はどこにあるのか。ロングドライブに連れ出し、その理由を探った。日本に上陸したジープの欧州戦略車
2024年秋、日本に上陸したジープ初のピュア電気自動車(BEV)は、2022年9月のパリモーターショーでグローバルデビューし、同年冬に欧州で受注を開始。2023年1月に欧州カー・オブ・ザ・イヤー2023を獲得した。ジープはいうまでもなく北米発祥のブランドだが、アベンジャーがいかにも欧州づいて見えるのは錯覚ではない。
アベンジャーは旧グループPSAが開発した「コモンモジュールプラットフォーム=CMP」のBEV用バリエーションといえる「eCMP」を土台に設計・開発され、ポーランドのティヒ工場が生産を担当している。ティヒは旧フィアットが1970年代前半に設立した最終組立工場で、近年では「フィアット500」の主力工場として知られていた。500のガソリン車の生産を終える今後は、このアベンジャーのほか、「フィアット600e」や「アルファ・ロメオ・ジュニア」など、旧FCA系のコンパクト電動車がティヒで生産される。
いずれにしても、アベンジャーはジープを名乗りつつも、旧グループPSA系の骨格を使って、旧フィアットの工場で生産される生粋の欧州車というわけだ。アベンジャーが欧州カー・オブ・ザ・イヤーを獲得できたのには、そんな出自も無関係ではないと思われる。
また、血統的に欧州色が強いジープといえば、「レネゲード」という前例がある。レネゲードは旧フィアット系のプラットフォームを使い、イタリアで生産される。ただ、同車はイタリア以外に、ブラジルや中国でも生産されて、欧州(や日本)だけでなく、中南米や中国も主要市場に据えており、一時期はジープの本拠である北米でも販売されたグローバル商品である。対するアベンジャーは、なにより欧州でのジープ販路拡大を主眼に置いた欧州戦略商品というべき存在らしい。北米での販売予定も、今のところはないという。
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ショート&ワイドなプロポーション
発売記念限定車の「ローンチエディション」も用意されたアベンジャーの日本仕様だが、今回の試乗車はカタログモデルの「アルティテュード」だった。ローンチエディションから「パワーサンルーフ」や「18インチアルミホイール」「ブラックペイントルーフ」「イエローダッシュボード」「フロント/リアLEDドームランプ」、43分の1スケールのミニカーといった特別装備と付属品は省かれる。ただ、「スタイルパック」という18万円のオプションを選べば、パワーサンルーフや18インチホイール、フロント/リアLEDドームランプは追加できるという。
走りにまつわるチューンは、ローンチエディションもカタログモデルも変わりない。最高出力156PS、最大トルク270N・mのモーター性能や54kWhという三元系リチウムイオン電池の総電力量は、同工場で組み立てられるフィアット600eと共通。同じeCMPを土台とする「プジョーe-2008」や「シトロエンE-C4エレクトリック」と比較すると、世代が新しいこともあって、モーター性能や電池の総電力量はアベンジャーが少しずつ上回る。
そんなアベンジャーを目前にすると、そのコンパクトさがまず印象的である。その4105mmという全長は、現在新車入手可能な輸入SUVでは最小。国産SUVを含めても、「ジムニーシエラ」「クロスビー」「フロンクス」という3台のスズキ車と「ダイハツ・ロッキー」とそのOEM車に次いで、実質5番目に短いのだ。また、フロントのセンター部分にはいつもの「7スロット」があしらわれるが、すべてふさがれたダミーグリルである。
これが54kWhという小さくない電池を積むBEVであると考えると、このコンパクトさになにより価値がある。いっぽうで、全幅は1775mmという堂々たるもので、ショート&ワイドなプロポーションは素直にカッコいい。後席足もとも広くはないのだが、着座姿勢やヘッドルームなど、身長178cmの筆者にとっても健康的な後席空間であることは感心する。
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ジープならではの走行モード設定
インテリアはあくまで質実剛健。助手席前がトレー形状になっているうえに、センターコンソールが(電動パーキングブレーキとドライブモードのスイッチ部分以外)ほぼ全面収納スペースになっているので、手まわり品の置き場には困らない。各部の組み付け精度は高いが、部品はすべて硬い樹脂製で、正直いって高級感はない。
54kWhの電池で580万円というアベンジャーの本体価格は、輸入BEVとしては手ごろな部類に入る。絶対的な本体価格はe-2008やE-C4などのフランス勢より少し高いものの、65万円というCEV補助金は、フランス勢のそれより20万円高いので、現実的な本体価格はこれらより少し安くなる。さらに自治体などの補助も使えば、実質価格で500万円切りもむずかしくないだろう。
アベンジャーの駆動方式は、ほかのeCMP車と同じく前輪駆動のみ。ただし、ドライブモードの選択肢に「エコ」「ノーマル」「スポーツ」というおなじみモードのほか、「スノー」「サンド」「マッド」といった雪道/悪路用のモードが加わるのはジープならでは……である。また、ヒルディセントコントロールも用意される。
今回は舗装路のみの試乗だったので、ジープらしい雪道/悪路モードの真価を試すことはできなかった。ただ、舗装路だとエコモードに加えて、スノー、サンド、マッドの各モードも、アクセル踏みはじめの立ち上がりがマイルド化している点は共通する。その後のアクセル特性やトラクションコントロールの利かせかたに、各モードのちがいがあるようだ。
強力なモータートルクを前輪だけに伝えるFWDながら、旋回中にアクセルを踏んでも、フロントタイヤが空転しかけたり、走行軌跡が膨らみかけたりすることは皆無。アクセル反応はリニアなのに、トルクステアめいた手応えをまったく生じさせない制御は見事だ。
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お約束の“隠れキャラ”も
市街地での乗り心地は明確に引き締まっている。クルマ全体の剛性感は非常に高く、アシはしっかり動いているようだが、フラットな重厚感というより、路面の凹凸をヒョイヒョイと軽やかに乗り越えていくタイプだ。
しかし、高速道路でスピードを増すほどに、サスペンションにストローク感やしなやかさがにじみ出てきて、ひたりとフラットに落ち着く。山坂道に分け入ると、BEVらしい低重心感に、前記の巧妙なトルク制御も相まって、ピタリ正確なオンザレールのハンドリングを披露する。こうして負荷が高まるほどに、基本フィジカル性能が際立つところは、よくできた欧州コンパクトの典型といっていい。
そんなアベンジャーでのジープらしい演出が前記のドライブモードだが、たとえばパワーステアリングもそのひとつで、低速でペタッと軽めのパワステはいかにもジープっぽい。手応えそのものがデッド気味なのは否めないが、せまい路地や悪路での取り回しでの肉体的負担は素直に軽い。もっとも、高速になるとステアリングの手応えも増してくる。
さらに、ウィンドウのすみやバンパーグリル、ダッシュボードなど“隠れキャラ”が仕込まれているのは、近年のジープのお約束だ。さらに、ドラムをたたくようなウインカー作動音はアベンジャー専用。……なのだが、逆にいうと、そういう部分でしか独自の味を出しづらいのがBEVの苦しいところでもある。ただ、このクルマそのものは良好な電費も含めて、よく練られたBEVであり、そこに“ミニ・ジープ”というキャラをうまくのせたアベンジャーが、欧州で高い評価を受ける理由もわかる。
ちなみに欧州のアベンジャーにはBEVのほか、1.2リッター直3ターボの純ガソリン車、同マイルドハイブリッド、さらにマイルドハイブリッドにリアモーターを追加した「4xe」も登場している。試乗車に付属する日本語の取扱説明書にも、すでにBEV以外のある機種の項目もあった。
(文=佐野弘宗/写真=佐藤靖彦/編集=櫻井健一/車両協力=ステランティス ジャパン)
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テスト車のデータ
ジープ・アベンジャー アルティテュード
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4105×1775×1595mm
ホイールベース:2560mm
車重:1570kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:156PS(115kW)/4070-7500rpm
最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)/500-4060rpm
タイヤ:(前)215/60R17 96H/(後)215/60R17 96H(グッドイヤー・エフィシェントグリップ2 SUV)
一充電走行距離:486km(WLTCモード)
交流電力量消費率:127Wh/km(約7.8km/kWh、WLTCモード)
価格:580万円/テスト車=614万4740円
オプション装備:ボディーカラー<グラナイト>(5万5000円)/プレミアムX-camoプリントフロアマット(4万9500円)/ドライブレコーダー(5万9950円)/ETC1.0車載器(1万3750円)/電源ハーネスキット(2090円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:2651km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:349.0km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:7.4km/kWh

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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