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やめたと言っていたのに新エンジンを開発! メルセデスの次世代パワートレイン戦略を読み解く

2024.11.19 デイリーコラム 渡辺 慎太郎
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新世代プラットフォーム「MMA」用のパワートレイン

メルセデス・ベンツは定期的にワークショップを開催している。お題はさまざまで、安全に関するものもあればデザインだけだったりもする。そして2024年の今回は2日間にわたって2つのワークショップが用意されていた。まずは初日の「Drivetrains & Efficiency」から。

テーマはその名のとおり、ドライブトレイン(あるいはパワートレイン)と効率。もっと簡単に言えば、メルセデスの次期パワートレインの紹介である。メルセデスは2023年、「MMA」と呼ぶまったく新しいプラットフォームを発表し、電気自動車(BEV)と内燃機に対応するとアナウンスした。加えてこのMMAを使い、次期「CLA」と「CLAシューティングブレーク」、そして2タイプのSUVを登場させると公表している。今回のワークショップでは、このMMAに搭載されるパワートレインの詳細が明かされた。

メルセデスは以前、「今後開発するプラットフォームはBEV専用で、新規のエンジンはつくらない」と公言していた。したがってMMAは当初からBEV専用として設計されていたと思われる。なのでメインとなるパワートレインはモーターだ。「EDU2.0」と呼ばれるそれは、エレクトリックドライブユニットの略で、モーターと2段式トランスミッションやインバーターなどをひとつのハウジング内に収めている。駆動用モーターは200kWを発生する永久磁石同期式(PSM)で自社開発とのこと(生産は外部へ委託)。これをリアに置く後輪駆動がベースとなるが「4MATIC」=4WDも用意されていて、その場合はフロントに80kWを発生するモーターが追加される。フロントモーターにはクラッチに似た制御機能を持つプラネタリーギアが配置されていて、状況に応じてフロントモーターを切り離して引きずりを解消し、完全な後輪駆動とすることで航続距離を稼ぐそうだ。現時点での航続距離は750km以上を達成している。

ドイツ・ジンデルフィンゲンで開催されたメルセデス・ベンツのテクニカルワークショップ。2024年の初日は「Drivetrains & Efficiency」がテーマだった。
ドイツ・ジンデルフィンゲンで開催されたメルセデス・ベンツのテクニカルワークショップ。2024年の初日は「Drivetrains & Efficiency」がテーマだった。拡大
ワークショップで紹介されたパワートレインは次世代の小型車用プラットフォーム「MMA」に搭載される。
ワークショップで紹介されたパワートレインは次世代の小型車用プラットフォーム「MMA」に搭載される。拡大
「MMA」をベースとしたモデルは次期型「CLA」と「CLAシューティングブレーク」のほか、2タイプのSUVが登場する予定だ。
「MMA」をベースとしたモデルは次期型「CLA」と「CLAシューティングブレーク」のほか、2タイプのSUVが登場する予定だ。拡大
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直4ターボのM252ユニットを新開発

バッテリーには2種類のリチウムイオンを用意。エントリークラスのモデルとなるため、価格を抑える(=航続距離が短くなる)ための施策とのこと。ひとつは負極に酸化ケイ素を使った85kWh、もうひとつは58kWhの容量となる予定。さらにメルセデスとしてはこのMMAで初めて800Vの電気アーキテクチャーを投入、新しいバッテリーと組み合わせることで充電器次第では最大300km分の充電を10分以内で完了させるという。

そしてやっぱり気になるのが“内燃機”である。「新規のエンジンはつくらない」と公言していたくせに、ふたを開けてみればまったく新しいエンジンのみならずトランスミッションまで開発していて、そのうえハイブリッドであった。

1.5リッター直列4気筒ターボは“M252”の型式番号を持つ新規開発のエンジンで、ミラーサイクルの燃焼プロセスを採用。したがって12:1という高圧縮比を実現している。ターボはメルセデスが最近一部のモデルに使っている電動式ではなく通常のもの。「あまりコストがかけられないので……」と電動ターボが採用できなかった理由をエンジニアは吐露した。

トランスミッションは8段のDCTで、出力20kWのモーターとインバーターも同じハウジング内に収めている。モーターはエンジンとトランスミッションに挟まれる位置にあるが、エンジン側にクラッチが設けられているのでEV走行が可能となる。つまり、EV走行時でも8段DCTは使えるし回生もするという。ただ、EVでの航続距離はPHEVとして登場しなければおそらくたいしたことはないと思われる(数値は教えてもらえなかった)。

BEV用のリチウムイオンバッテリーは正極材に三元系を使った容量85kWhとリン酸鉄系の58kWhの2種類を用意する。メルセデスとしては初の800Vの電気アーキテクチャーを採用している。
BEV用のリチウムイオンバッテリーは正極材に三元系を使った容量85kWhとリン酸鉄系の58kWhの2種類を用意する。メルセデスとしては初の800Vの電気アーキテクチャーを採用している。拡大
MMAでは主駆動輪がリアに。「EDU2.0」と呼ばれるドライブユニットは最高出力200kWのモーターとインバーター、2段ATなどがひとつのハウジングに収められる。
MMAでは主駆動輪がリアに。「EDU2.0」と呼ばれるドライブユニットは最高出力200kWのモーターとインバーター、2段ATなどがひとつのハウジングに収められる。拡大
4MATIC用フロントモーターの最高出力は80kW。クラッチによってドライブユニットを切り離してモーターの引きずり抵抗を抑制するディスコネクト機能を搭載している。
4MATIC用フロントモーターの最高出力は80kW。クラッチによってドライブユニットを切り離してモーターの引きずり抵抗を抑制するディスコネクト機能を搭載している。拡大

とにかくコンパクトに

このエンジンを開発するにあたり、最優先事項だったのがコンパクトであることだったそうだ。そりゃそうだろう。BEVを想定したパッケージのフロント部にエンジンを収める必要が出てきたのだから。そうなると、3気筒でもよかったのではないかという疑問が湧く。これに対してエンジニアは「もちろん3気筒も検討しました。でもやっぱり音と振動(NV)がわれわれの期待値を上回らない。プレミアムブランドであるメルセデスにふさわしいNVを確保するには4気筒のほうが最適だったのです」とのこと。それでも吸排気系の取り回しに知恵を絞るなどして、4気筒にしてはコンパクトなサイズに仕上がっている。

当面は100kW、120kW、140kWの3つの最高出力を用意し、横置きの前輪駆動が基本となる。4MATICもあるが、リアにモーターを置く電動4駆ではなく、プロペラシャフトを使った機械式4駆の駆動形式となる。

この新しいエンジンとトランスミッションを見るに、とてもじゃないがこの1~2年の間に急きょ開発したものではないことは容易に想像がつく。「新規のエンジン開発はやらない」と言っていたのにしっかりやってたんじゃんとツッコミたくはなったけれど、こういうしたたかさというか、開発の余力をきちんと確保しているあたりはさすがである。

(文=渡辺慎太郎/写真=メルセデス・ベンツ/編集=藤沢 勝)

ハイブリッドモデルの主駆動輪はフロントで、プロペラシャフトを使った4MATICも設定される。構造的にEV走行も可能だが、駆動用リチウムイオンバッテリーの容量が1.3kWhしかないため、距離はごくわずかと思われる。
ハイブリッドモデルの主駆動輪はフロントで、プロペラシャフトを使った4MATICも設定される。構造的にEV走行も可能だが、駆動用リチウムイオンバッテリーの容量が1.3kWhしかないため、距離はごくわずかと思われる。拡大
ハイブリッド用に新規開発された1.5リッターガソリン4気筒ターボの「M252」ユニット。クランクケースはアルミ製で、シリンダー内に特殊なコーティングを施すナノスライドテクノロジーも使われている。
ハイブリッド用に新規開発された1.5リッターガソリン4気筒ターボの「M252」ユニット。クランクケースはアルミ製で、シリンダー内に特殊なコーティングを施すナノスライドテクノロジーも使われている。拡大
ハイブリッド用に新規開発された8段のデュアルクラッチ式AT。最高出力20kWの駆動用モーターとインバーターも一緒にユニット化されている。
ハイブリッド用に新規開発された8段のデュアルクラッチ式AT。最高出力20kWの駆動用モーターとインバーターも一緒にユニット化されている。拡大
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