スズキ・スイフトXG(FF/5MT)【ブリーフテスト】
スズキ・スイフトXG(FF/5MT) 2010.10.27 試乗記 ……126万5250円総合評価……★★★★
姿カタチを大きく変えずに中身を一新した、スズキの世界戦略車「スイフト」。ベースグレードの走りと使い勝手をテストした。
基本がしっかりしている
日本車離れしたデザインと走りで人気を呼んだスズキのグローバルコンパクト「スイフト」がフルモデルチェンジを実施した。「これでフルモデルチェンジ?」と口に出てしまいそうなほど、見た目のイメージは旧型に似ている。もともとカッコがいいのに、わざわざいじって壊す必要はないわけで、それよりも中身を鍛え上げることに力を注ぐべきだろう。
カンジンな中身は、カッチリとしたボディに、実用的かつ低燃費のエンジンが搭載され、乗り味もまずまず。コンパクトカーといえども、クルマとしての基本がしっかりしているのがスイフトの魅力だ。それだけに、初心者からこだわり派にいたるまで、誰にでも自信を持って薦められる。
今回試乗したのはマニュアルトランスミッション(MT)仕様。MT派にしてみれば、オートマチックが主流のこの時代に選択肢が残されているだけでも「御の字」というところ。しかし、消去法ではなく、積極的に選べるというスイフトは、MTが必須のユーザーにとっても、オススメの一台である。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
軽自動車「Kei」をベースにした、1.3リッター直4エンジン搭載の小型乗用車として2000年1月に誕生したのが初代「スイフト」。
2004年11月にモデルチェンジされ、ブラットフォームを一新。1.3リッターに加え1.5リッターエンジンもラインナップし、本格的な世界戦略車となった。
2007年5月にマイナーチェンジを受け、新開発の1.2リッターエンジンを採用。1.3リッター+ATが1.2リッター+CVTに入れ替えられた。なお、4WDやMTモデルでは1.3リッターエンジンがキャリーオーバーされた。
2010年8月にフルモデルチェンジされ、エンジンは国内市場では1.2リッターのみにしぼられ、1.3リッターは廃止された。トランスミッションもCVT(副変速機付)と5MTのみとなった。CVTモデルにはFF車のほか4WD車も用意される。
(グレード概要)
グレードは装備の違いで3種用意される。ベーシックな「XG」のほか、中間グレード「XL」と装備が充実した「XS」。テスト車は「XG」のMTモデル。同じMTモデルがある「XL」と比べ、本革巻きステアリングホイールがウレタンに、16インチアルミホイールが15インチホイールキャップ付になるほか、リアシートのリクライニング機能やLEDサイドターンランプ付ドアミラーは装備されない。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
先代スイフトもあか抜けたデザインだったが、新型もまたシックで大人っぽい雰囲気に仕上げられている。黒を基調としたダッシュボードは、その大部分に小さな幾何学模様のシボを整然と並べることで、若々しさと上質さを上手に表現している。マットシルバーのパネルも、スポーティさの演出には効果的で、地味な感じとも無縁だ。
メーターは大きくシンプルなアナログタイプ。外側にはシルバーのリングが配され、透明のスケールが組み合わされるが、スケール部分が太すぎて多少目盛りが見にくくなるのが難点。それでも全体の仕上がりは上々だ。
(前席)……★★★★
エントリーグレードであっても、シート本体にシートリフターが付き、また、ステアリングにチルト&テレスコピック調節が備わるのは実にうれしい。おかげで自然なシートポジションをとることができた。ファブリックのシートは背中を包み込んでくれる感触だが、個人的にはもう少し腰のあたりがしっかり支えられると助かる。ランバーサポートがあればよかった。
ドライバーまわりの収納は比較的豊富で、ドアポケット、ドリンクホルダー、ダッシュボード上のふた付きトレーなど、小物の置き場には困らない。
(後席)……★★★
高めの全高を生かし、フロアから座面までの高さを十分確保したおかげで、大人でも自然な姿勢がとれるリアシート。前席下につま先がラクに入るので足元が窮屈ということはなく、レッグルームにも余裕がある。
一方、ヘッドルームは必要十分というレベルにとどまり、視覚的にはもう少し開放感がほしいところだ。シートバックがやや立ち気味で、座っていていまひとつしっくりこないのが気になるところ。この「XG」にはリクライニングが非装備だが、標準装備となる他グレードなら印象は変わるかもしれない。
(荷室)……★★★
コンパクトなスイフトはラゲッジスペースもコンパクトだ。全長を考えればやむを得ないが、奥行きが軽の「アルト」並みというのはさびしい。フロアは二重底になっていて、フロアボードを上で固定すれば床下収納が可能になるし、リアシートを倒したときにフロアがちょうどフラットになるのは便利。リアシートは分割可倒式で、ハッチバックとしての機能性は十分。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
現時点でスイフトに搭載されるエンジンは、1.2リッター直列4気筒DOHCの1種類。フルモデルチェンジにあたり、吸排気ともに可変バルブタイミング機構を備えたというが、この出来栄えが思いのほかいい! あきれるほど軽いクラッチペダルをつないで発進すると、1500rpm以下ではややノイズや振動が気になるものの、970kgの軽量ボディを押し出すには十分なトルクを発生させる。街中では2000rpm以下でも不自由なく走ることができ、平均車速20km/hに満たない都内でも、15km/リッターの燃費をマークしたのは立派だ。
2000rpmを超えるとそこから徐々にトルクは太りはじめ、さらに回して4000rpmを過ぎると盛り上がりを感じさせる展開に。絶対的なパワー/トルクはたかが知れているが、スポーティな感覚には十分浸ることができる。マニュアルの節度あるシフト感も、楽しさを倍増する。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
「ヨーロッパで鍛えた足まわり」と言いながら、乗ってみると乗り心地はむしろソフトで、快適さが前面に出たセッティングだ。ただ、そのぶん路面によっては上下動の収まりがいまひとつで、ピッチングが気になることがあった。個人的にはもう少し硬めで、落ち着きがあるほうがいいと思う。
高速のスタビリティはまずまず。センターがスローな可変ギアレシオステアリングも、安定感に一役買っているようだ。コーナーでは、ノーズがスッと入っていく感じがとてもスポーティ。その一方で、濡れた路面ではリアの落ち着きが足りず、ヒヤッとすることもあった。今後の熟成に期待したい。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2010年9月30日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2010年型
テスト車の走行距離:1380km
オプション装備:専用AM/FMラジオ付CDプレーヤー(2万1000円)
タイヤ:(前)175/65R15(後)同じ(いずれも、ヨコハマ・デシベルE70)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(7)
テスト距離:305.0km
使用燃料:25.17リッター
参考燃費:12.12km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。