ドライバー不在の自動運転が日本でも! センサー満載の「日産セレナe-POWER」で横浜の街を走る
2025.03.10 デイリーコラム8年がかりで実現したドライバーレス
静かに走りだした「セレナe-POWER」は一般道に合流すると右折レーンへと向かい、対向直進車の切れ目を狙ってスムーズに右折を完了。その後ももたつくことなく制限速度いっぱいまですぐに加速し、われわれを乗せて東の方角に向かった。この事実に驚きはないが、実はそれこそが驚きである。何しろこのセレナe-POWERにはドライバーが乗っておらず、運転席は無人だ。
日産は2017年度に自動運転モビリティーサービスの実証実験をスタート。そこで積み上げた知見をもとに2025年度の下期から2026年度にかけて横浜市で大規模なサービス実証実験を予定している。2018年2月時点ではセーフティードライバー(運転席でいざというときに備えるドライバー)と同乗エンジニア、車外補助員を伴っていた実験は、2019年2月に車外補助員が外れ、遠隔監視システムを追加。2021年9月にはセーフティードライバーと遠隔監視のみに発展し、この度晴れて遠隔監視と助手席に座る保安員のみという段階にまで到達した。ただし、2021年9月には乗降地が23、複数ルートでの実験が可能だったが、今回は単一ルートで途中での乗降はできない。
冒頭から長々と書いてしまったが、つまり日産は自動運転モビリティーサービスの実証実験を横浜市で実施中で、実験車両のセレナe-POWERにはドライバーが乗っておらず、非常停止ボタンによる減速・停止が可能な保安員が助手席に乗っているだけなのだ。これの2列目シートにわれわれも乗せてもらった。
姿の見えないドライバー
日産の実験はドライバーが不在だが、自動運転の水準としてはレベル4ではなくレベル2に分類されている。2027年度にはレベル4のサービス提供を目指すとのことだが、レベル4は実験に必要な審査の要件が非常に細かいだけでなく、走行場所や速度域などが非常に限られている。レベル2の要件も厳しいのは間違いないのだが、必要な場合には人間の介入が可能だったり、一般車との混走が可能だったりと、比べれば制約が少ない。世の中の状況や現在の技術レベル等に勘案して、日産がより実のある選択をしたということだ。
ドライバーが不在なのにレベル2に分類されるのは、車内とは別のところに隠れたドライバーがいるからだ。遠隔監視操作者と呼ばれるスタッフが日産の社内にいて、ドライビングシミュレーターのようなコックピットで車載カメラの映像とセンサーのデータを注視している(レベル4では不在になる)。ここぞというときには遠隔で運転操作を取って代われるように構えているのだ。この遠隔監視操作者と助手席の保安員の2人がセーフティードライバーとしての役割を分担している。ちなみに運転者としての責務を負うのは遠隔監視操作者である。万が一自動運転のセレナe-POWERが一時停止を怠るなどすると、彼の違反ということになる。
自動運転のセレナe-POWERを見守るのはこの2人だけではなく、遠隔管理システムと自動運転管制システムの運行も担う遠隔管制室も用意されている。取材時点では3台が運行可能な状態で、2人のスタッフが2つの大きなディスプレイで各種データを注視していたが、2026年度には20台にまで実験車両を増やすというから、そのときには遠隔監視操作者も含めて何人のスタッフが必要になるのだろうか。事業化を目指すにあたっては避けられない課題である。
目の前まで迎えに来てくれる
実験車両はセレナe-POWERのガワを使っているが、ブレーキとステアリング、電源に故障・失陥に備えた冗長性を持たせ、遠隔からの監視と操作に対応した自動運転システムが搭載されている。乗車時の認証システムなどの無人化に対応した装備もあり、当然ながら市販車とは別物だ。センサーは6基のLiDARと14基のカメラ、9基のレーダーを搭載。ルーフがやぐらのようになっているのはそのためだ。2024年6月までの実験車両は「日産リーフ」がベースだったが、セレナe-POWERに変えたことでセンサーを高い位置に搭載できるようになり、センシング能力がアップ。遠隔管制室で見た映像は、植え込みの向こう側を走る車両もしっかりとらえていた。自動運転の実験なので、電気の力で開け閉めできるスライドドアも非常に重要とのことだ。
スマートフォンのアプリを操作して配車を予約すると、運転手のいないセレナe-POWERが目の前まで迎えに来てくれる。車体側面のQRコードをカメラで読み取ると自動でスライドドアが開き、2列目(キャプテンシート)のいずれかに乗車してシートベルトを締めると自動でドアが閉まる。車載のタッチスクリーンで出発を指示すればドライブが始まる。荷室および3列目シートのスペースには自動運転のシステムが積んであるため、現状では2人しか座れない。いくつかのバージョンのシステムを同時にテストしているため、非常に大きな積み荷になっているらしい。また、助手席には保安員が座っているが、「こんにちは」とか「冷えますね」とか「ベイスターズ勝ってる?」などと声をかけてはいけない。この人は自動運転システムを構成する機能のひとつであり、監視に集中しているのだ。タクシードライバーとは違って返事がないのが当たり前なので、「冷たいやつだ」などと思ってはいけない。
動作にけれんみがない
今回の実験に使われるのは横浜市の日産グローバル本社と赤レンガ倉庫周辺を往復する全長4km程度のルートだが、セレナe-POWERの運転はなかなかのものだ。冒頭に書いたとおりタイミングを計っての右折は難なくこなす。左折後の左レーンに駐車車両がいる場合などは、左折後に右レーンにいったん入り、駐車車両をパスした後に左レーンに移動などというルートをとる。左折中に横断歩道に歩行者がいればきちんと止まるのは当然ながら、歩行者が渡り終えてしまえばさっさと出発。自動運転の実証実験というと安全重視のゆったりとした動きを想像してしまうが、とにかく動作にけれんみがない。これなら横浜の街の人々も迷惑とは思わないことだろう。路肩に止まった軽バンとセンターポールとの間隔が狭すぎて進めなくなるというシーンもあったが、通れるルートを見つけようと演算を繰り返していた。ちなみにこういう場合でもクラクションは鳴らさないらしい。
熱心に観察すればこのような点が見つけられるのだが、この日のセレナe-POWERでのドライブはあまりに自然であまりにスムーズだったため、恐怖心はおろか感動さえも起きず、同乗してくれた開発スタッフへの聞き込みに集中してしまったのが正直なところである。実用化の日が待ち遠しくなるとともに、「会社の舵取りにも優秀な自動運転があれば……」などと余計なことを思わずにはいられないのだった。
(文=藤沢 勝/写真=日産自動車/編集=藤沢 勝)

藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。
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