日産セレナe-4ORCEハイウェイスターV(4WD)
特別な存在 2025.01.20 試乗記 日産のミニバン「セレナe-POWER」に追加設定された4WDモデル「e-4ORCE」に試乗。既存のガソリン車や「e-POWER 4WD」車とは異なる、前後2基のモーターと左右のブレーキを統合制御し4輪の駆動力を最適化するというハイテク電動4駆の走りやいかに。e-4ORCEとe-POWER 4WDのちがい
セレナe-POWERに用意された待望の4WDシステムは、「エクストレイル」「アリア」に続いてe-4ORCE(イーフォース)を名乗る。e-POWERは源流となるエンジン(セレナの場合は1.4リッター直3)が発電に徹してモーターのみで駆動するシリーズハイブリッドで、その4WDとなれば、ご想像のとおり、リアにもモーターを追加した完全電動4WDである。
ただ、同じ完全電動4WDでも、「ノート」系や「キックス」のそれにはe-4ORCEではなく、e-POWER 4WDという商品名が与えられる。その理由について「よりパワフルなリアモーターを使うのがe-4ORCE」と説明する一部メディアもあるが、それは正確ではない。なるほど、ノート系やキックスと比較すると、同じ4WDでもセレナやエクストレイルのリアモーターのほうが総じてパワフルではある。しかし、たとえばノート系でも「オーラNISMO」(4WD)のリアモーターの最高出力は、セレナe-4ORCEのそれと同等の82PS(最大トルクはセレナのほうが大きい)だ。
e-POWER 4WDとe-4ORCEのちがいについて、日産の広報担当者にたずねると「前後モーターのトルク制御とブレーキ制御(筆者注:いわゆるブレーキLSD)によってトラクションをコントロールするという点では、両者にちがいはありません。ただ、モーターとブレーキをそれぞれ独立したコンピューターで制御するのがe-POWER 4WD、ひとつのコンピューターで統合コントロールするのがe-4ORCEとなります」との回答だった。また、実際に乗ってどの程度体感できるかはともかく、制御スピードもe-4ORCEのほうが格段に速いそうだ。
担当者はさらに「回生ブレーキも統合コントロールするe-4ORCEのメカニズム的な特徴は、クルマ側に回生協調ブレーキが備わっていることです。その意味でも、一般的な油圧ブレーキとなるノート/ノート オーラやキックスは、e-POWER 4WDとなります」と続けた。なるほどね。
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室内の造作が微妙に異なるe-4ORCE
e-4ORCEが選べるセレナは「X」「XV」「ハイウェイスターV」の3種類で、最上級の「ルキシオン」には用意されない。シートレイアウトは、2列目がキャプテンシートとなる7人乗りのみ。8人乗りの4WDが必要なら、既存の2リッター直4の純ガソリン車を選ぶしかない。
日産がメディア向けに用意した資料には「(e-4ORCEでも)広い室内空間とラゲッジの利便性をキープ」と記されていたが、わざわざそんな記述をするのは、裏を返せばまったく同じではないということだ。いや、実車を観察すると、けっこう大きく変わっている。
即座に指摘できるポイントは、荷室床下の収納空間が縮小したことだが、それは細部にすぎない。実際には3列目シート付近のフロアが、e-4ORCEだけが明確に盛り上がっている。ご想像のとおり、リアにモーターをおさめるためにリアフロア(やリアのトーションビーム)が専用になっているからだ。
結果として、3列目を跳ね上げたときの荷室の使い勝手については、わずかに容量が減少したほか、荷物を安定して置きにくいなどの影響がなくはない。ただ、3列目シートのヒップポイントは変わっていないそうで、そこに座ったときの姿勢や足もとへの影響も、うまく回避されている。
さらに、フロントシート間の「フロントセンタートレイ」が、e-4ORCEでは背が高くなった。これはこれで使い勝手は悪くないのだが、同時に背後(=2列目足もと)に配線のためとおぼしき出っ張りができてしまった。セレナの8人乗りは1~2列目間をロングスライドする「スマートマルチセンターシート」が特徴だが、フロアやセンタートレイの影響で、そのスライド機能が確保できない。それがe-4ORCEに8人乗りがない最大の理由だろう。
また、「プロパイロット2.0」が最大の売りとなるルキシオンは、専用センターコンソールの下にステアリング制御用電池などが追加されており、もともとe-4ORCE化のために必要なスペースはなさそうに見える。
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雪道や悪路の走破性をアップ
各席のいわゆる“○○ルーム”という空間寸法値には確かに影響がほとんどないe-4ORCEだが、随所の仕立てには、4WDシステムをねじ込むための苦労の跡がありありと見て取れる。考えてみれば、現行セレナのプラットフォームは2005年発売の3代目から4世代・20年以上も使い続けられており、もともとはe-POWER、まして電動4WDなど想定外だったはず。そんなセレナゆえ、先代時代からずっと要望のあったe-4ORCEの4WDがなかなか実現しなかったのも、つまりは技術的な困難が多かったということなのだろう。
こうした室内の細部を観察しなければ、内外にe-4ORCEならではの専用装備もとくになく、2WDとの区別はほとんどつかない……のだが、唯一、e-4ORCEは最低地上高が同グレードの2WDより15mm拡大されていて、全高もそのまま高くなっている。
ただ、これはメカニズムレイアウトなどの技術的な都合というより、雪道などの悪路走破性を確保するための意図的なリフトアップなのだそうだ。また、パワートレインのドライブモード選択肢にも、これまでの「ECO」「STANDARD」「SPORT」に加えて、e-4ORCE専用の「SNOW」が用意されるあたりにも、このクルマのねらいがうかがえる。
2WDに対して100~120kgの重量増となるe-4ORCEだが、パワー源となる1.4リッター直3エンジンの性能はそのままで、実際の動力性能は遅くはないが、パワフルでもない。高速追い越しや上り坂などで負荷が上がると、3気筒エンジン特有のビートが耳に届く頻度や音量が増しているのは、いたしかたない。ただ、もともとロードノイズが高まるタイミングでエンジン始動するなど、静粛対策には入念なセレナe-POWERだけに、特筆するほど気になるわけでもない。
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各所にe-4ORCE化の利点あり
重量増、最低地上高の拡大、新設計リアトーションビーム……に合わせて、サスペンションも当然リチューンされている。市街地や整備された高速での淡々としたクルージングでの乗り心地が改善したように感じたのは、日産担当者によると、地上高拡大=サスストロークアップによるメリットが大きいらしい。
セレナといえば、とくに2列目の乗り心地は少し荒っぽいのが弱点とされるが、細かく振動するクセは、多少の改善はあるものの払しょくされたわけではない。いっぽうで、フラット感が明確に増したような印象を覚えたのは、サスペンションチューンに加えて、e-4ORCEの効果もあると思われる。
ディスプレイ表示では前後に駆動力を均等配分しているだけのe-4ORCEだが、実際は一定速の巡航で瞬間的にFFになるなど、アクセルの踏み加減や操舵に合わせて、緻密に4輪の駆動トルクを制御している。ブレーキング時にも回生協調ブレーキでリアの制動力をわずかに増して、ノーズダイブを抑制。これがフラット感の向上にも寄与しているのだろう。
今回は雪道での試乗はできなかったが、山坂道でドシッとした安定感が増しただけでなく、アクセルオンでもより素直に曲がってくれた。これはe-4ORCEによる内輪ブレーキ制御の効果もあろうが、「e-4ORCE化によって、重くはなりましたが、同時に前後重量配分も改善したんです」と日産担当者。というわけで、同じe-POWERのハイウェイスターVの前後重量を車検証の軸重表記で比較すると、2WDは56:44、e-4ORCEは53:47だった。
ネットかいわいには、セレナe-POWERの4WDを待ちきれずに他車に乗り換えた日産ファンから「e-4ORCEの用意があるなら、今のセレナが出たときにいってくれよ!」の声もあるが、前記のようにゴーサインが出るまでには試行錯誤があったようだ。いずれにしても、こうしてセレナにだけは新技術を惜しみなく入れてくる日産。この態度が日本市場の戦略全体に感じられたらいいのに……という話は、また別の機会に。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一/車両協力=日産自動車)
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テスト車のデータ
日産セレナe-4ORCEハイウェイスターV(防水シート車)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4765×1715×1885mm
ホイールベース:2870mm
車重:1930kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.4リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:123N・m(12.5kgf・m)/5600rpm
フロントモーター最高出力:163PS(120kW)
フロントモーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)
リアモーター最高出力:82PS(60kW)
リアモーター最大トルク:195N・m(19.9kgf・m)
タイヤ:(前)205/65R16 95Q/(後)205/65R16 95Q(ブリヂストン・ブリザックVRX3)
燃費:16.1km/リッター
価格:413万2700円/テスト車=490万2183円
オプション装備:特別塗装色<利休─リキュウ─(PM)/スーパーブラック2トーン>(8万2500円)/ヘッドランプオートレベライザー+アダプティブLEDヘッドライトシステム+インテリジェントアラウンドビューモニター<移動物検知機能付き>+インテリジェントルームミラー+アドバンスドドライブアシストディスプレイ(12.3インチカラーディスプレイ)+ワイヤレス充電器+6スピーカー+NissanConnectナビゲーションシステム+ETC2.0ユニット+ドライブレコーダー(前後)+プロパイロット(ナビリンク機能付き)+プロパイロット緊急停止支援システム(SOSコール機能付き)+プロパイロットパーキング(55万1100円)/100V AC電源<1500W 室内1個、ラゲッジルーム1個>(5万5000円) ※以下、販売店オプション ウィンドウはっ水12カ月<フロントウィンドウ+フロントドアガラスはっ水処理>(1万4443円)/フロアカーペット<エクセレント>(6万6440円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1047km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:349.2km
使用燃料:29.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:11.8km/リッター(満タン法)/12.8km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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