日産エルグランド250 Highway STAR 7人乗り(FF/CVT)【ブリーフテスト】
日産エルグランド250 Highway STAR 7人乗り(FF/CVT) 2010.10.21 試乗記 ……414万7500円総合評価……★★★★
新たな3代目に「キング・オブ・ミニバン」復権をかける、「日産エルグランド」。その実力を、売れ筋の2.5リッターモデルで試した。
細かい“詰め”を残すのみ
乗り込んだ瞬間、「うわっ、前が見えない!」 ミニバンは大きくなるほど運転席が高くなる。遠くはよく見えても、直下が見えない。大型トラックなどにありがちな、交差点左折時の巻き込み事故が起こるのも、この前方直下が見えないからだ。
そこで、カメラの映像を駆使して、左側方と前方をスクリーンに映し出すようになっている。確かにこれはありがたい装置ではあるが、動き出すとすぐに消えてしまう。常時モニタリングしたいもので、10km/hといわず、せめて20km/h程度までは機能してほしい。
最近は、信号で停止する際、車間距離を詰めないで冗長に前をあけて止まるクルマも多く、「後方までの流れを考えない、だらしないドライバーが増えている」などと感じていたが、その理由のひとつは、この手のクルマの前方直下の視界に不安があるからだ。この点において、「日産エルグランド」には意識こそあれど、まだ努力が足りない。
詳細は後述するが、クルマとしてのハード面は、よくできている。基本的な乗り心地は重量級らしい、フラットでどっしりと落ちついたもの。操縦安定性もサイズのわりに取りまわしに優れ、曲折部でも安定性は高い。動力性能も上々で、2トン近いボディを遅滞なく運ぶ。4気筒の2.5リッターエンジンは、CVTのおかげもあって、燃費がいい。今回のテスト距離276.5kmの総平均で、7.0km/リッターも走った。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
デビューしたのは、1997年。1999年8月に「キャラバンエルグランド」「ホーミーエルグランド」が統合されて「エルグランド」となった。
国産最上級ミニバンの代表的な存在で、トヨタの「アルファード/ヴェルファイア」が主なライバル。2002年5月に生まれた2代目を経て、2010年8月にフルモデルチェンジ、3代目にバトンを渡した。
代々、威風堂々とした押しの強い外観やくつろげる室内空間がセリングポイント。当初は基本の駆動方式をFR(フロントエンジン、リア駆動)としていたが、現行型となる3代目はFF(フロントエンジン、フロント駆動)に変更。重心の低下などで走りに磨きをかけつつ、快適装備のレベルアップを図った。
(グレード概要)
ラインナップは、大きく分けて2.5リッターモデル(307万6500円〜366万4500円)と3.5リッターモデル(385万3500円〜464万1000円)の2種類。それぞれに、7人乗り仕様と8人乗り仕様、FF車と4WD車が用意される。
テスト車は、2.5リッターモデルの「250 Highway STAR」。2列目シートをキャプテンシートとした7人乗り仕様である。最も廉価な「250XG」より上位のグレードで、前後のエアロバンパーやクロームモール付きのサイドシルプロテクター、上質なシート地、18インチホイール(250XGは16インチ)などが特徴となっている。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
どちらかといえば、「官公庁仕様の高級セダン」感覚で地味に処理してあり、ファミリーカー的な広々とした解放感はない。シフトレバーの動きが前後というより上下になるほど切り立った形状のインストゥルメントパネルは、前後方向のスペースを取らないため、前席左右方向のウォークスルーを容易にする。カーナビゲーションシステムを含め液晶画面は見やすいが、車体の前方直下を見るためのカメラモードなど、頻繁な操作を要するものの使い勝手はあまりよくない。
(前席)……★★★
シートは、サイズもたっぷりしており、横Gに対するホールドもまずまず。座面後傾角は写真でみると適切に見えるが、クッションの硬さ配分は中央部が柔らかいタイプで、奥までキチンと掛けても次第に腰が前にずれてきてしまう。これが疲れる原因。背もたれが上体の重さを分散しにくいから、重みは腰に集中し背中が曲がってくるのだ。
横方向や後方にウォークスルーできるのは便利。
(2列目シート)……★★★
スライド量が大きく、空間的にはたっぷりした余裕がある。2脚のキャプテンシートには十分なスペースが割かれたうえ、3列目へとウォークスルーできる通路もある。左右両面スライドドアも、このクラスならでは。シートそのものの座り心地は前席と変わらない。前席と同じ理由で、こちらも後傾角をもっと深く調整できれば、オットマン機能もより生きてくる。オプションで大きな画面のリアエンターテイメントシステムも選べる。最近では、サンルーフよりTVモニターの方が喜ばれるのだろう。
(3列目シート)……★★★
場合によっては、3人掛けられるスペース。2列目シートを前に押しやってここでゆっくりくつろげば、運転手に話を聞かれることもない。さすがにこのクラスのミニバンは、前後室内長の長さを実感できる。シート形状や構造は前の2列と考え方が変わらず、どちらかといえば応接間タイプ。
バン形状のボディでありながら、こもり音などは少なく、総じて室内は静粛だ。一方、後ろのスペースは少なめ。リアウィンドウまでの距離は、それほど長くない。
(荷室)……★★
独立したトランクスペースとしては、ミニマム。3列目の背もたれで区切られた、傾斜した空間がその主たるもので、ハッチバック車と同じような感覚だ。フロア面積そのものも小さい。それでも、旅行などの際には車内に荷物が置けるから、さほど問題にはならないのだろう。リアのハッチは、大きさと重さ、さらにクルマの価格帯を考えると、なんらかの開閉アシストが欲しいところ。
![]() |
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
2トン近い重量ながら、CVTのギア比が広範囲をカバーすることもあり、2.5リッターの排気量でも動力性能的に不足を感じない。4気筒エンジンのアイドル振動も、高回転まで回した時の音も、よくチェックされている。上級グレードに載るV6エンジンがもつ余裕など、欲を言えばきりがないが、燃費を考えるとこれで十分と納得できる。山間部での登坂でもガンガン登るし、下りのエンジンブレーキも不足ない。実際の燃費は、予想を超えた。
![]() |
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
大きく重いという特性を生かした(=位置エネルギーを利した)乗り心地は、重厚にしてフラット。ダンピングもよく、大きくあおられる状況でも、姿勢変化は少ない。ハーシュネスは、ややバネ下の重さを隠しきれないが、不満は少ない。乗り心地は座席間であまり差がなく、全体的に好印象。ハンドリングについては、低速ではよく切れる小回り性に感心する。中高速時はロールも気にならず、横Gに対してタイヤに頼りすぎる感覚もなく、比較的穏やかなヨーの発生に終始する。
(写真=高橋信宏)
【テストデータ】
報告者:笹目二朗
テスト日:2010年9月15日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2010年型
テスト車の走行距離:4353km
オプション装備:カーウイングスナビゲーションシステム+11インチ大型ワイドモニター後席エンターテイメントシステム+アラウンドビューモニター+ステアリングスイッチ+エルグランド専用チューニング地デジ4ダイバーシティアンテナ+ETCユニット(64万500円)/ワンタッチオートスライドドア(運転席側)(7万3500円)/特別塗装色オーロラモーヴ(5万2500円)
タイヤ:(前)225/55R18(後)同じ(いずれも、ヨコハマ・デシベルE70)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(6):山岳路(2)
テスト距離:276.5km
使用燃料:39.48リッター
参考燃費:7.0km/リッター

笹目 二朗
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。