第15回:四国で見つけたエンスーたち
2010.10.18 ニッポン自動車生態系第15回:四国で見つけたエンスーたち
陰の部分だけではなく、四国にはモータリゼーションの光の部分がたくさんあった。今回は、歩きながら探した四国のエンスー風景を紹介しよう。
拡大
|
拡大
|
拡大
|
エンスーよ、地方をめざせ
「クルマ道楽を極めたいなら、地方に住むべきだ」「エンスーよ、地方をめざせ」。などと、だいぶ以前、自動車専門誌『NAVI』で提唱していたものである。
土地が高いがゆえに、昔から愛好しているクルマを大事にとっておきたくてもお金がかかる首都圏や都会よりも、地方の方がずっと古いクルマをとっておきやすい。地価は安いし、使っていない空き倉庫や納屋なんか、結構簡単に探すことができる。
ちょっと年式の古いクルマを首都圏の渋滞の中で走らせても、面白いことは何もない。エアコンなどないから夏は暑いし、エンジンはオーバーヒートする。ともかく都会に住んでいると、純粋に趣味としてクルマを愛するのは、かなりの忍耐と努力、そして費用を代償として払わなくてはならない。
それに比べるなら、地方はずっといい。特に大きな都市圏から離れた山間部や農村地帯なんか、ちょっとエンスー風なクルマに似合っている。交通量はどこもそんなに多くないし、あまりバリバリ飛ばすクルマもなく、みんなのんびり走っている。あまり機械をいじめないで、のんびり心地よく走れる道はたくさんある。
自然に恵まれ、きれいな空気に包まれた中で、長い年月愛しているクルマを気持ちよく流すには、やはり地方はいいのだ。
|
拡大
|
拡大
|
拡大
|
クルマ好き同士のつながりが深くなる
地理的条件以外にも地方エンスーの利点はある。地方都市や村などにある古くからの工場など、すごく面倒見がいいところが多い。都会の自動車工場のように専門化されていないから、これまで軽自動車から大型トラック、農耕機まで何でも引き受けてきたところが多い。そういうところは、古いクルマが入ってきても、なんとか努力して対応してくれるベテランの職人さんがいたりするのである。
たしかに昔はパーツ難や情報が足りないなどというハンディがあったが、これこそインターネットのおかげで、世界中から修理情報、パーツ在庫情報が手に入るし、それをネットで簡単に購入できるようになった。だから、どこに住んでいようが不自由はしない。
それとクルマ好き人間同士の結びつきが、都会よりもずっと深く、あたたかいものになるように私は思う。東京あたりで観察していると、往々にして古いクルマや珍しいクルマのオーナー同士の間では、妙な派閥意識が生まれやすいものだ。また競争意識が高まりやすいのも知っている。
古いベントレーやブガッティの世界はともかく置いておいて、ちょっと古い国産車や、数が少なくなりつつある輸入車を大切にしていると、地方では近くの同じようなクルマを持っている人とどんどん親しくなるように思える。というか、同じ苦労を共にしようという意識が、都会よりも生まれやすいように思える。
だから昔、「エンスーは地方をめざせ」と雑誌で訴えたのだ。
クルマと人との楽しい関係
四国を歩いているときも、結構、楽しそうな自動車生活を見ていた。ここまでの連載で取り上げたように、必ずしも日本のモータリゼーションをめぐる暗い問題ばかり考えていたわけではない。クルマと人との、気持ちがいい結びつきも、心から楽しんで観察しつつ歩いていた。
そういえば村上春樹の『海辺のカフカ』にも、古い「マツダ・ロードスター」で、松山から高知県境の深い森を何度か走るシーンがあったが、四国のあちこちで少し前のクルマがたくさん見られた。現役で使われていたクルマもあったし、長年同じ場所に放棄されたままのクルマもあった。
クルマを人生の友として愛してきた生活の良き面が、まだここのあちこちで散見された。それはそれで歩き遍路から見ても、とても心地よい風景だった。
(文と写真=大川悠)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
-
第12回:高速道路を考える(その2)〜道路は幸せを運ぶのか? 2010.9.27 有効に使われていない高速道路でも、人々を幸せにすることがある。そんなことまで感じた四国の旅だったが、道路は必ずしも幸福を運んでくるとは限らない。
-
第11回:高速道路を考える(その1)〜北高南低の四国の道路 2010.9.20 初めて四国を歩いて驚いた。あちこち、山を切り崩して高速道路が建設中なのだ。民営化、景気高揚のための無料化など、日本の高速道路がさまざまな問題を提示しているのと微妙に関係しながらも、四国の道路工事は進んでいる。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。
