第11回:高速道路を考える(その1)〜北高南低の四国の道路
2010.09.20 ニッポン自動車生態系第11回:高速道路を考える(その1)〜北高南低の四国の道路
初めて四国を歩いて驚いた。あちこち、山を切り崩して高速道路が建設中なのだ。民営化、景気高揚のための無料化など、日本の高速道路がさまざまな問題を提示しているのと微妙に関係しながらも、四国の道路工事は進んでいる。
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高速道路網から見放されていた四国
今、四国各地は高速道路建設のまっただ中にある。特に南西部の愛媛県や高知県では、山を削り、谷を越し、市街地近くにはインターが生まれつつあるなど、あちらこちら工事現場だらけである。それを見ると、誰もが複雑な気持ちを抱くだろう。少なくとも私は、かなり気になった。
思い起こすと、比較的最近まで、四国は高速道路網から本当に見放されていた。1990年代頃、何度か仕事で四国の取材をしようと思ったことがあるが、自動車移動ではあまりにも時間がかかるので、断念したことが多い。大変失礼ながら、四国というところは、少なくとも高速道路網に関しては、北海道や九州に比べても遅れていて、一種のへき地のようなものだった。
ちょっと古いが、手元に1989年発行の日本地図がある。これを見ると東北道はとうに青森と八戸までつながっている。北海道でも津軽海峡の松前から札幌を越えて旭川近くまで延びているだけでなく、釧路や知床半島周辺でも高速道が何カ所か開通している。中国道からは関門海峡を越えて、高速道路が九州の長崎県や熊本県まで延び、宮崎、鹿児島一帯の南部もかなり結ばれている。
ところが四国だけは、この高速自動車道路の恩恵から、ひどく見放されている。たしかに1985年、淡路島から四国を結ぶ鳴門大橋は開通した。だが、淡路島の反対側は本州につながっていなかった。そして1988年には瀬戸大橋が完成した。これによって四国の土地は、初めて本州と結ばれた。それこそ四国の人々が明治時代から、いや多分もっと大昔から願っていた本土につながる道がやっと実現した。
地図から見えてくる四国の状況
だが、橋は四国に来ても、そこから先は長いことまともな道がなかった。鳴門大橋も瀬戸大橋も四国の土地につながったところまでで終わりになり、そこからは高速道路はなくなって一般道となるという状態が、かなり長いこと続いた。
本当に、四国は高速道インフラから、長い年月にわたって見放されていたのである。
理由はいくつか挙げられる。道路建設投資に見合う需要が見いだせなかったとか、他地域に比べて高速道路の経済的必然性が低く、利用料による収益性が期待できなかったからとも言える。さらには、道路誘致にはじまり、建設と維持を取り巻く利権の構造によって、かなりゆがめられていたことも否定できない。たとえば、前述の二つの橋の他にさらにもう1本の橋が追加されたにも関わらず、四国内の道路建設は大きく遅れていたということなどは、その象徴の一つである。
四国と本州を結ぶのに、巨額な投資をして3本もの路線を作る必要があったのか? それもあの場所が正しかったのか? その論議がきちんとされないままに、空前の巨大な建造物は短期に建築された。それにも関わらず、そこから実際に四国の隅々にまできちんとした道がつながるには、恐ろしく長い時間がかかっている。
四国の高速道路網を地図で眺めていると、長い年月、この島が抱えてきた地域的、経済的、そして政治的な状況がなんとなく浮き上がって見えてくる。四国内の高速道路は、今なお、偏って存在している。
たしかに1980年代末期に比べるなら、この20年間で急速に高速道路が建造された。ひょっとしたら四国では、日本のどこの地域よりも大急ぎで作られてきたのかもしれない。それも2001年に道路公団が民営化されることが決まり、2005年に経営移行されるまでの間に、怒濤(どとう)の勢いで企画され、突貫工事で建設されたような疑問すら受ける。
より豊かな地域から優先的に作られる高速道路
それでも、今も相変わらず四国の道路は偏っている。はっきり言うと、北と南で大きな格差ができている。
比較的経済活動が盛んで、本州とも近い、瀬戸内に面した北の香川県と愛媛県では、そこを横断する高速道路はかなり早い時期に完成しているのに対し、徳島県はその瀬戸内側産業発達地域と山間部を結ぶ道はあるものの、南に向かう道路は完全に遅れている。もっとひどいのが南端部の高知県で、瀬戸内から山を越えて高知県内にやっとたどり着いた高知自動車道は、高知市内から50kmぐらいだけ西に向かった須崎で、もう途切れている。
四国で見る限り、高速道路は明快に北高南低で、これはそのままこの島の経済発展状況、県民所得、そして人口密度を反映している。要するに高速道路というものは、より豊かな地域に、まず優先的に建設されるということを、残酷なほど示している。
これはこれで間違いではない。もともと道路そのものが、いや交通システムそれ自体が、まず人口が多く経済活動が盛んな地域を結ぶために生まれてきている。でも言うまでもないが、現代の、少なくとも文明国家、先進国を標榜(ひょうぼう)している国なら、もうその段階は過ぎていて当然だろう。
経済のためだけに、それに貢献する流通のためだけに道路があるのではない。道というのは基本的に、異なった社会や文化を結びつけ、それぞれの社会に住んでいる人たちの生活向上に利し、より文明性を高めるために存在していることは今更説明するまでもない。ただしその場合、莫大(ばくだい)な税金を注ぎ込んで、野山を切り開き、立派な自動車専用の高速道路を建設する必要があるか否かは、実はまったく別の問題である。
この四国の高速道路状況は、きちんと見直さなければいけない。そして高速道路と地元の関係を、経済効率の観点だけでなく、さまざまな面から考え直さなければいけない。
国道以外にまともな交通機関がほとんどなく、外の社会から大きく隔絶されたような高知南部の海岸を、虫のようにゆっくりと歩きながらそう思った。
(文と写真=大川悠)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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