売れて当然!? “第4のクラウン”「トヨタ・クラウン エステート」の商品力に迫る
2025.04.09 デイリーコラムじつはトヨタの最上級SUV
この2025年3月13日、“第4のクラウン”となる「クラウン エステート」が、ついに発売された。クラウンは今回の16代目で、何世代も続いた伝統的セダンから脱却して、各カテゴリーのフラッグシップを4機種そろえるシリーズとなった。
ただ、クラウンの歴史を振り返ると、単一車形の4ドアセダンのみのラインナップだったのは、じつは1955年に発売された初代と、先々代と先代にあたる14代目と15代目のみ。それ以外の世代では、セダンに加えて「ステーションワゴン」や「バン」、あるいは「4ドアハードトップ」に「クーペ」、そしてときには上級の「マジェスタ」など、時代に合わせた多様な選択肢があった。
新型クラウンで最後発となるエステートは、別格の「センチュリー」や本格オフローダー系の「ランドクルーザー」を例外とすれば、国内向けトヨタブランドSUVとしては、最大サイズにして最高級モデルとなる。4930mmという全長は同じクラウンの「クロスオーバー」とならんで、トヨタの国内の乗用車設計=モノコック車体構造のSUVで最大。635万円~810万円という価格帯もトヨタブランドのSUVでは最高レベルだ。すなわち、クラウン エステートは、トヨタブランドの事実上の国内フラッグシップSUVというべき位置づけである。
お気づきの向きも多いように、クラウンに「エステート」が用意されるのも今回で2回目だ。“初代”のクラウン エステートは、2代目クラウン(1962年発売)から連綿と続いていたステーションワゴンモデルの後継機種として、1999年12月に発売された。その後はステーションワゴン自体の人気低下とSUVの台頭もあって、初代クラウン エステートが2007年6月に生産を終えると、クラウンのステーションワゴンの歴史はそのまま幕を閉じた。その代替ニーズは「ハリアー」などで吸収する見込みだったと思われるが、トヨタの顧客にとってクラウンの名はやはり特別。販売現場には「荷物が積めるクラウンがほしい」という声も、それなりに届いていたと想像される。
日本車ではレアなサイズ感
というわけで、新型クラウン エステートである。さすがのクラウンも従来どおりの国内専用商品では4種類ものバリエーションは用意できなかっただろうが、そこはクラウンをグローバル商品に脱皮させて、生産規模を拡大することで実現した。実際、このクラウン エステートも、すでに「クラウン シグニア」の名で北米で販売されている。
繰り返しになるが、新型クラウン エステートの全長は4930mm。この数値は「レクサスRX」のそれよりさらに大きい。トヨタ以外に目を向けても、これより大きな国産モノコックSUVは全長4990mmの「マツダCX-80」くらいしかない。
そんな新型クラウン エステート最大の売りは、大きな全長を生かした広く機能的な荷室だ。5人フル乗車状態でも荷室前後長は1070mmという。大人5人がしっかり座ったときに、荷室前後長が1mを明確に超える国産モノコックSUVも、クラウン エステート以外にはレクサスRXと(サードシートを収納した)CX-80、あとはぎりぎりで「RAV4」くらいだ。
もっとも、「スバル・レガシィ アウトバック」や同じスバルの「レヴォーグ/レヴォーグ レイバック」、そして「マツダ6ワゴン」も、フル乗車時の荷室前後長が1m超だが、これらはステーションワゴンとして設計されているし(アウトバックも基本デザインはほぼステーションワゴン)、このうち現在も国内で新規注文が可能なのはレヴォーグだけである。つまり、これだけの大きな荷室をもつ国産車はそもそも貴重なのだ。
さらに、クラウン エステートは後席を倒すと段差のないフラット空間となるだけでなく、前席背もたれとのスキ間を埋める延長ボードも装備して、後席を倒した際の最大荷室前後長は大台の2mに達するという。これを明確に上回る最大荷室前後長をもつのも、やはりCX-80しかない。
競合するガイシャより割安
それでいて、1620mmとSUVとしては低めの全高で、どことなく初代クラウン エステートに通じる伝統的ステーションワゴンの雰囲気も漂わせる。しかも、英国の某高級SUVを思わせるデッキチェアやデッキテーブルを用意。大柄な成人男性でも余裕ある車中泊や、ちょっと優雅なピクニックといった用途も想定して、プチ富裕層や趣味人の心をくすぐる。これも既存の国産車にはないポイントだ。
いずれにしても、新型クラウン エステートは「BMW X5」や「メルセデス・ベンツGLE」「ボルボXC90」「ディスカバリー」、そしてレクサスRXといった、高級アッパーミドルSUVに対抗できるサイズや機能性を確保している。それでいて、2.5リッターハイブリッドの「Z」で635万円、同プラグインハイブリッドの「RS」で810万円という本体価格は、トヨタブランド車としては国内最高額に近いが、競合車と比較すると明らかに割安というほかない。
まあ、より立派な体格でサードシートまで備わるCX-80は、プラグインハイブリッドでも本体価格で639万1000円~712万2500円だから、さらに割安感がある。しかし、“クラウン”という日本人の深層心理までしみ込んだ高級イメージを含めると、クラウン エステートも売れるんだろうな……と思ったら、大半の販売現場では早くも事実上の受注停止状態で、一部店舗で「RS」の受注枠がわずかに残っている程度とか。
近年の国内向けトヨタ(の自社生産)車は、大半が供給不足というほかない。コロナ禍のときのような極端な部品不足は解消しているそうだが、ハイブリッド用電池など、すべてが思うがままに調達できるわけでもないらしい。また、昔のように生産ラインを臨時に増やして、不眠不休で大増産なんてことも、緻密かつ複雑に構築された現代の生産システムではむずかしくなっている。それに、「つくったぶんは(値引きにも頼らず)きっちり売れ切る」という今の状況は、じつは企業経営環境的には悪くなく、トヨタ自身がそれを是(ぜ)としているフシも……と思ってしまうのは筆者だけか。いずれにしても、トヨタの新車がほしいなら、とにかく情報収集にいそしんで、受注開始(あるいは再開)ドンピシャのタイミングで動くしかない?
(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車、向後一宏/編集=関 顕也)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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