GRとレクサスから同時発表! なぜトヨタは今、スーパースポーツモデルをつくるのか?
2025.12.15 デイリーコラムやらなきゃ、途絶える
それはトヨタ流の「式年遷宮」なのだそうで。
式年遷宮というのは伊勢神宮や出雲大社などで定期的に(伊勢神宮は20年ごと、出雲大社は60年ごとに)社殿の建て替え・改修を行うこと。それには建物の老朽化に対応するだけでなく、宮大工の技術を次世代へと継承するという目的もあるのだとか。トヨタがそれをやろうというのだから、興味深い。
といっても、トヨタが神社をつくるといった話ではない(交通安全祈願のためのお寺はすでに建立しているけれど)。特別なクルマの技術を絶やさないために“式年遷宮”をやろうというのです。
その車両こそが、2027年の発売が予定されているV8ツインターボエンジン搭載のスポーツカー「GR GT」や、そのレース仕様「GR GT3」、そしてエンジンは積まずにBEV(バッテリー式電気自動車)となった「レクサスLFAコンセプト」。それらを世界初公開するにあたり、トヨタはそれらの開発を式年遷宮と表現しているのだ。
これらの先輩にあたる初代「レクサスLFA」がデビューしたのが2009年末。そして生産を終えたのが2012年末。つまり開発時期は15年以上前。開発の中心となったエンジニアの多くは定年を迎えたりそれを意識する世代となっているわけで、せっかく構築した技術やノウハウをいま次世代に継承しておかないと失われる可能性だってある。そこで式年遷宮の実施=技術の伝承というわけなのだ。
かつての「悔しさ」が育んだクルマ
何を隠そう、トヨタには技術の継承がうまくいかなかった前例がある。「GRヤリス」に搭載された4WDシステムがそれだ。トヨタにとっては1994年2月にデビューした「セリカGT-FOUR」の最終型以来約25年ぶりのスポーツ4WDであり、いざGRヤリス用にスポーツ4WDを開発しようとしたところトヨタ社内には詳しいノウハウを知る人がいない“ロストテクノロジー”となってしまっていたのだとか。そのため開発は「スポーツ4WDとはなにか?」から研究する必要があり、多くの時間を要したという。
その失敗を繰り返さないために、初代LFAのノウハウを後世に受け継ぐため、高性能スポーツカーの開発は式年遷宮によって技術とノウハウを失うのを防ごうというわけ。さすがトヨタである。
一方で、今回発表された3台のモデルには、別の側面からもストーリーがある。それは“悔しさ”だ。
具体的には2つの悔しさがあるという。ひとつは、14年前に(さまざまなプレミアムカーが披露される)アメリカの自動車イベントで「レクサスはつまらない」と言われて悔しい思いをしたこと。そして、トヨタ自動車の現会長である豊田章男氏が、かつてドイツの過酷なサーキットであるニュルブルクリンクで運転の訓練を行っていた時、当時のトヨタにはニュルで速さを争うようなクルマがなく、追い越されるばかりで悔しい思いをしたこと。それら2つの悔しさが今回の3台へ続く道筋をつけたことが、お披露目のスピーチで明らかにされた。
一般的に、こうした初披露の場でネガティブな話が出ることはまれだけど、今のトヨタはそれを避けようとしない。“悔しさ”とはそれだけトヨタやレクサスを語るうえで外せないエピソードであり、今回発表された3台は同社にとっては“悲願のクルマ”にほかならないということだろう。
「もう二度と退屈なクルマはつくらない」
そんな豊田章男氏の決意は、彼が背負った十字架なのかもしれない。そしてニュルの24時間耐久レースをはじめとする、市販車ベースの車両で戦う世界各地のレースにおいて、クラス優勝ではなく総合優勝を狙えるGT3規格のモデル、GR GT3もまた、トヨタやそのスポーツブランドであるGRにとって悲願の達成といっていいだろう。
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未来を見据えたラインナップ
ところで筆者にとって予想外だったのは、そんなGR GTと次期LFAとの関係である。今回は、ジャパンモビリティショー2025などで公開済みだった「レクサス・スポーツコンセプト」がレクサスLFAコンセプトの名で公開され、次世代のLFAになることが明らかにされたわけだが、そのパワートレインは、前述のとおりモーター。GR GTと技術的な共通点の多いシャシーを使いつつ、エンジンではなくモーターを組み合わせたモデルということが発表されたのだ。
LFAといえば初代はV10エンジンを積んだモデルだったが、2世代目はまさかのBEVへと、かなり大きな路線変更。この事実を消化するのに長い時間を要する人も多いかもしれない。しかしエンジンを求めるのであればGR GTを選べばいいわけで、レクサスに関してはBEVもアリではないかと筆者は思う。
「走りから得られる感動は、時代が変わってもスポーツカーの魅力を支え続ける揺るぎない価値」とレクサスがあえて説明するくらいなのだから、きっと動力性能だけでなく、エモーショナル性にも自信があるのだろう。その一例として、走行音は「高回転型エンジンの音」を演出し、段付きを再現した疑似的なトランスミッション制御も盛り込まれているようだ。
話をGR GTに戻すと、筆者が驚いたのはエンジンだ。排気量4リッターのV8ツインターボエンジンをフロントミドシップとして積むわけだが、まずはその搭載位置の低さにうなる。段差で地面に擦りそうなほど低い。そしてV8とは思えない小ささも衝撃だ。本当に小さくつくられている。この2つは、低重心&軽量化として基礎運動性能の向上に大きく貢献しているに違いない。
エンジンはボア87.5mm×ストローク83.1mmのショートストローク型で、それは高回転に強いというメリットがある一方、低回転トルクが薄くなりがちというデメリットもある。しかし、モーターを組み合わせてトルクを補うことを前提に、あえて高回転型のエンジン特性としたというのが真相だろう。ハイブリッドは、燃費ではなく速さのためなのだ。
ところで逆算すれば、このエンジンの開発が始まったのは世の中が「BEVこそクルマの未来。エンジンはオワコン」という空気感に満ちていたタイミングとなるはずだ。そんな逆境のなかで超ハイパフォーマンスエンジンの開発を決断したトヨタの決断力は恐るべしとしか言いようがない。そして同時にBEVも用意するというマルチパスウェイ作戦も見事なもの。その決断力と、未来を読み間違えまいとする先読み能力の高さこそがトヨタの強さではないだろうか。高性能スポーツカーの発表を見て、ふとそんなことを思った。
(文=工藤貴宏/写真=webCG/編集=関 顕也)
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工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。
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