トヨタ・クラウン エステートZ(4WD/CVT)
絶妙なつくり分け 2025.06.09 試乗記 「トヨタ・クラウン」の3年がかりのモデルチェンジがついに完了。大トリを飾る「エステート」は大容量のラゲッジスペースが特徴となっており、シリーズで一番遊べるクルマといえるだろう。ハイブリッドパワートレイン搭載の「Z」グレードをドライブした。ちょっとだけパワフルなエステート
16代目となるクラウンが4車種まとめて発表されたのは、2022年7月のこと。同年秋にまずは「クロスオーバー」が発売されて、翌年秋には「スポーツ」と「セダン」(商品名は素のクラウン)が登場。最後のエステートも2023年度内の発売予定とされたが、“さらなる車両のつくり込み”を理由とした発売延期やら、例の不正問題に端を発する認証作業の一時休止などもあって、正式発売は最初の公開から約2年7カ月が経過した2025年3月にまでずれ込んだ。そうこうしているうちに、最初のクロスオーバーは一部改良を受けていた。
そんなクラウン エステートの基本メカニズムは、FRベースのセダンを除く、クロスオーバーとスポーツを加えた3台のSUV系クラウンで共通部分が多い。基本骨格はFFベースの上級プラットフォーム「GA-K」を使い、2850mmのホイールベースはクロスオーバーと共通だ(スポーツのそれだけ80mm短い)。パワートレインは全車なにかしらのハイブリッドで、かつ後輪にモーターを追加した4WDとなる。グレード構成も3台共通で、エントリーグレードにあたる「Z」と上級の「RS」の二択。前者のパワートレインは全車ほぼ共通の2.5リッターハイブリッドだが、RSのそれはエステートとスポーツでは2.5リッターのプラグインハイブリッド、クロスオーバーでは2.4リッターターボの非プラグインのハイブリッドとなる。
今回試乗したエステートはZグレード。心臓部はほかのFF系クラウンと同じ2.5リッターハイブリッドだが、先に“ほぼ”共通と書いたのは、エステートだけエンジンチューンが少しだけ強力で、フロントモーターもパワフルなタイプになるからだ。先行したクロスオーバーとスポーツのZのフロントモーターが最高出力およそ120PS、最大トルク202N・mの3NM型なのに対して、エステートのそれはプラグインハイブリッドと共通の5NM型で、182PS、270N・mをうたう。
ヒップポイントが一番高い
ただし、パワーの源となるエンジン性能に大きな差がないこともあり、システム出力そのものは先行した2台から9PS上がっただけだ。また、エステートZの車重はほか2台の同名グレードより100kg前後重いし、背が高くて空気抵抗面でも不利なのか、体感的にエステートが特別パワフルなわけではない。
現行クラウンシリーズにおけるエステートの特色は、既報のとおり、長い全長と背高ワゴンスタイルによる荷室の広さと機能性だ。リアシートバックにフロントシートとのすき間を埋める「ラゲッジ拡張ボード」が備わり、後席可倒時には2mという奥行きの荷室が出現。それはロードバイクやサーフィンのショートボードを軽々と積めるほか、大柄な男性が縦に寝転んでの車中泊も可能な空間である。
また、今回のZではオプションとなるが、某英国の高級SUVを思わせるデッキチェアとデッキテーブルも用意。さらにいうと、その荷室の内張りカーペットも毛足の細い専用仕立てになるなど、なかなかに芸が細かい。実際エステートの荷室を手でなでてみると、サラリした手ざわりが、少しだけ気持ちいい。
また、現行クラウンは乗降性のよさを売りとするが、ヒップポイント地上高は3台で少しずつちがう。最初のクロスオーバーでは“乗降時にかがみ込みもせず、乗り上がりもしないヒップポイント高”として、フロントで630mm、リアで610mmに設定されていた。続く5ドアハッチバックスタイルのスポーツでは、リアもフロントと同じ高さとされて、前後630mmになった。で、今回のエステートのヒップポイント地上高は、前後とも高くなって650mmだそうである。最初のクロスオーバーと比較すると、とくに後席での小柄な人の乗降では“乗り上がり”という動作が少し加わってしまうが、そのぶん乗り込んだときの見晴らしも少し良くなっている。
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古きよき(?)乗り心地
4ドアのクロスオーバーはすでにハイヤーなどにも使われており、いわば新時代サルーンという存在でもある。スポーツはその名のとおり、欧州スポーツカーブランドのSUVを思わせるスタイル自慢。そのなかで、こうした荷室機能や視界性能によるロングドライブに適当なレジャービークル感が、クラウン エステートのキャラクターということか。
すべてのクラウンがこうして世に出ると、個々の商品としてのキャラクターが、乗り味にもきっちりと反映されているところに感心する。開発陣によると、エステートではFRベースのセダンに共通するテイストをねらったそうだが、その仕上がりは“中高年がイメージする伝統的クラウン味の現代的解釈”とでもいいたくなる味わいだ。その柔らかで角が取れた路面感覚には“クッションがいい乗り心地”という昭和時代の表現を思い出す。
ただし、そうやって路面の凹凸をフワリと吸収して、その後の上下動を1発とはいわずとも、ほぼ2発で収束させて、基本的に3発目まで持ち越さないところが、昭和とはちがう現代の技術のたまものだろう。とくに路面が少し荒れた幹線道路や都市高速を60km/h程度で流すときの、45偏平の21インチタイヤとは思えない肌ざわりと豊かなストローク感、そしてじわりと接地し続ける粘りゴシはドンピシャに心地いい。
エステートを含むFF系のクラウンには、車速60~70km/hをさかいに低速側で逆位相、高速側で同位相となる4輪操舵(トヨタでの商品名は「DRS=ダイナミックリアステアリング」)が備わる。柔らかい調律ながらも姿勢変化が小さく、山坂道のアンダー強めのターンインではいかにも鼻の重さを感じさせつつも、最後にはグッと踏ん張ってつじつまが合う……というエステートの所作には、DRSの効果も大きいと思われる。
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まっすぐ走るという安心感
また、上級のRSに電子制御可変ダンパーの「NAVI・AI-AVS」が備わるいっぽうで、Zではアナログな固定減衰ダンパーとなるのも、FF系クラウンで共通する。別の機会に乗ったエステートRSは上下動をほぼ1発で収束させるフワピタ感が素晴らしく、理屈としてはより優秀なフットワークだったが、実際には適度にオツリが残る今回のZのほうがより自然で心地いいと感じる向きもあるだろう。
また、今回のクラウン エステートにかぎらず、最近のトヨタ車で感心するのが、まっすぐ走ることである。昭和風味を残すエステートの乗り心地に素直に感心できたのも、ステアリングに軽く手を添えているだけでピタリと直進してくれるからだ。
こうしたエステートと比較すると、クロスオーバーではより上下動の少ないフラットライドが、スポーツでは俊敏な回頭性が、それぞれのキャラクターに合わせた乗り味ということなのだろう。FRベースのセダンの乗り味はある意味で別格だが、それも含めた4台のクラウンでは、デザインはもちろん、乗り味のキャラクター分けと統一感も絶妙というほかない。エステートに乗って、あらためてそう思った。
とはいえ、発売の早かったクロスオーバーは、4台のなかでは少しツメが甘い……と思わなくもなかったが、そのクロスオーバーの最新版に先日乗ってみたところ、フラットな乗り心地がより熟成されていた。聞けば、クロスオーバーは2024年4月の一部改良で、エステートの開発で新たに得られた知見を、サスペンションにいち早く取り入れているとか。詳細はまたの機会にゆずるが、エステートまですべてそろった今でも、というか今だからこそ「どのクラウンを買うべきか」とお悩みなら、あらためてクロスオーバーにも試乗してみる価値はありそうだ。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=トヨタ自動車)
テスト車のデータ
トヨタ・クラウン エステートZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4930×1880×1625mm
ホイールベース:2850mm
車重:1880kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:190PS(140kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:236N・m(24.1kgf・m)/4300-4500rpm
フロントモーター最高出力:182PS(134kW)
フロントモーター最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)
リアモーター最高出力:54PS(40kW)
リアモーター最大トルク:121N・m(12.3kgf・m)
システム最高出力:243PS(179kW)
タイヤ:(前)235/45R21 95W/(後)235/45R21 95W(ミシュランeプライマシー)
燃費:20.3km/リッター(WLTCモード)
価格:635万円/テスト車=645万0100円
オプション装備:デジタルキー(3万3000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<エクセレントタイプ>(6万7100円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:598km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:588.7km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.2km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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