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オーディオ&インフォテインメント大手のハーマンに見る「車内エクスペリエンスの今」

2025.05.12 デイリーコラム 世良 耕太
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「時代遅れ感」との闘い

「ハーマン」と聞くと、harman/kardon(ハーマンカードン)のカーオーディオを思い浮かべるかもしれない。マークレビンソンやJBLもハーマンインターナショナルが保有するブランドだ。自動車メーカーに供給するカーオーディオの分野ではシェア1位だそうで、2025年5月6日にはデノンやBowers & Wilkinsを擁するサウンドユナイテッドグループのコンシューマーオーディオ部門買収も発表した。エンドユーザーの目にブランド名が触れることはないが、ハーマンはディスプレイやメーターなどコックピットまわりに用いる車内空間の技術を幅広く手がけている。インテリジェントコックピットに分類される分野もシェア1位なのだそうだ。

そのハーマンインターナショナルが製品体験イベントを開催した。本来は自動車メーカーに自社の技術やサービスを売り込むイベントである。ハーマンは2017年からサムスン電子の傘下に入っており、サムスンが持つコンシューマー製品やサービスを車載化して自動車メーカーに提案している。代表取締役の桑原拓磨氏は、「テクノロジーソリューションプロバイダーになりたい」と語った。

横文字で分かりづらいかもしれないが、要するに、自動車メーカーの〝困りごと”を解決する手助けをしたい、ということだ。では自動車メーカーはどんなことに困っているかというと、例えば、開発に着手した頃には最新の技術であっても、発売する頃には時代遅れになってしまう状況である。クルマの開発には通常4~5年かかる。近年はスピードアップが図られているが、それでも年単位の時間が必要だ。

時代遅れ感は特にインフォテインメント系に表れがちで、出たばかりのクルマのはずなのに、ディスプレイは低解像度で、グラフィックは古くさいといったことになりかねない(実際、そういうケースを目にしたことがある)。開発の最終段階で最新の機器やソフトをパッとはめ込むわけにはいかないため、インフォテインメント系は進化のサイクルが速いスマホなどのコンシューマー機器に置いていかれがちになってしまう。

「そうならないようなハード、ソフト、サービスを用意しています」というのがハーマンインターナショナルのセールストークだ。先日、中国の自動車メーカーで働くスタッフは、最新モデルの先進性を筆者に説明するのに、インフォテインメント系機器の処理速度の速さと処理能力の高さを自慢した。デモンストレーションを受ける身からすると、「その機能、本当に必要?」と感じることはままあるけれども、そんな冷めた視線などお構いなしに、機能の種類はどんどん増えていく。アンビエントライトなど必要ないと思っていようがどんどん普及していくし、いまやただ光るだけでなく、ディスコ(ならぬクラブ)よろしく、音楽と連動して光り具合が刻々と変化する時代だ。

1946年のJBL創設からスタートしたハーマン。その後、harman/kardonブランドを加えるなどして1984年にカーオーディオのOEM供給を開始。現在の取り扱い分野はインテリジェントコックピットにもおよび、カーオーディオとともにシェア1位となっている。2025年5月6日には、デノンやBowers & Wilkinsといったブランドの取り込み(買収)も発表するなど、事業は拡大傾向にある。写真はオートモーティブ分野の製品のひとつであるカーブドディスプレイ。
 
1946年のJBL創設からスタートしたハーマン。その後、harman/kardonブランドを加えるなどして1984年にカーオーディオのOEM供給を開始。現在の取り扱い分野はインテリジェントコックピットにもおよび、カーオーディオとともにシェア1位となっている。2025年5月6日には、デノンやBowers & Wilkinsといったブランドの取り込み(買収)も発表するなど、事業は拡大傾向にある。写真はオートモーティブ分野の製品のひとつであるカーブドディスプレイ。
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「レディーディスプレイ」と呼ばれる、OEM供給用のディスプレイ製品。最新の高精細14.6インチモデル「NQ7」(写真手前)は、前型の「NQ3」(同奥)に対して、厚みも抑えられている。
「レディーディスプレイ」と呼ばれる、OEM供給用のディスプレイ製品。最新の高精細14.6インチモデル「NQ7」(写真手前)は、前型の「NQ3」(同奥)に対して、厚みも抑えられている。拡大
製品展示会場でのデモ画面には、先進運転システムがドライバー(筆者)をセンシングする様子が示された。目線(よそ見)だけでなく、現時点での気分やストレスの強弱などもチェックされている。
製品展示会場でのデモ画面には、先進運転システムがドライバー(筆者)をセンシングする様子が示された。目線(よそ見)だけでなく、現時点での気分やストレスの強弱などもチェックされている。拡大
ヘッドアップディスプレイもハーマンの製品のひとつ。表示される情報の種類やデザイン、レイアウトはマウス操作ひとつで変更され、開発が進められていく。
ヘッドアップディスプレイもハーマンの製品のひとつ。表示される情報の種類やデザイン、レイアウトはマウス操作ひとつで変更され、開発が進められていく。拡大
ハーマンインターナショナルの仕事は基本的に「BtoB(企業間取引)」で、カーオーディオ以外は黒子に徹している。そんな同社を率いる桑原拓磨 代表取締役(写真)は、「2030年に向けては、自動車メーカーをはじめとする顧客の仕様書ベースで製品をつくるのではなく、自社製完成品『レディーシリーズ』の提案を進めていきたい」と語る。
ハーマンインターナショナルの仕事は基本的に「BtoB(企業間取引)」で、カーオーディオ以外は黒子に徹している。そんな同社を率いる桑原拓磨 代表取締役(写真)は、「2030年に向けては、自動車メーカーをはじめとする顧客の仕様書ベースで製品をつくるのではなく、自社製完成品『レディーシリーズ』の提案を進めていきたい」と語る。拡大

クルマが静かになればこそ

電気自動車(BEV)はエンジンを搭載するクルマに比べて格段に静かだ。ハイブリッド車(HEV)は電気リッチ(マイルドハイブリッドよりストロングハイブリッド、ストロングハイブリッドよりプラグインハイブリッド)になるほどEV走行の頻度が高くなって静粛性の高い走りの領域が広がるし、エンジンの存在感をなくす方向で開発が進んでいる。

そうなるとますます、車内で音を楽しむ環境が整っていくことになる。音楽はこれまで、乗員全員で同じ曲を聴くのが普通だったが、座席ごとに好みの音楽を楽しむことが技術的には可能になる。車内に「山の落ち着き」をテーマにした鳥の鳴き声や風の音、滝の音を流すことが可能になるし、「大都市のざわめき」をテーマにした街の雑踏やクルマや電車が行き交う音、人々の話し声を流すことも可能になる(音楽とミックスすることも可能)。完全な無音よりも、自然や街なかの音に包まれていたほうがリラックスできる……かもしれない。

BEVはもちろんのこと、HEVは電気リッチになるほど、停車時にエンジンをかけることなく、バッテリーに大量に蓄えたエネルギーで映像を楽しむことができるようになる。自動運転のレベルが上がっていっても同様で、クルマがシアタールームとしての適性を備えていくことになる。ディスプレイはより高画質になり、より高解像度になって、より高輝度になっていく。スマートテレビと同じ位置づけで、YouTubeはもとより、TVerやU-NEXTを楽しむことができるようになる。その他、音楽やゲーム、旅行やビジネスなどのアプリを車内で使えるようになる(し、ハーマンは自動車メーカーが独自にカスタマイズ可能なアプリストアを用意している)。

スマホでできること、家で体験できることを可能な限りクルマの中でもできるようにしていくのが自動車開発のトレンドだ。その手助けをするのがハーマンインターナショナルの自動車事業というわけである。製品体験イベントは、「そうなっていくんだろうな」と普段ぼんやり思っていたことを追認させてくれた。車内インフォテインメントの機能と性能はどんどんリッチになっていく流れで、機能の充実度とスペックがクルマの差別化要素になっていく。好むと好まざるとにかかわらず。

(文=世良耕太/写真=webCG/編集=関 顕也)

BMWのSUVを使った音と映像のデモ。EV時代になると、静粛性の高まった車内において何ができるのかが求められ、必然的にインフォティンメントシステムの重要度が増すという。
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ハーマンは、前後左右それぞれの座席の乗員に対し、個別に最適なサウンドを届ける「シートソニック」なる技術を開発している。写真はその設定画面。
ハーマンは、前後左右それぞれの座席の乗員に対し、個別に最適なサウンドを届ける「シートソニック」なる技術を開発している。写真はその設定画面。拡大
こちらは、「街の音」を聞かせるデモ画面。皮肉なことに、静かな車内で過ごせるようになると、「騒音・雑音がある程度聞こえるほうが落ち着く」というニーズが生まれるのだそう。音質も、街の音のほか交通騒音、人のざわめきといった要素を調節できる。
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自動車メーカーに対し〝各社でカスタマイズできるアプリ用プラットフォーム”も提供するハーマン。「GoogleやAppleのシステムとは異なり、自動車メーカー側にエンドユーザーの情報を伝えることができる」と、SDV時代の強みをアピールする。
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ハーマンが開発する「レディーリンクマーケットプレイス」の対応アプリ一覧。その数は150以上で、今後もどんどん広がっていく見込みだ。
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