日産が母国グランプリを制覇 2年目のEV公道レース「2025 TOKYO E-PRIX」を総括する
2025.06.12 デイリーコラム2年目は2日連続の開催
FIAフォーミュラE世界選手権第8戦、第9戦東京大会、通称「2025 TOKYO E-PRIX」が2025年5月17日と18日の両日、東京ビッグサイト周辺の公道コースで開催された。初開催だった昨2024年は3月30日の土曜日に1レースのみ行われたが、今年は土曜日と日曜日にそれぞれレースが開催された。単純に考えれば集客は2倍、盛り上がりも2倍というわけだ。
昨年は3月末の開催だったが今年は5月の中旬で、屋外イベントに参加するには絶好の気候になるはずだった。だが残念なことに、17日の第8戦は予選が中止になるほどの雨。レースが始まるころには上がったが、スタートディレイと赤旗による中断でレースの終了が予定より遅れ、生放送していたフジテレビの番組は最後まで伝えきれずに終了。関係者はいたく残念がっていた。
悪天候だったことを考えれば、仮設の観客席は上々の入りだった。まだ2回目の開催だったので当然だが、フォーミュラEを初めて見る観客は多かったようで、間近で感じる電動マシンのスピードと音、それに接近戦の迫力に感動する声をたくさん聞いた。幕末に浦賀にやってきた黒船を見た人々が周囲に「すごかった」と言いふらしたように、フォーミュラEを自分の目で見た人たちはきっと、周囲に「すごかった」と言いふらすことだろう(と、いちモータースポーツファンとして期待している)。
好天に恵まれた翌18日の日曜日は絶好のレース日和で、天候も手伝って初レースだった昨年と変わらない熱気に包まれたと、筆者は実感した。
ワンデーで行われる予選とレースのインターバルが3時間以上も空いているのは、その間に「イベントスペースを楽しんで」という意図だと筆者は理解している。ファンビレッジと名づけられた屋内のスペースは、走行セッションがライブ中継されることもあり、加えて土曜日は雨だったこともあって大盛況だった。しかし天気が助けたとばかりはいえず、好天だった日曜日もやはり、大混雑だった。
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日本メーカーの参戦が盛り上げを後押し
飲食スペースも、ゲームを楽しめるエリアも、公式グッズを扱ったショップも、どこも大行列だった。大人だけでなく子供も楽しめるエリアが充実しているのも特徴で、ファンビレッジに隣接した「TOKYO GX ACTION」(脱炭素に取り組む東京都のアクション)のホールも合わせ、「週末のビッグサイトは楽しいことをやっている」ムードに満ちていた。「なんだこの行列は!」と思って確かめてみたら、人気男性アーティストのライブ目当てだった。理由はなんであれ、フォーミュラEを開催している現場に人がたくさん集まるのはいいことだ(と、いちモータースポーツファンとしてそう思う)。
F1やWEC、WRCと並ぶ国際格式の世界選手権に(よく考えれば、四大世界選手権のすべてが日本で開催されているのだ。とても恵まれた環境だと、いちモータースポーツファンとしてそう思う)日本の自動車メーカーが参戦しているのは、TOKYO E-PRIXの盛り上げにひと役買っているのは間違いない。
日産フォーミュラEチームのオリバー・ローランド選手は昨年の大会でポールポジションからスタートしながら、レースではエネルギーをセーブするためにペースを落とさざるを得なかったため、2位でフィニッシュ。日産に母国レースでの優勝をプレゼントすることができなかった。
フォーミュラEはエネルギーマネジメントのレースだ。TOKYO E-PRIXの第9戦では全長2.575kmのレースを32周するのに32kWhの使用可能エネルギーが割り当てられた。バッテリーは全車共通だから、競争力は開発可能なパワートレインの効率が左右する。パワートレインは最高出力350kWのリアモーターとインバーター、ギアボックス(減速機)で構成される。効率が高ければ(言い換えれば損失が少なければ)、そのぶん実質的に使えるエネルギーは多くなり、長時間スピードを維持したまま走ることができる。
日産フォーミュラEチームが今シーズン投入した新しいパワートレインは、効率向上を目指し、日産自動車の西川直志エンジニアが開発を統括(2025年4月に後任にバトンタッチ)。「もし新しいパワートレインを昨年投入していたら、エネルギーをセーブせずに済み勝てた?」という筆者の問いに、「そう思います」と力強く答えた。新しいパワートレインはそれほどの自信作である。
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日産が母国グランプリを制覇
事実、日産フォーミュラEチームのローランド選手は、TOKYO E-PRIXまでの7戦で3勝、表彰台に5度立ち、ポイントランキングで2位に圧倒的な差を築いていた。この成績をみれば、今年のTOKYO E-PRIXに期待するなというのは無理な相談だ。雨の第8戦でローランド選手は先頭からスタートしたが(グリッドはフリー走行2回目のタイムで決められた)、赤旗中断が不利に働き2位で終えることになった。
ポールポジションからスタートした第9戦では一時6番手まで順位を落とすが、規則変更によって4WD化し威力を増したアタックモードを上手に利用してトップの座を奪い返し、ローランド選手は日産に念願の母国優勝をプレゼントした。これで9戦4勝に2位3回。7戦を残した段階で気の早い話だが、自身にとって初の、日産にとっても初のタイトル獲得が視野に入った。ワールドチャンピオンである。
フォーミュラEの母国開催に華を添えたのは、今シーズンからパワートレインサプライヤーとして参戦するヤマハ発動機だ。「想像していた以上に高度なエネルギーマネジメントの勝負をしている。非常に深い世界」と取締役 常務執行役員の丸山平二氏は話した。第9戦ではローラ・ヤマハ・アプトのベテラン、L・ディ・グラッシ
ちなみに、レースの展開をおもしろくする狙いで今シーズン導入されたピットブーストは第8戦で適用された。バッテリー残量が60%から40%の間にピットに入ることを義務づけ、急速充電器で30秒間充電し、3.85kWhのエネルギーを補充する決まり。このピットブーストのタイミングと赤旗中断のアヤでローランド選手は優勝のチャンスを逃した。レース展開を読みにくくする一定の役割は果たしたといえるだろうか。
不思議なもので、「ついに日本でも公道でレースをする日がやってきたのか」と昨年のTOKYO E-PRIXでは大いに感慨深い思いをしたものだが、2回目ともなると当たり前の風景に思えるから不思議で、慣れというものはオソロシイ。大会の実現と継続に向けて奔走してくださった関係各位には感謝しきれない。昨年もそうだったが、2年目の今年も「楽しかった」というのが、偽らざる実感である。
(文と写真=世良耕太/写真=フォーミュラE、日産自動車/編集=櫻井健一)
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世良 耕太
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