第835回:量産型BEV初の“1000km超え”なるか!? 「メルセデス・ベンツEQS」で最長航続チャレンジに挑む!
2025.07.03 エディターから一言 拡大 |
電気自動車(BEV)が特別な存在でなくなった今でも、航続距離や電欠への不安がないとはいえない。市販されているBEVは実際、一度の充電でどこまで走り続けられるのか? モータージャーナリスト石井昌道がロングドライブで検証してみた。
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普通に、サラッっと、どこまで行ける?
東京・羽田空港で朝イチの便に飛び乗り、8時30分に九州の福岡空港へ到着。隣接する駐車場の屋上階で対面した純白の「メルセデス・ベンツEQS450+」は、梅雨前線が一時的に消滅してカラリと晴れ上がった陽光を受けてキラキラと輝いて見えた。まるで、これから2日間で東京を目指すロングドライブをEQS自身もよろこんでいるかのようだ。
今回の試乗にあたり「バッテリー容量が従来の107.8kWhから118kWhとなり、一充電走行距離(WLTCモード)が700kmから759kmへと延びたEQSが、無充電でどこまで走れるか試してみませんか?」という依頼があった。
2000年代中盤から2010年代にかけて公的機関でエコドライブのインストラクターを務めていたからか、たまにこういう依頼を受ける。どういう運転をすれば燃費(電費)が改善できるか、テストコースを含めてさまざまなテスト走行も行ってきたから、限られたエネルギーで走行距離を延ばす方法はわかっているつもりだ。
けれども、交通の流れがスムーズであってこそ全体のエネルギー効率が良好になるのであり、自車だけわがままに振る舞って流れを妨げることがあってはならない、というのもインストラクターが肝に銘ずるところ。それゆえ極端にゆっくり走って周囲の交通に迷惑をかけるなど、“究極のチャレンジ”みたいなことはやりたくない。それを伝えると編集部Sさんは「もちろんですよ。普通にね、サラッと走って、でもこんなに遠くまで来られたんですよ、ということでいいと思います。だから、あまり意識せず、気楽に行きましょ」と和やかに笑う。
ところが、キーを受け取ってコックピットに滑り込み、メーターを確認すると充電量がきっちりと100%になっていた。BEVと付き合ってみればわかることだが、バッテリーは充電量が上限に近づくほど電気が入りづらくなっていくもの。最後の数%を満たすには、けっこうな時間がかかる。この駐車場の屋上階に普通充電器がずらりと並んでいることを調べ上げ、前日から準備して100%にもっていったのだろう。気楽に行こうなんて言われてはいるが、これからステアリングを握る者としては、なんとなく追い込まれたような気分になる。
優れたメカニズムも味方に
準備をしているうちに10時近くになってしまった。今日は大阪に宿泊する予定で時間の余裕はあまりないのでスタートを急ぐ。繊細なアクセルワークがやりやすく、しかもリラックスできるドライビングポジションに合わせて、いざ走りだす。
立体駐車場の屋上階からスロープを下っているときにステアリング左のパドルを1回引くと「強化回生」となってぐっと減速感が強まった。EQSおよびメルセデスのBEVはパドルで回生強度を調整できるのがいい。デフォルトの「通常回生」は一般的なエンジンブレーキ並みで自然な感覚。右を1回引いた「回生なし」はいわゆるコースティングでサーッと転がっていく。もう一度右を引くと「インテリジェント回生」となり、例えば前走車に近づいていくと、車間を保つように自然と回生が強まっていく。
2024年に実施された改良では、この回生ブレーキもアップデートされた。最大減速は3m/s2=-0.306G。-0.13Gになるとドライバーがブレーキペダルを踏まなくてもブレーキランプの点灯が義務づけられているのだから、-0.306Gはけっこうな減速度だ。福岡の街なかで試してみると、いわゆるワンペダルドライブが可能で、ペダルの踏み替えに煩わされることなくスムーズかつ快適に走れた。しかも、メカニカルブレーキをほとんど使わず、減速エネルギーを電力に変換できていることが実感できる。
高速道路にのったら「回生なし」が基本だ。速度を高めるために使った電気エネルギーは、最大限距離を延ばすことに費やしたい。だから無駄な減速を抑えるためにコースティングさせるのだ。アクセルペダルから足を離したときの滑空感が気持ちいい。ドライブトレインなど機械的な精度が高いからだろう。フリクションなどまるでないかのように転がっていく。速度が高まるほどに、タイヤと路面の接触による抵抗とともに、風の抵抗が二次曲線的に高まっていくが、それがBEVの最大の課題でもある。というのもBEVは高速域での電費が良くないとされているからだ。
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まさに“機能美”のフォルム
定速走行での燃費および電費を計測すると、内燃機関車は60km/h程度が最も良好で、それ以上でもそれ以下でも数値が悪化する。低速域は、仕事量としては少ないのに燃費が悪いというのは変な話だが、エンジンは1000rpm以下の低回転域ではトルクが薄く使いものにならないため、トランスミッションで回転を減速させて走らせているからだ。低いギアを使うほどエンジン回転のわりに距離が延びないので、燃費が悪化してしまう。
ところが電気モーターには、0rpmを超えた動き出しから最大トルクを発生できるという強みがある。だからトランスミッション要らずでたいていのBEVは1速しかない。モーターの回転数と走行距離が比例しているから、低速域では電費が良く、速度が高まるほどに電力消費が増える。高速域の電費が良くないというよりも、仕事量=速度に対して素直に電費が変化するというわけだ。
EQSで最も注目すべきは、そのスタイリングおよびそれがもたらす秀逸な空力性能だ。フロントエンドからリアエンドまで弓が弧を描くかのようなワン・ボウ・ライン。BEV専用プラットフォームだからこそ可能になったショートノーズ、ロングホイールベース、そしてキャブフォワードと相まって未来的かつ美しいのだが、これは空力性能という機能を突き詰めた結果にほかならない。空気抵抗は前面投影面積(A)×空気抵抗係数(Cd)で決まるが、車高が低いEQSの(A)は2.51平方mに抑えられ、Cd値は驚異的な0.20。空力性能は間違いなく世界トップクラスだ。カタログのWLTCモード電費値は総合のほかに、市街地モード、郊外モード、高速道路モードとあるが、EQSとその他のBEVを比べてみれば、高速道路モードでの落ち込みがじつに少ないことがわかる。BEVの課題に真っ向から取り組んだ証しでもあるのだ。
福岡をスタートしてから約1時間30分で関門海峡を通過。個人的に国内出張で最も行きたい場所である福岡と早々におさらばして本州に突入する。走行100km時点での電費は8.5km/kWhで残電力は89%。街なかを走っていた時点では7km/kWhだったが高速道路を淡々と走っているとどんどん数字が伸びていく。11%の電力を使って100km走れたということは、WLTCモードの一充電走行距離である759kmは余裕でクリアできてしまうどころか、そこからかなり延びそうだ。この日はきれいに晴れわたっていたが、幸いにして気温はそれほど高くなく、湿度も低くてカラッとしていた。だから、エアコンをオフにして前後の窓を小さく開けていれば苦もなく快適。エンジンなど大きな熱源がないBEVは、それほど車内温度が上がらない。純白のボディーカラーも太陽光をはね返してくれる。
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福岡~東京も走り切れる!?
高速道路で電費を伸ばすには、アップ&ダウンを先読みして回生強度を調節するのが効果的。平たんな道が続くのなら、電費は速度に素直に依存するのでドライバーとしてやるべきことは多くはないが、アップ&ダウンでの速度と回生の調整が肝心になる。
一定以上の下りで「回生なし」にしておくと速度が上がっていく。その先が平たん路や上りになるのだったら、なるべく速度を上げておいて惰性を利用。下りが続き、一定の速度を上回りそうになったら「通常回生」か「強化回生」にしつつ、アクセルペダルを戻しきらないで減速しすぎないように調整する。自然と速度が高まるのだったらもっと転がしてしまったほうがいいのでは? と思われるかもしれないが、走行抵抗が増えるので得策ではない。多少なりとも回生させて電力に変換したほうがお得だ。
そんな走法を続けながら、山口、広島、岡山と通過していくと、電費は上りや下りの影響を受けて変化する。上りが続いて標高が高い地点では8.4km/kWhあたりまで落ち込むが、低い地点では8.6km/kWh、8.7km/kWhと伸びていく。
兵庫に入れば、初日の目的地である大阪はもうすぐだ。個人的に国内出張で2番目に行きたい神戸・三宮に宿をとってくれたらうれしかったのだけれど、そこから30分ほどいった大阪国際空港のホテルが今日の宿なのだという。途中の撮影などに時間がかかり、宿に着いたのは21時30分になってしまった。最終便が21時台のため、ホテルのレストランはすべてオーダーストップを過ぎていたのだった。気楽に行こうと言ったわりには、ヘビーな旅だな。
翌朝は大阪周辺の通勤渋滞を避けるべく5時ロビー集合、5時30分出発。電費は8.9km/kWh、595km走って残電量43%。このぶんだと1000km超えもあるのでは!? 福岡→東京は1000km強なので無充電で帰京できてしまうかもと半分冗談、半分本気で声をかけながらスタートする。
大阪から京都、滋賀と向かっていくと上りがきつい! 滋賀・大津の草津パーキングエリアに着いたときには電費は8.8km/kWhにまで落ち込んだ。なんとなく気分も落ち込んだのだが、国土地理院のホームページで標高を調べてみると143mだった。大阪国際空港が12mでまあまあ上ってきたから電費悪化も致し方ないところだが、この先の鈴鹿山脈では最大300m近くも上る。登坂車線なども使いながら、交通の流れを乱さず、速度を上げすぎずのギリギリのラインで慎重に走りながら、標高の低い伊勢湾岸道に向かって下りで回生をきっちりと効かせていく。すると電費はみるみる伸びていき、伊勢湾岸道の名港付近では9.0km/kWhと今までで最高の数値となった。
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BEVでは初の1000kmオーバー!
新東名に入ってもしばらく上りが続いたものの、標高100mの岡崎サービスエリアでも9.0km/kWhをキープ。比較的に平たんな新東名を淡々と走って静岡サービスエリア(標高102m)に到着したときには9.2km/kWhまで伸びていた。906km走って残電量15%。759kmの“WLTCモード超え”なんて意識する間もないうちに突破していて、本気で1000km超えが見えてきた。でもこの先、予定どおりに東京に向かうと、東名高速の最高標高地点の御殿場を越えることになる。標高を調べると454m! ここまできたら有利なルートを走りたい。そこでいろいろと調査した結果、長泉沼津JCT(標高158m)までは上りを我慢して走りつつ、JCTで東名高速に乗り換えて名古屋方面へ向かえば下り道が続くことを発見。日本平など海が近いところならば標高は限りなく0mに近い。
長泉沼津JCTでは9.0km/kWhまで落ちたが、下りで回復していく。一応の目標であった日本平付近で1000kmを超えた! それでも残電量は7%ある。もう少し距離を延ばして吉田インターチェンジで一般道に下りたときは2%だった。ほど近いところに急速充電器があることは調べていたから心配はない。そこを目指しつつ、ゴールの写真が撮れる場所を探していたら、おあつらえ向けのビーチを発見。1%を残して到着した。
最終的には1045kmを無充電で走破。じつは今回、気楽に行こうと言いつつ「1000km超えたらワールドレコードですよ」と編集部Sさんにささやかれていた。笑顔ではあるものの、目の奥はまったく笑っていないことに気づいていた自分は、交通の流れに気を使いつつ無理のない範囲で頑張って走ったつもりだ。速度の変動が少なく淡々と走っていたから、端から見ればACC(アダプティブクルーズコントロール)を使用しているように見えても不思議はないほどだが、実際には常にアクセルを細かくコントロールしながら効率的な走行をしていたのだ。
頑張って走ったとはいえ、特殊なことは何もない。どれくらいの速度やアクセルワークが効率がいいのかわかっていれば、誰にでもできること。1000km超えを達成できたのは、EQSの類いまれなる空力性能や回生効率の高さゆえなのだ。
(文=石井昌道/写真=三浦孝明、webCG/編集=関 顕也/取材協力=メルセデス・ベンツ日本、ベルエナジー)
市販の電気自動車は一充電で何km走れる? 2日間にわたる大記録への挑戦をダイジェスト動画でリポート!【webCG Movies】
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石井 昌道
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