BSAバンタム350(6MT)/スクランブラー650(5MT)
新章の幕開け 2025.08.23 試乗記 復活を遂げた英国モーターサイクルの名門、BSA。その最新モデルが「バンタム350」と「スクランブラー650」だ。古典的な装いの2台が、ライバルとは異なり水冷DOHCというモダンな技術を搭載する理由とは? 古豪復活の重責を担う、新鋭機の走りを報告する。スイートスポットでありレッドオーシャン
先日、『webCG』のコラムで英国の二輪ブランド、BSAと、同社が再生を期して世に問う2台の新機種、バンタム350とスクランブラー650について解説したが(参照)、実はその取材では、両モデルの走りに触れることもできた。英国・ロンドンで催された発表会のプログラムに、試乗も盛り込まれていたのだ。
コースは英国のバイクカルチャーの新たな発信地であるレストラン&ショップ「Bike Shed(バイクシェッド)」から、郊外のライダーズ/ドライバーズカフェ「Rykas Boxhill(レイカス・ボックスヒル)」までの片道50km。往路/復路でバンタム350とスクランブラー650を、それぞれ試すというものだ。長くはない時間と距離ではあったが、BSAの未来を占う2台の走りを味わえたので、ここではその印象を紹介したいと思う。
まずはバンタム350だ。同車の属する排気量350ccクラスのカテゴリーは、今や世界の二輪車マーケットのなかでも、特にし烈な競争が繰り広げられるレッドオーシャンである。年間販売2000万台を誇るインド市場のボリュームゾーンであり、いまだ購買意欲が旺盛な東南アジア市場でも、販売増が見込めるセグメントだ。いっぽう欧州や北米、日本を中心とする成熟市場では、若い新規ユーザーやダウンサイジング志向のベテランライダーを取り込める、まさに万能カテゴリーなのである。
バンタム350が狙うのは、その後者だ。兄弟ブランドのJAWA(ジャワ)やYezdi(イェズディ)が市場開拓を進めるインドは避け、まずは欧州や北米、オーストラリア、そして日本への導入が予定されている。インドの二輪大手、マヒンドラ傘下で、BSAブランドを展開するクラシックレジェンズ社の共同創業者、アヌパム・タレジャ氏は、「世界戦略を考えた場合、350ccカテゴリーは需要と供給が高いレベルで交差するスイートスポットだ」と語った。
そのスイートスポットでのシェア拡大とともに、成熟市場でのBSAブランドの認知向上という大義を背負った一台が、バンタム350なのである。
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キラリと光る高回転域の伸び
さてそのバンタム350だが、このマシンをひとことで表すと、新生BSAのスタンダードモデルを目指したバイクであった。
走りだしてすぐに感じたのは、奇をてらわないオーソドックスな操作性だ。ひんぱんに渋滞や一方通行に遭遇し、そこここに荒れた舗装路が点在するロンドンの街なかでは、低速で、アチコチ気にしながら、ハンドルを右に左に切るような走行が続く。そうしたなかにあって、バンタム350は自然なライディングポジションと素直なハンドリングでライダーをサポートし、扱いやすい低回転域からの出力トルクによって、スイスイと街を走り抜けていくのだ。3速でタコメーターの針が2000rpm付近をうろつくような走りでも、エンジンは問題なく使えるし、20~30mph(30~50km/h)の速度域でも4速、5速で走っていける。
クラシックレジェンズのスタッフに話を聞けば、バンタム350が採用する水冷単気筒DOHC 4バルブエンジンや、前:18インチ、後ろ:17インチというホイールのセレクトは、スポーツ性より扱いやすさを重視したものだという。今回のような市街地走行の領域であれば、前後サスペンションやブレーキまわりにも、なんの不満もなかった。
いっぽう、6000rpmを超える高回転域では、DOHCらしいエンジンの“伸び”を楽しめる。ようやく開けた郊外の幹線道路でわずかに試せた程度だが、これはぜひワインディングロードに持っていってみたいと思うほどの好印象だった。ライバルの多くが、低回転域での扱いやすく力強いトルク特性をキャラクターの中心に据えているだけに、バンタム350の高回転域での伸びは、個性を主張できる重要なポイントになるだろう。
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排気量652ccのビッグシングルなのに
ランチスポットのレイカス・ボックスヒルで、スクランブラー650に乗り換える。
プラットフォームを共有する「ゴールドスター650」は、驚くほどシートが低く、さらに座面の先端形状を吟味したことから、実に足つき性がいい。そのとっつきやすさは、650cc級の排気量やロードスターというジャンルのイメージを覆すほどだった。いっぽうスクランブラー650は、シート形状を変更したこと、フロントに19インチホイールを採用したこと、前後サスペンションを変更したことなどによって、シート高が820mmに引き上げられた。ゴールドスター650から実に+38mmだ。また幅広で、スタンディングポジションも考慮した垂れ角の小さいスクランブラーハンドルは、グリップ位置が遠くてヒジが開き気味となり、身長170cmの筆者の体格では、シート前方に座ることを強いられる。それもあって、車格以上に車体を大きく感じてしまう。
しかし走りだしてしまえば、その652cc水冷単気筒DOHC 4バルブエンジンの不思議なフィーリングに、筆者は「ちょっと大きいライディングポジション」のことをすっかり忘れてしまった。ここで不思議と評したのは、自分がイメージしているビッグシングルのフィーリングと、スクランブラー650のそれが、大きく違っていたからだ。
単気筒エンジンといえば、等間隔で繰り返されるちょっと大きな鼓動が特徴で、加えて旧車に積まれるビッグシングルでは、牧歌的なエンジンフィールが、今日のエンデューロやモタードに積まれるスポーツ系ビッグシングルでは、過激な回転のピックアップと出力特性が持ち味となる。筆者はこのスクランブラー650も、そうしたエンジンのフィーリングをベースに、ネオレトロなスクランブラーとしてキャラクターを仕上げてくると予想していたのだ。
しかし実際に走らせてみると、このエンジンが実にシルキーだった。ビッグシングルらしいドコドコ感は少なく、またスポーツ系のそれにありがちな、アクセルオンを常に要求してくるようなフィーリングもない。街なかを走るような速度域であれば、どのギアを選択していても、どの速度域からでも、アクセルを開けるとスルスルっと車体が前に進む。もちろん、適切にギアを選んで加速すれば、なかなかに速い。
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水冷とDOHCを選んだ理由
この特性は、当然ながらBSA開発陣が狙ってつくり込んだものだ。エンジンには2つのカウンターバランサーが装備されており、また燃調や点火時期、ギアレシオを吟味して1800rpmで最大トルクの約70%を発生。どこからでもスムーズに加速する不思議な感覚は、そうやってつくり上げられている。この特性を生かせば、ひとつ高めのギアを選んでコーナー出口でアクセルを大きく開け、ビッグシングル特有の“大股な加速”を味わうこともできるだろう。いっぽうオフロードでは、力強いトルクを生かしてリアタイヤを振り出すような走りも楽しめるはずだ。
今回、BSAから発表されたバンタム350とスクランブラー650は、ともにショートストロークの水冷DOHCエンジンを採用している。水冷化によってエンジンの温度管理を徹底し、DOHCならではの幅広いセッティングのなかから、モデルのキャラクターに合ったフィーリングを選び出す。価格や仕向け地の環境規制、求められるパフォーマンスやスタイルなどを考慮しつつ、自分たちが求めるバイクをつくり上げるには、ライバルよりぜいたくな水冷DOHCというテクノロジーが必要だったのだろう。今回の試乗では、そのアドバンテージの一端が確かに感じられた。
(文=河野正士/写真=BSAモーターサイクル/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
BSAバンタム350
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1440mm
シート高:800mm
重量:185kg
エンジン:334cc 水冷4ストローク単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:29HP(21.6kW)/7750rpm
最大トルク:29.62N・m(3.0kgf・m)/6000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:69万8500円
BSAスクランブラー650
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1463mm
シート高:820mm
重量:218kg
エンジン:652cc 水冷4ストローク単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:45HP(33.6kW)/6500rpm
最大トルク:55N・m(5.6kgf・m)/4000rpm
トランスミッション:5段MT
燃費:--km/リッター
価格:117万9200円
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河野 正士
フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。
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