BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.09.05 エディターから一言すべてが新しい電気自動車
BMWが次世代のビジョンを示唆するコンセプトモデルとして発表した「ノイエクラッセ」。まずはセダンの格好で姿を現し、後に「ノイエクラッセX」としてSUV(BMW流に言えばSAV)をお披露目、そしてセダンよりも先に量産型としてドイツ国際モーターショー(IAA)でワールドプレミアされたのが、ノイエクラッセX改め新型「iX3」である。
ちなみにノイエクラッセとは「新しいクラス」。1960年代のBMWはラインナップに小型車と大型車しかなく、そのはざまを埋めるモデルとして「BMW 1500」(=事実上の「5シリーズ」の先祖)が1961年に誕生、1963年に「BMW 1800」に代わって以降は広告などで「ノイエクラッセ」というフレーズを使うようになったといういきさつがある。
実は当時、BMWの経営はかんばしくなく、でもノイエクラッセが大ヒット作となりその危機を救ったともいわれている。BMWの自動車メーカーとしてのポジションを確固たるものにしたノイエクラッセは、BMWの歴史的転換点のモデルでもあり、その名を再びよみがえらせたことになる。つまりそれだけ、新型iX3と来年には登場するセダン(=事実上の新型「3シリーズ」)は、現代のBMWにとって今後の運命を左右するくらい重要なプロダクトなのである。
iX3はプラットフォームもパワートレインもコックピットもOSも駆動用バッテリーもデザイン言語もすべてがまったく新しい電気自動車(BEV)である。パワートレインは「eDriveテクノロジー」と呼ばれ、資料には第6世代とあった。初代から5世代目までがどのモデルを指すのかよく分からなかった自分はBMW広報に問い合わせ、丁寧な回答をいただいた。
初代は2009年にダイムラー/GMと共同開発し「X6」に搭載したハイブリッドシステム、第2世代は2011年以降に登場した「3/5/7シリーズ」のハイブリッド、第3世代は2014年以降に登場したBMW初のプラグインハイブリッド車(PHEV)で当時の多くのモデルと「MINIクロスオーバー」などに搭載された。第4世代は2024年登場の3シリーズのPHEV、そして第5世代は現行のPHEVとBEVのすべて(現行のMINIのBEVと「エースマン」は第5.5世代)を指すという。ちなみに「i3」と「i8」が含まれていないのは、「ドライブモジュール」と呼ばれる専用設計のパワートレインなので別軸の扱いとのことだった。
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セクションごとに独自のコンピューターを搭載
iX3のeDriveテクノロジーはモーターとバッテリー、電子プラットフォームの総称である。モーターはフロントがEESM型、リアがASM型。EESM型は巻き線界磁型同期モーターで、永久磁石を使わないことからレアアースが不要なモーターといわれている。ASM型はBEVでは一般的な非同期モーターである。
システムパワースペックは最高出力470PS、最大トルク645N・m、最高速は210km/hに達するだけでなく、パワートレイン単体でエネルギーロスを40%、重量を10%、製造コストを20%、それぞれ削減した。エネルギー密度の高い(従来比20%向上)円筒型バッテリーの容量は108kWh、800Vの電子プラットフォームでこれらを制御し、航続可能距離は最大800kmと公表されている。充電は400kW出力まで対応可能で、800Vの急速充電を使えば10分で350km分をチャージできる。また、V2L、V2H、V2Gにも対応するそうだ。
iX3はドライビングダイナミクス、自動運転、インフォテインメント、ベーシック&コンフォートの4項目についてそれぞれ専用のコンピューターを搭載し、これらを「スーパーブレイン」と呼ぶ。このうちのドライビングダイナミクスは「Heart of Joy」のコンセプトのもと、パワートレイン、ブレーキ、エネルギー回生、ステアリングなどについて従来比で約10倍の情報処理速度で演算しながら最適なパラメーターを導き出し、ドライバーだけでなく乗員のすべてがBMWらしいドライブフィールを体感できるようになっているそうだ。なお、一般的な走行でのブレーキ操作では、約98%を回生ブレーキのみで制動する。
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伝統と革新が同居する内外装
BEVやクルマとしての基本性能に関しては、BMWが持てる最新技術を惜しみなく投入したように思えるが、やっぱり実際に運転してみるまで分からない。いっぽうで、今回最も注目を集めた新機構はワークショップで試すことができた。それが「パノラミックiDrive」である。
機械式スイッチを最小限にする手法はいまや常套(じょうとう)だが、「パノラミックビジョン」はまったく新しい。これはフロントガラスの下部にナノコーティングされた黒色印刷を施し、そこへさまざまな情報を投影するというもの。ドライバーの目の前の部分の情報は(法規の関係もあり)固定式だが、センターから助手席にかけての部分は、好みのコンテンツを選ぶことができる。
その操作も簡単で、センターディスプレイでドラッグ&ドロップするだけ。まるでスマートフォンをいじるように簡単だ。パノラミックiDriveはこれまでのBMWの車内の風景を一新するもので、今後は他のモデルにも順次採用されていくそうだが、センターディスプレイがドライバー側へ17.5度傾けられているあたりは、往年のBMWのコックピットとの共通項もうかがえる。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4782×1895×1635mm、ホイールベース=2897mm。ラゲッジルーム容量は520~1750リッターだがこれはリアのみの数値。さらにフロント部にも58リッターのスペースが確保されている。エクステリアデザインは全体的にはこれまでよりもシンプルですっきりしたように見える。0.24のCd値を実現したエアロダイナミクスも影響しているのだろう。
そして何より象徴的なのはフロントセクションだ。細い縦型のキドニーグリルは過去のノイエクラッセへのオマージュにほかならない。なにもかもが生まれ変わったiX3はBMWの最新技術のショーケースだが、同時に最近のプロダクトのなかではBMWの歴史に最も敬意を払ったデザインであるといえるかもしれない。
推測でこういうことを言うのはあまりよろしくないけれど、試乗する前から「これはよさそうだ」と久しぶりに感じた一台である。
(文=渡辺慎太郎/写真=BMW/編集=藤沢 勝)
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渡辺 慎太郎
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