BMW iX3 Mスポーツ(RWD)
100年に一度の悩み 2022.04.16 試乗記 BMWのミドルクラスSUV「X3」をベースとする100%電気自動車(EV)「iX3」に試乗。EV専用としてゼロから開発されたフラッグシップSUV「iX」や、内燃機関を搭載するX3との違いを確認しながら、迫り来るEV時代を考えてみた。いままでのクルマの延長線上
今回試乗した「BMW iX3 Mスポーツ」が全長4740mmでホイールベースが2865mm。先般デビューしたEVとして専用開発されたBMW iXが全長4955mmでホイールベース3000mm。ディメンションだけ見ると、「わざわざ似たようなスタイルのEVをつくり分ける意味があるの?」と思いたくなるけれど、iX3 Mスポーツの外観を眺めて、乗り込んでみて、BMWがこの2台をつくり分ける理由がすとんとふに落ちた。
別件で試乗したiXは、エクステリアもインテリアも、いままでのクルマとは違います、ということを強く打ち出したモデルだった。ここから新しい時代が始まるという宣言のようなクルマだ。
一方、BMW X3をベースにしたEVであるiX3は、ところどころにブルーの差し色で電動化をアピールしている以外は、デザインも操作系もX3と共通。「いえいえ、みなさんEVに対して構えていらっしゃいますが、いままでのクルマの延長線上にあるんですよ」と訴える、低姿勢の(?)EVなのだ。
ドライバーズシートからの眺めは、基本的にはX3と同じで、スターターボタンをプッシュしてシステムを起動する。このスターターボタンの位置も、シフトセレクターも、ステアリングホイールも、インパネのメーターも、見慣れたX3のそれで、シンプルなインターフェイスや斬新なステアリングホイールの形状でハッとさせようとしていたiXとは真逆のアプローチだ。
新しいモノに見せようとしたり、いままでと変わらないことをアピールしたり、自動車メーカーも大変だと、つくづく感じる。
そしてDレンジを選んで走りだしてみると、やはり自動車メーカーは大変だということをしみじみと感じるのだった。
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違いがわかりづらい電動パワートレイン
iX3 Mスポーツは、静かに、滑らかに、力強く加速して、不満に感じることは何ひとつない。じゃあなぜ自動車メーカーが大変だと思うのかというと、ホンダも、ヒョンデも、アウディも、プジョーも、世界中のEVというEVが、静かに、滑らかに、力強く加速するからだ。
EVが街を走り始めた当初は、静かに、滑らかに、力強く加速すれば、それだけで好印象を抱くことができた。けれどもこうして世界中の自動車メーカーのEVが出そろってみると、ざっくりと言ってその加速フィールはおおむね同じなのだ。
EVの世界にはホンダミュージックもなければ、BMWだけ特別にシルキーなフィーリングということもないし、水平対向エンジンの味わいのようなものもない。ムチ打ち症になるんじゃないかと思えるほどのハイパーな加速で他社との違いを感じさせる例もあるけれど、一般的とはいえない。
EV時代の自動車メーカーは大変だと思いつつ、そんなことを気にするのは一部の好事家だけかもしれない、という考えも頭をよぎる。例えば、新幹線の「N700A」と「N700S」の加速感の違いを詳細に論じる知人がいるけれど、筆者にはさっぱり理解できない。
同じように、クルマ好き以外の人にとっては、パワートレインの個性の違いなんて意味を持たないのかもしれない。EVは静かに、滑らかに、力強く加速してくれるからオッケーということで、一部のエンジン好きは乗馬施設のように隔離された場所で、フラットシックスやシルキーシックスをぶいぶい回すようになるのか。
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電気でもわかるBMWらしさ
話が大きくそれた。iX3 Mスポーツは、回生ブレーキの強さを「アダプティブ(自動調整)」「高い」「普通」「低い」の4段階から選ぶことができる。普通と低いではエンジン車のエンジンブレーキと同等の減速フィールで、「高い」を選ぶと、通常の走行だとほぼブレーキの出番はなくなる。完全に停止するにはブレーキを踏む必要があるけれど、DレンジからBレンジにシフトすると、ワンペダルでドライブできるようになる。
回生ブレーキの強度を「高い」にセットして首都高速に上がると、幸いにも道路はガラガラ。走行車線をのんびり流しながら、乗り心地をチェックする。すると、当初は280km台だった航続距離が、次第に延びて、やがて310kmを示した。
下り坂でもないのに航続距離が延びるのは初めての体験だったけれど、BMWは走行状態や運転スタイルによる影響を、航続距離に速やかに反映するロジックを用いているようだ。
乗り心地は、引き締まっているけれど不快ではない、いかにもBMWらしいもの。路面からのハーシュネスはそれなりに伝えるけれど、クルマ全体で受け止めるから、「乗り心地、かってぇ」とはならない。前後方向にも横方向にも揺れが少ないソリッドなフィーリングは、辛口ではあるけれどスカッと爽やかで気持ちがいい。
回生ブレーキの強度とは別に、BMWの内燃機関モデルと同様に、ドライブモードを選択することもできる。ここで「SPORT」を選ぶと、アクセル操作に対するレスポンスがシャープになる。
といっても後輪駆動のiX3 Mスポーツのリアタイヤが暴れることはなく、そのあたりは上手に制御されている。
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ハンズオフ走行にこそ利点あり
ワインディングロードでは、まさにBMWらしい振る舞いを見せた。
なにをもってBMWらしいとするのか? それは、頭のてっぺんからつま先まで、ひとつのカタマリとなってコーナーをクリアする一体感だ。そしてコーナーの脱出では、モーターの電光石火のレスポンスによって、精密につくられた機械が正確に作動すると感じさせるBMWの個性が、さらに強調される。
正直な話、20分、30分と峠道を走り込むにつれて、エンジンとかモーターとか、どうでもいいような気持ちになりつつあった。
低回転域では不機嫌だけれど回転を上げるにつれて活発になるフィーリングだとか、高回転になるほど澄み渡るエキゾーストノートとか、いまでも大好物ではあるけれど、EVにはEVのファン・トゥ・ドライブがある。ただ、パワートレインのフィーリングに違いを生み出しにくいというだけのことで、もしかすると今後、それは大した問題ではなくなるのかもしれない。
試しに、アクセルを踏むと独特の音を発する「BMWアイコニックサウンドエレクトリック」のスイッチをオンにしてみたけれど、インダストリアルミュージックっぽい電子音が気持ちを高めてくれることはなかった。ポルシェも似たような音にチャレンジしているけれど、EVの静けさという武器をどう使うか、どこも迷っているように見える。
都心へ戻る高速道路で、ハンズオフ機能を試す。高精度3Dマップに基づいて作動する日産の「プロパイロット2」と違って、先行車両にコバンザメする方式なのでハンズオフができる条件は限られている。けれども、こうして走る場面では静粛性といい、滑らかで精緻なスピードコントロールといい、モーターの利点を強く感じる。
生まれて初めて持ったケータイが「iPhone」だというジェネレーションZがそれまでの世代とまったく違う気質を持つと言われているように、初めて乗るクルマがハンズオフ可能なEVだという世代も、クルマという乗り物に対してまったく別の感覚を持つはずだ。いやいや、どんなクルマ社会が待っているのか。
パワートレインの違いを表現しにくい自動車メーカーは大変だと書いたけれど、実は「シルキーな回転フィール」といった表現を使えなくなった自動車ライターも大変なのだ。パワートレインについて多くを書けない自動車ライターは、「ピッチングには触れずにバッティングのことだけを書け」と言われる野球ライターと同じ、かもしれない。
100年に一度の大変革期、自動車メーカーも自動車ライターも、試行錯誤が続く。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
BMW iX3 Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4740×1890×1670mm
ホイールベース:2865mm
車重:2200kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:256PS(210kW)/6000rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)0-4500rpm
タイヤ:(前)245/45R20 103W/(後)275/40R20 106W(ヨコハマ・アドバンスポーツV107)
交流電力量消費率:168Wh/km(WLTCモード)
一充電走行距離:508km(WLTCモード)
価格:862万円/テスト車=875万7000円
オプション装備:ボディーカラー<カーボンブラック>(0円)/ヴァーネスカレザー<モカ、専用ステッチ付き>(0円)/BMWレーザーライト(13万7000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1002km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:260.9km
消費電力量:33.9kWh
参考電力消費率:7.7km/kWh(満タン法)/6.2km/kWh(車載電費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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