あのステランティスもNACS規格を採用! 日本のBEV充電はこの先どうなる?
2025.12.08 デイリーコラム急速充電網は着々と
経済産業省は2023年10月に電気自動車(BEV)等のための「充電インフラ整備促進に向けた指針」を策定し、充電インフラ整備の目標をそれまでの倍となる30万口に定めた(経産省の資料に準じて「基」ではなく「口」と表記する)。目標とする期限は2030年で、30万口のうち公共用の急速充電器は3万口に定めた。さらに、「高速では90kW、150kWを設置するなど、充電器を高出力化し、充電時間を短縮し、ユーザーにとって、利便性の高まる充電インフラを整備する」と、取り組みの方向性を示した。
経産省が2025年6月5日に発表した進捗(しんちょく)状況のリポートによると、2024年度末(2025年3月末)現在で充電器の設置数は約6万8000口。このうち急速充電器は約1万2000口だという。設置数のうち約9割の把握が可能なe-Mobility Powerのデータによると、急速充電器の数はこの1年間で約700口増加。50kW未満が1400口減少した一方で、90kW以上は1000口以上増加したと報告している。
さらに分析を進めると、50kW未満の急速充電器の割合が17%減少した一方で、90kW以上の急速充電器が10%増えて全体の3割程度になるなど、高出力化が進んでいる。とくにディーラー(自動車販売店)、高速道路のサービスエリア/パーキングエリアにおいては150kWの整備が進み、それぞれ120口以上が整備された。
高速道路では高出力化、複数口化の進展が著しく、2024年度末時点で892口が整備済み。前年度比で207口増えており、30%の大幅増である。90kW以上(90kW〜150kW未満と150kW)の急速充電器は約2倍の口数となり、全体に占める割合も44%から67%になった。2025年度には約1100口への拡充を計画しているというから、この1年でも約200口増える計算だ。
世の流れは「NACS」に!?
2023年度末から2024年度末の急速充電器の増加は約2000口で、このベースでは2030年度末に2万4000口にしかならず、目標とする3万口には到達しない。だが、都内を中心に関東近県を移動する機会が多い筆者の肌感覚では、だいぶ整備が進んでいる印象である。短期間ではあるが先日もBEVと生活をともにし、これだけ90kW以上の急速充電器が整備されているなら、自宅に充電設備がなくてもBEVだけで生活できるかな? と思った次第である。
それはともかく、経産省が整備を進めている急速充電器は「CHAdeMO(チャデモ)」規格である。国内の標準規格だ。一方で、「スーパーチャージャー」の名称で知られるNACS規格の急速充電器が存在することは、みなさんよくご存じだろう。テスラ御用達と言いたいところだが、どうも風向きが変わってきている。
マツダは2025年5月9日、2027年に国内で販売するBEVの充電ポートにNACSを採用すると発表した。2026年後半に日本での販売を予定しているソニー・ホンダモビリティの「アフィーラ」も、NACSの採用を決めている。テスラ以外でNACSを採用するのは、2026年後半のアフィーラが最初。これに2027年のマツダが続く格好だ。
続きがある。ステランティスは2025年11月18日、「北米、日本、韓国における一部のBEVにNACSを採用する」と発表した。北米では2026年初頭、日本では2027年から導入が始まる。公式ホームページ上で確認したところ、本稿執筆時点でスーパーチャージャーは国内に700基弱ある。CHAdeMOの急速充電器が国内に1万2000口あることを考えるとだいぶ少ないように感じるが、その多くが最大出力150kWのV2タイプか250kWのV3タイプであることを考えると事情は変わってくる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
使う側は悩ましい
e-Mobility Powerのデータによると、国内にあるCHAdeMOの150kW急速充電器は361口。e-Mobility Power管理外も含めると全国で約400口といったところだろうか。充電時間を短縮できる150kW以上の充電器に関しては、スーパーチャージャーが数的優位に立つといえそうだ。もっともCHAdeMOは2024年度に自動車ディーラーや高速道路のサービスエリア/パーキングエリアを中心に150kWの設置数を308口も増やしており、急速にペースアップしている。このままのペースが続けば早晩、スーパーチャージャーといい勝負になるものと思われる。
1~2年先の150kW級急速充電器事情でいえば、CHAdeMOとスーパーチャージャーで五分と五分だろうか。メーカー/ブランド側が国内専用のCHAdeMOから北米で主権を握る勢いのNACSに乗り換えるのは、開発の効率化が目的だろう。CHAdeMOを切り捨ててNACSで日本市場をカバーすれば、そのぶんコストは抑えられる。今後、マツダやステランティスに追随するメーカー/ブランドが出てこないとも限らない。
ユーザーの立場に立てば、なんとも悩ましい。気に入ったBEVがCHAdeMOなら自分のライフスタイルにマッチするが、NACSだと不便。であれば購入を見送って違う選択肢を考える、というケースが出てくるかもしれない。また、その逆もあり得る。経産省主導の充電インフラ整備は着実に進んでいるので、今後ますますCHAdeMOユーザーは便利になっていくと思うのだが……。
(文=世良耕太/写真=テスラ、ステランティス、webCG/編集=関 顕也)

世良 耕太
-
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめNEW 2025.12.12 日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。
-
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る 2025.12.11 マツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。
-
業界を揺るがした2025年のホットワード 「トランプ関税」で国産自動車メーカーはどうなった? 2025.12.10 2025年の自動車業界を震え上がらせたのは、アメリカのドナルド・トランプ大統領肝いりのいわゆる「トランプ関税」だ。年の瀬ということで、業界に与えた影響を清水草一が振り返ります。
-
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット― 2025.12.5 ハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。
-
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る 2025.12.4 「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。
-
NEW
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
NEW
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。 -
ホンダの株主優待「モビリティリゾートもてぎ体験会」(その2) ―聖地「ホンダコレクションホール」を探訪する―
2025.12.10画像・写真ホンダの株主優待で聖地「ホンダコレクションホール」を訪問。セナのF1マシンを拝み、懐かしの「ASIMO」に再会し、「ホンダジェット」の機内も見学してしまった。懐かしいだけじゃなく、新しい発見も刺激的だったコレクションホールの展示を、写真で紹介する。 -
ホンダの株主優待「モビリティリゾートもてぎ体験会」(その1) ―子供も大人も楽しめる! 里山散策とサーキットクルーズ―
2025.12.10画像・写真ホンダが、子供も大人も楽しめる株主優待「モビリティリゾートもてぎ体験会」を開催! 実に78倍(!?)もの倍率をくぐり抜けた豪運な株主たちが、山里散策にサーキットラン、「ホンダコレクションホール」のツアーなどを楽しんだ。その様子を写真で紹介する。 -
安心、品質、そして特別な体験を手に入れる レクサス認定中古車CPOという選択
2025.12.10充実のカーライフをレクサス認定中古車CPOで<AD>レクサス独自の厳格な基準をクリアした車両だけが並ぶ「認定中古車CPO(Certified Pre-Owned)」。その特長は品質と保証だけにとどまらない。新車購入オーナーと同じ“特別な体験価値”が約束されるレクサスならではの世界観もまた、大きな魅力である。 -
業界を揺るがした2025年のホットワード 「トランプ関税」で国産自動車メーカーはどうなった?
2025.12.10デイリーコラム2025年の自動車業界を震え上がらせたのは、アメリカのドナルド・トランプ大統領肝いりのいわゆる「トランプ関税」だ。年の瀬ということで、業界に与えた影響を清水草一が振り返ります。







