第113回:ホンダデザインにささぐ鎮魂歌(後編) ―「Honda 0」と「アフィーラ」の断捨離で見えてくる未来―
2026.05.20 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
「Honda 0」の計画縮小と「アフィーラ」の開発中止で、すっかりネガティブな印象がついてしまったホンダデザイン。彼らの未来に再生の曙光はあるのか? というか、そもそもホンダ車のデザインって本当に迷走しているの? カーデザインの専門家と考えた。
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もうアフィーラの形が思い出せない!
webCGほった(以下、ほった):Honda 0についての結論がおおむね出たところで、同じくプロジェクトがとん挫したアフィーラ(参照)についても総括しましょうか。ソニーとホンダという、夢のタッグによる電気自動車(BEV)だったわけですが。
渕野健太郎(以下、渕野):アフィーラは……皆さん、どうですか?
清水草一(以下、清水):遅すぎたとはいえ、お蔵入りは賢明な判断でしょう。デザイン的にも、どっこもカッコよくない!
ほった:特別なコンセプトも感じ取れなかったですしねぇ。
清水:0シリーズは、渕野さんがおっしゃったように「アートにしたかった」とか「とにかくビックリさせたかった」とか、そういう意図を明確に感じられたけど、アフィーラにはなんにも感じなかった。あのデザインはカラッポだったと思います。
ほった:徹底して凡庸でしたね。恐らくは、意図的にそうしたんでしょうけど。
清水:でも、どういう経緯でああいうデザインになったのか、全然わかんないよ。ひたすら「なんで?」って感じ。
ほった:ですね。具体的なクルマのデザインも、もうフロントに文字が出るってことくらいしか覚えてないし……。
渕野:そこまでですか(苦笑)。
ほった:渕野さんはいかがでした?
渕野:最初にこれの実車を見たときは、レトロフューチャー的な狙いがあるのかなと思いました。しっかりしたショルダーの反面、フェンダーを強調しない基本デザインは最近あまりやらないですね。またフロントまわりは「日産シルビア」(S13)などの1980年代あたりのバランスに近い印象がして。最近は、若い人の間でも“ヤングタイマー”がはやっているじゃないですか。だから、逆にこれがトレンドなのかな? 若い層にもアピールしようとしているのかな? なんて考えたり。
清水:そ、それはちょっと、いいように解釈しすぎでは?
渕野:いやいや。これはいい意味だけではないんです。自分としては、そういうレトロフューチャーなイメージとソニーのイメージが、リンクしていない気がしていたので。皆、もっと先進的なものを期待してたんじゃないかと。機能的な部分も、あんまり感じられなかったですし。
ここで止めたのは英断だった?
渕野:パッケージはHonda 0と共用だったんですかね?
ほった:そうじゃないですかね。さすがに車体をバラバラに開発するほど、ホンダも無謀ではなかったでしょう。
渕野:それでやりたいことができなかったのかなぁ。
ほった:いや……設計要件とかの問題だったのかな? これ。
清水:「Honda 0サルーン」のデザインがアフィーラで、アフィーラが0サルーンだったら、まだよかったんだけど。
渕野:そうですよね。そんな気はしました。
清水:それにしても、ホンダとソニーといえば昭和の日本の夢ですよ、夢と希望。そんな夢のコラボが、出た瞬間から「なんだこりゃ!」だった。んで、発売ギリギリで中止になった。まさに日本の夢が砕け散った!
渕野:アメリカでは、販社の巨大な施設がオープンしたばっかりでしたよね。
清水:そこまでたどり着いていながら中止とは、思い切りましたよね。でも、ここで思いとどまってくれたから、傷が小さくて済んだ。それは間違いない。
ほった:傷、ちっちゃくないですよ。血がドバドバです(その1、その2)。
清水:いやでも、無理やり発売しちゃうよりはさ。事前予約した方へのデポジットは全額返金するってことだけど、一体何人が予約してたのかな? 多くても100人くらい? 傷は浅いよ!
渕野:SUVもつくってましたよね。そっちもなんだか。
清水:これ見ると「トヨタ・クラウン クロスオーバー」が思い浮かぶけど、これが現代の「ウォークマン」だったのかと思うと残念すぎる(泣)。
渕野:ホンダとソニーって、自分の就活の第1、第2希望だったんですよ。どっちも最終面接までいったけれど落とされて(笑)、留年して前の会社に入ったんです。
清水&ほった:ええー!
渕野:当時、ホンダとソニーはプロダクトデザイン界のトップ2みたいな存在でした。誰が見ても革新的だったんですよ。ソニー・ホンダモビリティは、その2社のコラボってことですごく期待していたんですが……。こうした協業って、やっぱり難しいんでしょうね。
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ホンダ内の統治能力が落ちてきている?
ほった:確かに、ホンダはF1でもアストンマーティンとのコラボがうまくいってませんよね。自主独立のイメージが強いメーカーだし、社風なのかなぁ。
渕野:ホンダというと本田宗一郎さんのエピソードもあって、情熱的でがむしゃらなイメージもありますよね。ただ、今はレースにしても市販車の開発にしても、「徹夜で頑張りました!」とかが美徳って時代ではないでしょうし……。それで最近は、うまく回ってないのかな?
清水:徹夜禁止がホンダの障害!?
渕野:まぁ今のはただの思いつきですけど(笑)。ただホンダに関しては、最近、「H」マークやロゴのデザインとか、使い方も変えたじゃないですか。
ほった:Honda 0と一緒に発表した新しいHマークを、四輪事業全体で使うことにしたんですよね(その1、その2)。二輪でも、一般的な機種とフラッグシップモデルと電動モデルとでマークを使い分けるとか言い出して(参照)、まぁフクザツなことに(汗)。
渕野:Hマークの下に添えられる「Honda」のロゴも変わりましたよね。だから、「あれ、それじゃあの赤い企業ロゴも変えるのかな?」って、そのときは思ったんです(掲載写真参照)。
ホンダのHPにも載っている話なのですが、「HONDA」のあの赤いロゴって、実は本田宗一郎さんのいわくつきなんです。ホンダは「S500」で、日本の乗用車で初めて赤いボディーカラーを採用したんですけど、最初はお役所に「赤は消防車の色だから認められない!」って言われたらしいんですね。それを宗一郎さんが粘って、赤を認めさせたっていう。そういうところから、ホンダはコーポレートカラーも赤にしているんですよ。今回は、ついにそれとも決別するのかと思ったんですが……。
ほった:なんか、新しいロゴと古いロゴがそこここで併用される感じですよね。細字の「Honda」ロゴは、新しいHマークとセットで使われたり、四輪・二輪の電動車のバッジにも使われているみたいだけど……。これ、実際にはちゃんとルールがあるんですよね? どのロゴ、どのマークを何に使うのか、そもそもそれが全部で何種類あるのか、誰かに図解してほしい(笑)。
渕野:そうなんですよね。そのへんがわかりづらいというか……。正直、ホンダの統治能力が落ちてきてるんじゃないかと心配になりました。やっぱり問題は経営なんでしょうか?
ほった:ううーん……。
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ホンダ自体が沈下しているわけではない
ほった:最近のご世間さまの論調を見ていると、Honda 0とアフィーラのせいでホンダの全部が沈下しているような雰囲気ですけど、個人的には、それはそれでちょっと違う気がするんですよ。例えばですけど、皆さん新型「CR-V」のデザインはどう思います?
渕野:現行型が出たのは、グローバルではだいぶ前ですよね。北米では3年半ぐらい前かな。
清水:あのデザインは全然悪くないよ。そんなによくもないけど。
ほった:ありがとうございます。そんな感じで、これがけっこう評判がよさそうなんです。傑作じゃないけど実購入者のウケがいいって風に。ワタシも「ボルボXC90」っぽいというか、要は渕野さんが言うところの「コスパのいいデザイン」だと思いました。
清水:そのへんはちゃんとしてるよ。なにせ世界で2番目に売れてる乗用車だしね。「トヨタRAV4」に次いで。
渕野:前のCR-Vは、ボディーをグッと絞っていたせいで小さく見えましたが、現行型は北米でも立派に見えるようになりましたから。そもそもホンダって、いい意味で可もなく不可もなく、生活に根づいた存在だから、とりわけ主張するようなデザインは求められていなかったんだと思います。
ほった:ですよね。グローバルで見たら、むしろホンダはこういう当たり障りのないクルマが多いわけです。皆さん大好きなミニマルデザインがすべてでもないし、アフィーラやHonda 0みたいなのがデザインの代表例ってわけでもなくて。
渕野:ひょっとしたら、日本市場では特にミニマルなデザインを強調しているのかもしれません。アメリカとは受けるデザインが違いますから。
清水:そのへんはマーケットに合わせて調整するもんだからね。個人的には、日本では断然「ヴェゼル」だよ。CR-Vよりヴェゼルのほうがミニマルで美しく感じる。でも、そう考えると直近のホンダデザインで大外ししたのって、0シリーズとアフィーラだけな気もしてきた。
ほった:とにかく、あんまり悲観的にとらえすぎるのも、どうかと思いますよということで。
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BEVの開発はかくもムズカシイ……
清水:ただ、いちばん気合を入れていたはずのBEVのデザインが全般にコケたというのは事実だよね。
ほった:デザインというか、BEVシフト自体がつまずいたって感じですが。
渕野:でも、確かにHonda 0の2車種とアフィーラは終わったけれど、「N-VAN e:」に「N-ONE e:」に「インサイト」に「スーパーONE」にと、ホンダは立て続けにBEVを出してきてますよね。今でも割と、BEVを本気でやりたいんじゃないかな。日本市場も含めて。
清水:ただ、インサイトのバッテリー容量や航続距離を見ると、トヨタや日産に性能面で大差をつけられてますよ。技術面は大丈夫なのかな?
渕野:そういえば、Honda 0はそのあたりのコンセプトも疑問でしたね。あれ、バッテリーが薄くて小さいのがひとつの特徴だったじゃないですか。それでも「長く走れます!」っていうんだったら感心しますけど、ホンダの説明は「バッテリーを薄くしたいので、航続距離は割り切りました」でしたからね(笑)。そりゃそうでしょうよと。そこにイノベーションはないわけです。
清水:アフィーラも、BEVとしての性能とかスゴい自動運転技術とかじゃなくて、「車内エンターテインメントで戦います」って話だったし。
渕野:前にほったさんも言ってたけど(参照)、スマホや「Nintendo Switch」を持ち歩いていれば済む話ですからね、そんなの。
ほった:とはいえ、移動中のエンタメ消費がひとつの大きな商圏になるんじゃないかって話は、今でもありますから。こないだ取材した某ドイツの高級セダンにも、デカいリアモニターが付いてましたよ。
清水:でもそれは、完全自動運転が普及した後の、はるか未来の話でしょ。
渕野:まあBEVという商品が、ガソリン車と比べて他社製品と差別化しづらいのは事実ですからね。なにを売りにするかが非常に難しくて、みんな試行錯誤しているのでしょう。
ほった:なんか最後は、テーマがカーデザインから脱線しちゃいましたね。
清水:いいじゃない、たまには。とにかく0シリーズとアフィーラを断捨離したことで、ホンダデザインの未来は明るくなった気がしますよ。ワタシは。
ほった:さっき話題に出たような、生活に根づいた人が中心のホンダデザインに、立ち戻れるといいですね。
(語り:渕野健太郎/文=清水草一/写真=本田技研工業、ソニー・ホンダモビリティ、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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