「洗車でボディーにキズがつく」って本当ですか?

2026.04.21 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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私は、マイカーは常にきれいな状態で維持したいと思うのですが、クルマ好きの友人からは「洗車で塗装にキズがつくこともある」「洗いすぎは害になる」などといわれます。実際、そんなことはあるのでしょうか?

それは、ひと昔前の“都市伝説”のようなものですね。確かに昔は、「魅力的な新色を開発する過程で塗装表面の硬度が十分に得られず、洗車のやり方次第では細かな擦りキズがついてしまう」などといったこともありました。 ですが今は、何層にもわたるコーティングの技術や、最も表側にくる面に非常に硬度の高い塗膜をつくる塗装技術が確立されています。 したがって、手洗いはもちろん、最新の自動洗車機で洗ったからといって、キズがついて商品価値が下がるようなことはありません。

洗車機自体も進化しています。ブラシの素材そのものが車体や塗装にとってやさしいものに変わりましたし、ブラシを車体に当てる際の“押し付け方の制御”なども非常に精密になりました。 塗装技術と洗車技術、両方の進化によって、今ではトラブルもなく汚れを落とせるようになっています。

ちなみに私自身は、ここ10年ほど自分のクルマを手洗いしたことはありません。すべて洗車機にお任せしています。

もっとも、手洗いにこだわる楽しみについては否定しません。たまの休日に時間をかけて手洗い洗車するというのはひとつの自動車文化ですし、愛車を隅々までチェックすることで、不具合があった場合は気づくことができるというメリットもあります。 特に、塗装技術が未熟だった時代の旧車やクラシックカーに乗っている方は、手洗いのほうが安心できるでしょう。

ですが、今の新しいクルマに関しては洗車機任せで全く問題ありません。 時間のない方や面倒だと感じる方は、安心して自動洗車機を活用していただいていいと思います。

皆さんのなかには、「いつごろの年代が塗装の良しあしの境界になるのか」「技術革新のような変化が起こった事実はあるのか」と気になる方がいるかもしれませんが、塗装の技術はこれまで、「劇的な一度の大変化」ではなく「塗装メーカーによるコツコツとした改良の積み重ね」で進歩してきています。

そのうえで“大きな潮目”を挙げるなら、それは「色がクルマの商品価値になる」とメーカーが認識し始めた1990年頃。つまり、女性がクルマに乗る機会が急増したタイミングといえるでしょう。ピンクなど女性受けする色が市場から求められるようになり、多くの新色が投入されました。その際、美しい色と塗膜の強さを両立させるために、多層塗り(厚塗り)の技術が急速に発展したのです。環境負荷低減のために塗料が水性化されたことも、ひとつの大きな節目といえます。

テクノロジーの変革では「塗装ロボットの進化」も重要です。かつては熟練した職人の名人芸に頼っていた塗装工程はロボットの作業に置き換えられ、最初は色ムラなどの問題も生じたものの、名人の吹き付け技術をロボットにティーチングすることで、非常に高いクオリティーで安定して塗ることが可能になりました。

さらに最近では「粉体塗装」や、水をかけるだけで汚れが落ちるような「セルフクリーニング機能付きコーティング」なども普及しています。 そもそも洗車をしなくても雨だけできれいになる、といったレベルにまで改良されている。これらもまた、洗車に関する安心感を高める要素といえるでしょう。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。