運転がうまくなるために、最も意識すべきことは?

2026.05.19 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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運転は、どうすればうまくなりますか? 上手・下手には、性格や才能次第という面があるかもしれませんが、現状からより向上するためには、どんな点に気をつけるべきなのか、多田さんの考えをお聞かせください。

これはよく聞かれる話ですね。昔からドライビングテクニックに関するうんちくや本はたくさんありましたし、最近は動画もあふれているので、情報が多すぎて、結局「本質的に何が一番大事なのか」が分からなくなっている人が多いのだと思います。

「運転がうまくなるために意識すべきこと」を説明するとき、私はよく、運転をスポーツのゴルフに例えます。ゴルフもレッスン書や動画があふれていて、プロもたくさんいますよね。でも、上達法についてはいろいろと言われすぎて、初心者はわけが分からなくなってしまう。そこでゴルフのセミプロの友人に「一番大事なのは何か?」と聞いたら、彼は2点挙げました。「いかに力を抜くか」と「クラブのヘッドの重さを感じること」だというのです。

初心者は「力を抜け」と言われても、力を入れて一生懸命やろうとするものだし、力を抜いたら状況は悪くなるのではないかと思ってしまいます。でも、練習を重ねてある程度うまくなってくると、「ああ、こういうことだったのか」と、その言葉の意味が分かってくる。ドライビングも同じです。

ゴルフの話をクルマの運転に置き換えると、「ヘッドの重さを感じる」に相当するのが、「クルマの重さをはっきりと意識する」ということです。

クルマというのは、皆さんが思っているほどシャカシャカ、キビキビとは動きません。最近のクルマは電気自動車も含めてどんどん重くなっていますし、「2t近い物体を動かしているのだ」という事実認識がまず大事です。

クルマの重さを感じて運転するというのはどういうことか?

ドライバーがステアリングを切る、ブレーキをかける、アクセルペダルを踏むといった操作をしても、クルマは“すぐ”には反応しません。そこには必ず「遅れ(ラグ)」が存在します。

例えばハンドル操作をしたとき、その動きがタイヤに伝わるまでには多くの「たわみ」があります。まずステアリングのシャフトにある路面からのショックを吸収するクッション(インターミディエイトシャフトのゴム)がたわみ、次にステアリングのラック&ピニオンに伝わり、さらにサスペンションの根元にあるゴムのブッシュがたわみ、ようやくタイヤが動き始めます。そしてタイヤ自体もゴムですから、ぐにゃっと曲がってから路面をつかむ。このように、大ざっぱに言っただけでも非常に多くの「たわみ」と「遅れ」があるのです。

そしてクルマが実際に動き始めたら、今度はドライバーがシートのたわみなどを通してお尻や背中で動きを感じ、次の操作を行います。クルマはこうした遅れの塊なんです。

……にもかかわらず、大半の人はすごい勢いでハンドルを切り、意図したとおりにクルマが動かないと思ってはさらに切り増してしまう。そうしているうちに動き始め、「切りすぎた」と感じては慌てて戻す。こういう無駄な動きが、じつは非常に多いわけです。

運転が上手か下手かというのは、この「クルマのさまざまなラグを先読みして、クルマの動きに合わせたちょうどいい速度でステアリングを切り、ゆっくり戻すことができるか」、ここに尽きます。

ちなみに「クルマのチューニング」というのは、このラグをなるべく減らして、ドライバーの操作に対する車体の反応(レスポンス)をよくする作業のことです。サスペンションを固くしたり、ブッシュを硬いものやピロボールに変えたり、シートをバケットシートに変えたりすると、クルマの動きのフィードバックが早くなります。そうすると、体感的に「うまく運転できるようになったな」と感じるわけです。

プロのレーシングドライバーの運転というのは、無駄な動きが一切ありません。観察すると、びっくりするくらいゆっくりとハンドルを切り、ゆっくり戻しています。「急に操作してもクルマは動かない。無駄な動きになるだけだ」ということを分かっているからこそ、そうした操作になるのです。

世の中には、本でも動画でもさまざまなドライビングテクニックの指南があると思うのですが、何をするにせよ、クルマの物理的・慣性的なことを理解・予測して操作しないと、それらのテクはつながっていかない。冒頭に挙げたゴルフの「力を抜く」「ヘッドの重さを感じる」というのと同じで、クルマの運転も焦ることなく、クルマの重さや遅れを常にイメージしながらハンドルを切ったり、ブレーキを踏んだりということが、うまくなるための最大の勘所といえるでしょう。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。