「空力性能」を追求すると、最終的にどのクルマも同じ形になってしまうのか?
2026.03.24 あの多田哲哉のクルマQ&Aスポーツカーやスーパーカーに限らず、空力性能の向上は車両開発における重要課題になっていると思います。しかし、それを突き詰めれば、どれも同じような形になってしまいはしませんか? 車両開発者としての意見をお聞かせください。
物理的な側面だけでいえば、おっしゃるとおりです。空力を極限まで追求していけば、クルマのデザインが似たような形に収束していくのは間違いありません。
ですが、実際のクルマづくりにおいては、「空気抵抗を減らす」「ダウンフォースを稼ぐ」といった空力がもたらす走行性能上のメリットと、 クルマのデザイン(=見た目のインパクト)が商品価値に与える影響とのバランスで形が決まってきます。
実際どうしているかというと、今のクルマは、空力的な性能を上げながら、細かな“付加物”で個性を出しています。 トヨタでいうところの「エアロスタビライジングフィン(ボルテックスジェネレーター)」のように、魚のヒレを思わせる突起を付けたり、 タイヤの後ろあたりに小さな板のようなものを配置したり。そうした技術は、各社で確立されています。
燃費性能は、こうした細かな工夫により、すでに相当高いレベルに達しています。 ですから、ここからさらに劇的に形を変えて空気抵抗を減らし、燃費を稼ぐという段階ではなくなっているのが現状です。ダウンフォースについても、ゼロリフト(車体を路面に押さえつける力と車体が浮き上がる力の均衡がとれている状態)は、どのクルマでもほぼ実現できています。もっとダウンフォースを増やせばグリップは向上するでしょうが、燃費が劇的に悪化するため一般的なクルマでのメリットはありません。
それよりも、別のQ&Aでお話しした「大きな顔」の話(関連記事)のように、 お客さまが「おっ」と思うようなデザインを実現するほうが、販売面においてもブランドイメージの向上という点においても、はるかにメリットが大きい。つまり、空力性能だけでデザインが決まるわけではないということです。
仮に、空力だけを根拠にクルマのデザインを決めて、どのクルマも同じような形になってしまえば、そのメーカーは市場で埋没してしまいます。 ですから、空力性能は一定の値に抑えつつも、個性的で印象的なデザインをつくり出すことのほうが、メーカーにとっては重要なのです。

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。