巨額の損失を伴うホンダの電動化戦略見直しをどう思う?
2026.04.07 あの多田哲哉のクルマQ&Aホンダは2026年3月、四輪電動化戦略を見直し一部凍結すると発表しました。最大2兆5000億円の損失を計上するということで世間が大いにざわつきましたが、多田さんご自身は、この報に触れてどんなことを感じましたか?
私を含め、多くの人の気持ちの奥底にあるのは、「ホンダのDNA」に対する思いではないでしょうか。2021年に電動化への“全振り”を発表した際も、本田宗一郎がつくった自動車会社として、既存のガソリンエンジンを残すよう最後まで抵抗してほしかった、というのが本音だっただろうと思います。
かつてホンダが「空冷エンジン」に執着した話は象徴的です。世の中が水冷エンジンへと流れるなか、本田宗一郎は最後まで空冷という冷却方式にこだわり続け、当時の藤澤武夫副社長が説得してギリギリのタイミングで水冷へ移行したというエピソードは、ご存じの方も多いでしょう。
今回ホンダが、“全方位戦略”ではなく極端な“オール電動化”へと舵を切ったのは、中途半端を嫌う同社の社風ゆえのことかもしれませんね。そこからの撤退という判断自体は、多額の損失を伴う重い決断であり、経営判断としては素晴らしい側面もあります。しかし、欧州メーカーなどがもっと早くから同様の判断を下しているのも事実です。
むしろホンダであれば、「今こそ逆張り」という選択肢もあったはずです。世界中の多くのメーカーがEVから手を引こうとしている、あるいは開発をちゅうちょしている今、電池メーカーの生産ラインは過剰になり、高品質な電池を以前より安く調達できる環境が生まれています。このタイミングで踏ん張れば、逆にEVをより安く提供できる可能性もあったのではないか……。それだけに、今回の、ある意味“普通すぎる判断”にはもどかしさを感じます。
結局、今のホンダ、そしてマツダなどが直面している課題の本質は、電動化そのものよりも、自動車メーカーとって最も大切な「商品企画力」の差にあると私は思います。どこにお金を使い、どんな価値を提供するのか。ソニーとの協業も含め、ホンダのEVがBYDやテスラの商品に対抗できるほど魅力的かというと、何とも言い難いところがあります。
自動車の開発において最も肝心なのは、デザインを含めた商品企画のバランスです。そこにお金や経営資源をバランスよく投入できていないことが、今回の苦境の根本にある気がしてなりません。
ホンダの技術そのものは、素晴らしいのです。私は先日、軽EVの「N-ONE e:」に試乗したのですが、それも含め、ハードウエアの完成度は非常に高いと思っています。ただ、商品としての「お金の配分」や「見せ方」で損をしている。本田宗一郎の時代のような「ひねくれた経営判断」こそが、今のホンダには必要なのではないでしょうか。空冷にこだわったあの頃のDNAを思い出してほしいと、ホンダファン、そして社員の皆さんも感じているに違いありません。

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。