街から看板が消えたシェルがエンジンオイルで再出発 ブランドの強みを生かせるか
2026.04.02 デイリーコラムルクレール選手とハミルトン選手が登場
F1日本グランプリが開催される鈴鹿サーキット。敷地内にあるパーティー会場に特別なゲストが登場した。そのゲストとは、スクーデリア・フェラーリのシャルル・ルクレール選手とルイス・ハミルトン選手で、パーティーの出席者からは大きな歓声が上がり、まるでグランプリウイークの前夜祭のような雰囲気に包まれた。2人はチームワークや信頼性の重要性について語り、F1を支える技術として「シェル」の存在に触れた。ルクレール選手は「信頼性とパフォーマンスが最も重要」、ハミルトン選手も「エンジンへの信頼があれば余計な心配をせずに走れる」と話し、ドライバーの言葉ならではの説得力があった。
シェルとフェラーリの関係は長く、2026年でパートナーシップは76年目を迎えるという。F1マシンの赤いボディーに描かれたシェルのシンボルマークは、フェラーリのデザインには欠かせない要素と言っても過言ではない。レースで培った技術が市販オイルにフィードバックされるというストーリーを語るうえでも、実に説得力がある。
このイベントは「シェル チャンピオンズクラブ」と呼ばれ、シェルのエンジンオイル「SHELL HELIX(シェル・ヒリックス)」を販売した実績上位の販売店を世界各国から招待するものだ。今回は13カ国から113名が鈴鹿に集まった。F1開催にあわせて実施されるグローバルイベントで、日本での開催は桜の季節と鈴鹿サーキットの人気が決め手になったという。
販売店の表彰イベントとはいえ、単なるセレモニーではない。F1ドライバーの登場やサーキットの雰囲気を通じて、ブランドとモータースポーツの結び付きを体感してもらう狙いがある。フェラーリとシェルの関係を現場の販売店にまで共有するには打ってつけのイベントだった。
シェル・ヒリックス ウルトラの新商品を披露
イベントに先立ち、日本の報道関係者向けにエンジンオイル「シェル・ヒリックス ウルトラ」の新製品発表会が行われた。シェルは19年連続で世界最大の潤滑油サプライヤーとされ、ヒリックスブランドも乗用車用オイルで世界トップクラスのシェアを持つ。そのフラッグシップとして投入されたのが、API SQ規格に対応した新世代のフルシンセティックオイルだ。
最大のポイントは、天然ガスから合成する独自のGTL(Gas To Liquid)ベースオイルの採用。不純物が少ないため高温でも劣化しにくく、粘度上昇を約70%抑制できるという。つまりエンジンを守るだけでなく、オイル自体の寿命も長い。長時間使用しても性能の低下が小さく、安定した潤滑性能を維持できる点が大きなメリットになる。
さらに低温時の流動性も高く、従来比で粘度が約3割低い結果となり、寒い朝の始動性やレスポンス向上にも貢献する。また、直噴ガソリンターボエンジンで問題となるLSPI(低速早期着火)の抑制にも対応。原因となるカルシウムを含んだ添加剤の比率を低め、代わりにマグネシウム系の添加剤を増やすなどして、従来規格のオイルと比べて発生頻度を約8分の1に低減したという。耐摩耗性や清浄分散性能も強化され、エンジン保護・耐久性・省燃費・レスポンスなどをバランスよく高めたのが特徴だ。
ラインナップでは、日本市場で増えている低粘度指定車に対応し、「ウルトラ0W-16」を新たに追加。 0W-20や5W-40は最新規格に更新し「ウルトラECT 0W-20」「ウルトラ5W-40」に製品名を変更、既存の0W-30や5W-30も継続販売する。
エンジンオイルのシェア拡大を目指す
日本でもシェルの名前はよく知られているが、実は一般ユーザー向けのエンジンオイルの販売は一時ほぼゼロに近い状態まで落ち込んでいた。理由はサービスステーション事業の再編だ。出光興産と昭和シェル石油の統合により、シェルブランドのサービスステーションが日本から消え、エンジンオイルの販売ルートが失われたためである。
現在はそこからの再スタートの段階にある。新たな販路として、カー用品店や整備工場ネットワーク「シェルピット」を拡大。ブランド看板を掲げた整備拠点を増やし、ユーザーとの接点を広げている。さらに「オートバックス」や「イエローハット」など量販店での展開も強化し、この二本柱でシェア拡大を目指す。
エンジンオイルは違いがわかりにくい製品だ。それだけに、技術とブランドの両方をどう伝えるかが重要になる。フェラーリとのパートナーシップ、F1イベント、GTLベースオイルといった技術ストーリーを組み合わせ、ブランドの魅力を高めていきたいというのが、日本法人であるシェル ルブリカンツ ジャパンの方針である。
個人的にもシェルは大好きなブランドで、シェルのサービスステーションがあった時代には、ハイオクを入れるならシェルと決めていたほど。そんなシェルが、その技術力で日本での存在感を高めてくれることを期待している。
(文=生方 聡/写真=シェル ルブリカンツ ジャパン、生方 聡/編集=櫻井健一)
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生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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