プジョーが「ターボ100」を発表 電動化をうたう一方で進めていた新エンジン開発の背景とは?
2026.05.14 デイリーコラム第3世代の1.2リッター直3ターボエンジン
プジョーは2026年3月16日に「Turbo 100(ターボ100)」という新しいエンジンを発表した。1.2リッター直3ターボのガソリンエンジンである。欧州では同年3月から「208」に、5月からは「2008」にも搭載されている。
プジョーは「2030年までに欧州で販売するクルマの100%を電気自動車(BEV)に転換する」戦略を推進している。その一方で、「Power of Choice(パワー・オブ・チョイス)」と称し、同じボディーでBEVとエンジン搭載モデルの双方をラインナップし、ユーザーの好みやライフスタイルにマッチしたパワートレインが選択できるようにしている。現実は100%BEV推しではない。電動化が急速に進んでも、世の中の状況が変わって電動化に歯止めがかかっても対応できるよう両面作戦を展開していることになる。
実際208にも2008にもガソリンエンジン搭載車やガソリンエンジンに48Vマイルドハイブリッドを組み合わせたMHEVに加え、「e-208」「e-2008」という同じボディー形式のBEVが設定されている。BEVに軸足を置き、エンジン車は完全BEVに移行するためのつなぎ。だから一応は設定している……のではなく、裏でしたたかに新しいエンジンの開発を行っていた。その証左がターボ100というわけだ。大仰なネーミングをつけてきたところに、プジョーの本気度がうかがえる。
前述のとおりターボ100は1.2リッター直3ターボエンジンだ。形式としては、現行208と2008に搭載されているユニットと同じである。情報量の乏しいプレスリリースに「第3世代」「70%が新しい部品」と記されていることから、ターボ100は既存ユニットの改良版であることがうかがえる。新しい部品に含まれるのは、タイミングチェーン、ターボチャージャー、燃料噴射システム、ピストン、シリンダーブロックなどである。
ベースは「EB型」だ。2012年に登場したときは自然吸気で、これが第1世代。2014年に登場した直噴ターボ版は第2世代の位置づけだろう。この直噴ターボ版は「PureTech(ピュアテック)」のペットネームが与えられていた。排気量は1199cc。ボア×ストロークは75.0×90.5mmである。ストローク/ボア比(S/B比)は1.21。基本設計は14年前ということになるが、現代的な視点でみてもS/B比は大きいほうだ。限度はあるものの、S/B比は大きいほうが燃焼室は相対的に小さくなり、そこから逃げる熱が減るため熱効率は高くしやすくなる(燃費は良くなる方向)。
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ミラーサイクルとの組み合わせで価格問題を解決
今回登場した第3世代も直噴ターボだが、情報量の乏しい(しつこい?)プレスリリースに記してある技術的なハイライトは、直噴インジェクターの最大噴射圧が350barになることと可変ジオメトリーターボチャージャー(VGT)、そしてミラーサイクルの適用である。ミラーサイクルは高圧縮比化とセットだ。
手元の資料だけでははっきりしたことは言えないが、第2世代の噴射圧は200barもしくは250barである。いずれにしても、ターボ100ではインジェクターの噴射圧を高圧化したことになる。噴射圧を高圧化すると燃料噴霧がより微粒化されて空気とよく混ざるため、満遍なく燃えて無駄がなくなり効率がアップするし、排ガスのクリーン化にも効く。
VGTはタービンハウジング内に可動式のベーン(小翼)を設け、これを制御することで排気の流路を狭くしたり、広くしたりする。排気のエネルギーが小さい低速では流路が狭くなるよう制御。排気流量が大きくなる高速では流路が広くなるよう制御することで、低回転から高回転まで効率良く過給圧を制御することができる。一般に、大容量のターボを適用すると低回転域でのレスポンス(ターボラグ)が課題になるが、VGTを使うことで解決でき、レスポンスと高出力化を両立できる。
VGTはディーゼルエンジンでは一般的になって久しいが、ガソリンターボエンジンへの適用は進んでいなかった。ディーゼルに比べて排気温度の高いガソリンエンジンでは可変ベーンに耐熱性に優れた高価な材料を使う必要があるからで、ゆえに「ポルシェ911ターボ」といった高価格帯モデルでの採用例が多かった。
販売価格が重要視されるクルマにも採用できるようになったのは、ミラーサイクルと組み合わせたから。ミラーサイクルは吸気バルブの閉じタイミングを制御することにより、圧縮比よりも膨張比を大きくする技術。圧縮比<膨張比にすると燃焼のエネルギーをより無駄なく使うことになり熱効率が高くなる(燃費が良くなる)。圧縮比=膨張比だと、本当はもっと仕事ができたのに、燃焼エネルギーがガスに十分に残ったまま、すなわち熱い温度を保ったまま排気行程で排気管に押し出されてしまう。
ところが膨張比を大きくしてやると、燃焼エネルギーはより多く圧力に変換されることになる。その結果、燃焼ガスの温度が下がる。よって、耐熱性に優れた高価な材料を使わなくてもVGTを使えるようになるというわけだ。
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エンジン開発の周回遅れを回避
ミラーサイクルには、吸気行程でピストンが下降しているときに吸気バルブを閉じる「早閉じ」と、下死点を過ぎて圧縮行程の途中で吸気バルブを閉じる「遅閉じが」ある。どちらも圧縮行程が短くなるので、実質的に圧縮比<膨張比が実現することになる。ターボ100がどちらを選択しているのか発表資料に記載はないが、過給エンジンとの組み合わせで一般的な早閉じだろう。この場合、吸気バルブが閉じた後で断熱膨張するため、下死点では吸気した時点よりも温度が下がり、ノッキング防止になる。
ミラーサイクルが高圧縮比とセットなのは、膨張比を大きくとるためだ。吸気バルブを早閉じ(もしくは遅閉じ)するので実効圧縮比は低くなるが、吸気の冷却効果もあるので過給エンジンでも比較的高い圧縮比を設定できる(ので、熱効率向上に効く)。EB型第2世代100PS(74kW)/205N・m仕様の圧縮比は10.5。ターボ100はいくつだろうか(プレスリリースに記載なし)。
吸気バルブ早閉じにしても遅閉じにしても、ストロークを目いっぱい使わないので、実質的には排気量を全部使い切らないことになる。それではトルクが出ないので、ターボを使って密度の高い空気を吸い込ませるわけだ。
ターボ100の最高出力は100PS/5500rpm、最大トルクは205N・m/1750rpmで、現行208に設定がある第2世代PureTechの110PS仕様と発生回転数まで含めてスペックは同一である(ターボ100の「100」は100PSに由来するのだろう)。では、350barの高噴射圧化とVGT、ミラーサイクルの採用にはどんなメリットが? と気になるところだが、主に高効率化のための技術なので燃費は良くなっており、VGTの効果でレスポンスに優れ低回転域から十分なトルクも発生するはずだ。
これらの高効率化技術3点セットはとっくの昔にフォルクスワーゲンが採用済みで、2017年に1.5リッター直4の「1.5 TSI evo」に、2020年に1リッター直3の「1.0 TSI」に最大350barの直噴インジェクターとVGT、ミラーサイクルを採用している(採用年はいずれも欧州。国内には遅れて導入済み)。
いじわるな見方をすれば、ターボ100に目新しい技術はない。目新しさはないが、一気に高効率エンジンのトップランナーに追いついたのは間違いない。それは、BEV一辺倒ではなく「エンジンもしっかりやり続けるよ」と態度で示しているように感じられる。
(文=世良耕太/写真=ステランティス/編集=櫻井健一)
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世良 耕太
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