ホンダ・スーパーONE(FWD)【試乗記】
よみがえったブルドッグ 2026.04.10 試乗記 ホンダの新たなコンパクト電気自動車(BEV)「スーパーONE」がまもなく発売。ベースモデルのサイズを拡大しただけでなく、シャシーも徹底的に強化。遊ぶことに真剣に向き合った、実にホンダらしい一台といえるだろう。サーキットでの印象をリポートする。世界デビューは英国で
ホンダ・スーパーONEの先行予約受け付けが、2026年4月16日に始まる。正式発売は5月下旬だ。思い返せば、このスポーツコンパクトBEVは、2025年7月の英国グッドウッドて開催されたフェスティバルオブスピード(FOS)で、「スーパーEVコンセプト」としてカムフラージュ姿が初披露された。そして、続く同年10月のジャパンモビリティショー2025で、正式なプロトタイプとともにスーパーONEという車名が明かされた。
FOSでの初公開時から各方面で報じられているとおり、このクルマは軽自動車規格のBEVである「N-ONE e:」をベースに、トレッドを拡幅してハンドリング性能を引き上げると同時に、パワーユニットも軽の自主規制にとらわれない性能を発揮するコンパクトBEVホットハッチである。あえてFOSでお披露目されたように、スーパーONEは日本専用のN-ONE e:とは異なり、英国と日本、そして豪州、アジアでも販売予定。……こう書くと、スーパーONEも例の「0シリーズ」と同じく、スケールの大きい世界戦略BEVにも映るが、実態はそうではないようだ。
開発陣の皆さんによると、スーパーONEの着想は、あくまで日本向けのN-ONE e:がキッカケという。N-ONE e:の企画開発中に「これをワイド化したら面白いんじゃね?」というアイデアがどこからともなく生まれて、試作車をつくってみたらホンダ上層部にも意外なほどウケて、商品化にゴーサインが出た。
そこにはもちろん「軽BEVをベースに販路を海外まで拡大できたら、開発コストの回収も楽になる」という計算もあっただろう。いずれにしても、こうした開発現場のノリがそのまま……みたいなところは、いかにもホンダらしい。実際、スーパーONEも現状は右ハンドル仕様しか存在しておらず、前出のスーパーONEの海外仕向け地も、よく見れば右ハンドル市場だけだ。
2つの専用ドライブモード
スーパーONEのベースは四角いプロポーションと丸目がキュートなN-ONE e:で、そこに拡幅したトレッドをカバーするオーバーフェンダーと、軽サイズにとらわれずに大型化された前後バンパーが与えられたイデタチは、まさに「現代の『シティ ターボII(通称:ブルドッグ)』」である。よくよく見ると、ヘッドライトを内蔵するフロントパネルには冷却口も追加されているが、それが左側だけなのは、右側の充電リッドが海外市場に対応して大型化されているせいでもある。インテリアも基本はN-ONE e:そのままだが、シートはN-ONE e:用のサイドサポートを強化した専用スポーツタイプとなっている。
スーパーONEは動力性能もN-ONE e:よりパワーアップしているが、総電力量29.6kWhという三元系リチウムイオン電池や、モーターにインバーター、ギアボックスを一体化したeアクスルなど、パワートレインのハードウエアそのものはN-ONE e:……ということは「N-VAN e:」も含めて共通という。つまり、N-ONE e:より約20km短い274kmになる予定という一充電走行距離(WLTCモード)は、N-ONE e:より60kgほど増える車重、ワイドフェンダーによる空気抵抗増、そして幅広スポーツタイヤによる転がり抵抗増……などによるものということだ。
もっといえば、スーパーONEに用意される5種類のドライブモードのうち、「ECON」「シティ」「ノーマル」の3つは、最高出力64PSという性能値からアクセル特性にいたるまで、N-ONE e:と選ぶところはないそうだ。シティモードは、N-ONE e:でいう「シングルペダルコントロール」に相当する制御となる。さらにそのうえの「スポーツ」、そしてステアリング上のスイッチで起動する「ブースト」の2つがスーパーONE専用のモードとなる。
鍛え上げられたシャシー
というわけで、今回は袖ヶ浦フォレストレースウェイでのプチ試乗取材のご報告である。当日はホームストレート省略+途中にパイロンスラローム追加……という特設コースを(完熟走行2周を含む)計5周というかぎられた試乗メニューだったが、なるほど、スーパーONE自慢のハンドリングと加速性能の片りんを感じ取ることはできた。
スーパーONEはN-ONE e:比で50mmワイド化したトレッドに、幅も直径も拡大した185/55R15サイズの「ヨコハマ・アドバン フレバ」を履かせている。このタイヤ自体は市販品そのままだそうで、同サイズの各社のタイヤを忖度なしで吟味したうえで採用したという。
この種のワイドトレッド化は、チューニングカーの世界ではホイールオフセットの変更だけでおこなうケースも少なくない。しかし、そこはメーカー純正、しかもこういう仕事では手を抜かないホンダらしく、フロントは専用のアルミ鍛造ロアアームを新作、リアでは専用ハブを採用することで実現している。
さらには、コイルやダンパー、パワーステアリング制御が専用チューンになるのはもちろん、フロントハブも剛性アップした専用品、リアトーションビームも強化型となっている。加えて、長いほうを太くした“左右等剛性”ドライブシャフト、フロントブレーキディスク拡大(13インチ→14インチ)、リアドラムブレーキのピストン径アップ(15mm→19mm)、そしてパワステのクイックレシオ化など、シャシーの仕立ては、微に入り細をうがつ凝った内容となっている。
実際、スーパーONEは俊敏でよく利くステアリングが印象的だが、ただただ敏感なだけでなく、しっかりと荷重移動とストロークをする接地感に感心した。また、リアの安定感も低くない。あくまでかぎられた条件下での推測ではあるが、一般道や荒れたワインティングロードでの乗り心地も悪くなさそうだ。
解き放たれたパワー
繰り返しになるが、パワートレインについては計5つのドライブモードのうち、スポーツとブーストという2つが、スーパーONE専用だ。スポーツモードは64PSという最高出力はそのままに、アクセルレスポンスが引き上げられたうえで、加減速やパドル操作によって、7段DCTを組み合わせたエンジン車のようにふるまう。疑似変速時には適度にシフトショックまで再現される。と同時に、そこには専用のBOSEサウンドシステムをフル活用した疑似エンジン音も加わるので、乗り手はいよいよエンジン車と錯覚しそうになる。
さらに、ステアリングスイッチでブーストモードを起動すると、N-ONE e:やN-VAN e:、あるいはこのクルマでも他のモードでは厳格に64PS以下に制限されていたパワートレインのポテンシャルが、ついに全解放となる。最高出力は95PSまで引き上げられて、アクセルレスポンスはさらに鋭く、BOSEが奏でるエンジン音はさらに盛大に、そして疑似シフトショックも強まる。
とはいえ、1090kgに95PSなので、サーキットとしては小さめの袖ヶ浦とはいえ、高速セクションでの伸びには限界がみえる。しかし、その手前での嬉々としたような加減速とハンドリングはすこぶる楽しい。また、この事前の予想以上にしなやかな調律のフットワークなら、今回のようなミニサーキットだけでなく、一般の山坂道でも楽しめそうだ。スーパーONEの性能開発担当者によると「高速のインターチェンジや小さめのジャンクションにある20Rのカーブでも楽しめように、意識して味つけしてあります」とのことだ。
スーパーONE最大の課題は、現実的にストレスなく走れるのが200km弱といったところの一充電走行距離だろう。ただ、その範囲内でスーパーONEならではの走りを楽しめる環境にあるなら、これほど気軽に、周囲に迷惑をかけず、楽しめるオモチャは貴重である。
(文=佐野弘宗/写真=本田技研工業/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
ホンダ・スーパーONE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:2520mm
車重:1090kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:95PS(70kW)
最大トルク:162N・m(16.5kgf・m)
タイヤ:(前)185/55R15 82V/(後)185/55R15 82V(ヨコハマ・アドバン フレバ)
一充電走行距離:274km(WLTCモード)
交流電力量消費率:--Wh/km
価格:--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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