ロールス・ロイス・ゴースト エクステンデッド(4WD/8AT)
孤高の境地 2026.05.11 試乗記 「ロールス・ロイス・ゴースト」が「シリーズII」へと進化。先進性の強化とともに目指したのは、ブランド史上最もドライバー志向のサルーンだという。ロングホイールベース版の「エクステンデッド」で雲の上の世界を味わってみた。順風満帆のロールス・ロイス
ロールス・ロイスの販売台数は、ここ5~6年、軽い増減を繰り返しながら6000台近辺で推移している。コロナ禍に始まり唖然(あぜん)とするような事態の連続で世界情勢が不安定化した2020年代においても、鳥瞰(ちょうかん)的に見れば微動だにしていない。
さらに興味深いのは、彼らが台数的成長に対してガッつくそぶりがないことだ。まず顧客の平均年齢が40代前半と、実は同門のBMWやMINIよりも若い。そんなカスタマーが好んでスペシャルトリムやビスポークプログラムを選んでいるわけで、当然台数あたりの単価も上がっている。ちなみに日本市場では「ブラックバッジ」シリーズの選択率が他のリージョンよりもずぬけているという。つまりビジネス環境的に変革を迫られる課題は当面見当たらないということにもなる。
「ロールス・ロイスって、世相や経済がどう変われど、日本での販売台数はびっくりするくらい変わらず安定してるんですよね」
そんな話をコーンズの営業のお偉いさんから聞いたのは、2000年代のあたまだった。ちょうどBMWの傘下となることが決まり、ビジョンが不透明な頃合いだったが、バブルの浮沈も見届けてきた氏は、現場での手応えをもって日本におけるロールスのロイヤルティーを見極めていたのだと思う。
あれからおおむね四半世紀。台数のみで測ってもロールスのビジネスの規模は十数倍に及んでいる。ブランドのエントリー層を「カリナン」のような目新しいモデルが囲っている背景は想像に難くない。一方で、本流はサルーンにありと考える向きも根強く、海外では前述のような若いカスタマーがオーナードリブンを主目的に「ファントム」を選ぶことも珍しくはないという。
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人手をかけてつくり込む
そんななかでもゴーストがブランドの軸足であることは、何より歴史が示してもいる。名称的ルーツとなる「シルバーゴースト」は、1900~1910年代にかけて成功を収めたラグジュアリーサルーンとしてロールスの礎となり、その後にファントムシリーズが登場する契機ともなった。そして第2次大戦後はファントムがショーファードリブンの頂点として君臨。「レイス」「クラウド」「シャドウ」といったオーナードリブン兼用のモデルラインがブランドの中軸となる、現在の枠組みが確立された。
現行型のゴーストが登場したのは2020年のことだ。掲げたコンセプトの「ポスト・オピュレンス=脱・贅沢(ぜいたく)」は、個人的には洒落(しゃれ)を知り尽くした先にある洒脱(しゃだつ)の意と理解している。
撮影車の後席に乗り込んでみれば、天井に広がるのは満天の星だ。21世紀のロールスにおいて大人気のオプションとなった「スターライトヘッドライナー」は、職人が2人がかりで1000本以上の光ファイバーを埋め込むというその工程のアナログぶりに唖然とさせられた覚えがある。一事が万事で、ロールスのクルマづくりはデジタルが黒子に徹し、人手が前面に立って製造や加飾が施されている。アッセンブリーのタクトタイムはあるにはあるが、取材した際にはゴーストで90分、ファントムで180分と、それは浮世離れしたものだった。自分のような民草からすれば贅(ぜい)の極みのようなそののれんが、ゴーストではなお新しいラグジュアリーを模索しているという、その宇宙的隔世に思いを巡らせるしかない。
ゴーストは2024年秋に意匠変更を含むマイナーチェンジが施されている。とはいえ、灯火類の意匠や形状、内外装の照明や加飾の変更など発表されている詳細はわずかだ。公式には「ゴースト シリーズII」と名乗るが、語られる言葉は少ない。油臭いことに関してはことさら触れられることもないのは、それはメカニックのお仕事領域で、オーナーがそんな詳細を把握しておく必要はないという伝統の継承だろうか。
ドライバーズカーとしてのゴースト
クルマ好きのわれわれとしてはそうもいかないのだが、新しいゴーストのメカニズムに基本的な変化はない。BMWのN74系をベースとする6.75リッター12気筒ツインターボの最高出力571PS/最大トルク850N・mというアウトプットはピタリ前型と同一だ。「プラナーサスペンションシステム」を構成する、ダブルウイッシュボーンのアッパー取り付け部に減衰や車高調整機能を持たせた「アッパーウイッシュボーンダンパー」や、ステレオカメラによるサーフェススキャンのデータを基にダンピングを先読み制御する「フラッグベアラーシステム」といったデバイスも継承している。そして駆動方式は0:100をベースに最大50:50まで前後の駆動力配分をコントロールする4WDを採用。トランスミッションはZFの「8HP」……と、タイヤサイズに至るまでスペックはまるっと一緒だ。
12気筒ならではの軽やかなクランキングからシュワーッと目覚める12気筒は、適度に張りのあるシートや細身のステアリングといった接点から伝わる肌触りが、相変わらずエアリズムのようにスルスルサラサラしていて気持ちがいい。一方で、ステアリングやシフトセレクターといった操作ものの触感は油圧を挟んでいるかのようにヌメッとしている。アクセルやブレーキのペダルはそれ自身の質量も含めて踏力が丁寧に合わせ込まれており、ドライバーの意のままに加減速度を調整できる。車格を感じさせない軽さはない。あえてだろう、クルマの格を常にどこかで感じさせる、そんな調律が行き届いている。
ゴーストはロールスのラインナップのなかでも、最もコーナリングパフォーマンスにたけたクルマだ。「スペクター」は重心や駆動配分の利も大きいが、こちらはあくまでシャシーが主役というスタンスで、路面とのコンタクト感や車両姿勢などの情報をうるさくない程度にドライバーに伝えてくれる。エクステンデッドはベースモデルに対してホイールベースが170mm長く、車体の全長は5715mmと標準ボディーのファントムに限りなく近づくが、郊外路やワインディングロードではその長尺が重荷にはならない。さすがにベースモデルほどの一体感には届かないが、山道でぎゅんぎゅんいわせるような域に持ち込まなければ、むしろ長いほうがニュートラルにも思えてくる。
この長さの利だけではないと思えるのが乗り心地の良さだ。平滑を意味するプラナーの名を冠しているくらいだから、サスペンションの味つけはスーパーフラットを狙っているのだろう。確かに故意に多少ラフな運転を試してみても、乗員が大きく揺すられるようなそぶりもみせない。2.5tのマスを、あまたのデバイスも駆使しながら違和感なく巧みに操るあたりは見事なお手並みだ。
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ロールスならではの「ワフタビリティー」
一方で、運転実感のための情報の取捨選択ぶりからは、前型よりもさらに深化した一面が見えてくる。それにしてもランフラットタイヤの減衰特性が日本にありがちな路面と合わないのか、橋脚段差のような人工的な凹凸で時折カツッと小さな突き上げが現れるのが相変わらず惜しい。が、相変わらずといえば風切り音やロードノイズなど走行時のノイズ要素も、これでもかの勢いで封じ込められている。
ゴーストは12気筒のパワートレインや四駆のドライブトレインといった内側からの音・振動を源流対策的に取り除いてきた一方で、こういった外部からの音に対しては圧倒的な物量でふさぎ込むといった策も施している。後席まわりだけで約100kgという遮音材の配置については、開発時にはさらなる積み増しで限界まで静粛性を追求したというが、できた空間が無音にすぎると乗員にとってはかえって不穏な心持ちになるという結論に達し、安らぎのためにあえてわずかに音を透過させているという。そういう、ニュアンスのための微妙な抜き差しも、贅を突き詰め続けたがゆえに達せられる境地だ。
ロールス・ロイスは自らの乗り味について「ワフタビリティー」という言葉を用いて説明することがある。ふんわり漂うという意の「waft」と能力という意の「ability」を組み合わせたものだが、言葉に明るい人に聞いても英国で頻用されるものではないというから、ロールスのなかで代々語られてきた半ば社内用語ということになるのかもしれない。
と、ゴーストに乗るとこのワフタビリティーが示すものが手に取るように伝わってくる。全域でたゆたうように距離を刻んでいくそのドライブフィールは他に比べるものがなく、踏めば速いしきちんと曲がることは分かっていても、そんなことをやる気にもまったくさせられない。あまたのクルマはこの速度域が一番気持ちよくクルマが走れているなあと収斂(しゅうれん)するゾーンがどこかにあるものだが、ゴーストははうような発進域も高速巡航域も、動いている時間のすべてに何かしらの功があるスイートスポットだ。
もはやロールス・ロイスの動力源は内燃機よりもはるかに静かで滑らかな電動へと移行しつつあるし、個人的にはそれをネガだとはまったく思わない。さりとて内燃機でここまでまろやかな味わいを引き出せるという、彼らならではの孤高の境地は、クルマ好きの抱くロマンと相通じるものがあると思う。
(文=渡辺敏史/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝/車両協力=ロールス・ロイス・モーター・カーズ)
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テスト車のデータ
ロールス・ロイス・ゴースト エクステンデッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5715×1998×1571mm
ホイールベース:3465mm
車重:2545kg
駆動方式:4WD
エンジン:6.75リッターV12 DOHC 48バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:571PS(420kW)/5000-6000rpm
最大トルク:850N・m(86.7kgf・m)/1600-4250rpm
タイヤ:(前)HL255/35R22 102Y XL/(後)HL285/30R22 104Y XL(グッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツ)
燃費:15.8-15.3リッター/100km(約6.3-6.5km/リッター、WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:6880km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:299.6km
使用燃料:46.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.4km/リッター(満タン法)/6.5km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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