第112回:ホンダデザインにささぐ鎮魂歌(前編) ―野心的な「Honda 0シリーズ」に覚えた違和感の正体―
2026.05.13 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
ついに開発中止が発表された、ホンダの次世代電気自動車(BEV)「Honda 0サルーン/SUV」と、ソニー・ホンダモビリティの「アフィーラ」。しかし両者のカーデザインには、かねて疑問が投げかけられていた感がある。ホンダが社運をかけて挑んだ野心作に、私たちが違和感を覚えた理由とは? 有識者と考えた。
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もはや日の目を見ることはない
webCGほった(以下、ほった):今回は渕野さんのご提案で、ホンダデザインの総ざらえといいますか、今このタイミングで、ちょいと総括しておきたいと思います。このところ、いろいろあった部分も含めて。
清水草一(以下、清水):いろいろねぇ。
ほった:いろいろです。Honda 0もアフィーラも、日の目を見ないことになっちゃいましたからね(その1、その2)。ホントは発売の際にドカンと取り上げたかったんですけど、その機会は未来永劫(えいごう)、失われてしまいました。
渕野健太郎(以下、渕野):まず前提として、私は現在のホンダデザインのファンなんです。それを踏まえて話を聞いていただきたいと思います。
取りあえず、2つのモデルが開発中止になったHonda 0からお話しましょう。結局0シリーズは、サルーンとSUVが開発中止になって、インドで生産される「Honda 0 α」だけが残るってことですよね?
ほった:αも開発は継続ってことになってますけど、現状を思うと、それもどうなるか。
清水:インドで生産してアジア地域で売るってだけでは、厳しいよね。具体的にどこで売るかは知らないけど、ASEAN諸国で中国製BEVに勝てるイメージがない。
ほった:全部お蔵入りでHonda 0はお家断絶って可能性も、あると思います。
清水草一:あのデザインについても、この連載でも何度か疑問を投げかけてきたけど……まさか中止になるとはねぇ。
ほった:清水さんは予想してたんじゃないですか? ていうか、「やめたほうがいい」って言ってましたよね。(参照)
清水:言ってたけど、まさかホントにやめるとは思わなかったよ。
渕野:ホンダデザインって、シンプルを追求してるがゆえに批判的な人もいますよね。でもデザイナーかいわいではすごく評価が高いし、好きだっていう人も多いんですよ。
清水:それは“今の”ホンダデザインが、ですよね?
渕野:そうです。“今の”です。
清水:確かに、今の日本のラインナップはいいデザインが多いと思いますよ。ただ、0シリーズはどうにも解せなかった。
渕野:そのあたりをしっかり振り返っておきたいんです。
ほった:今がチャンスと、やみくもにたたくのではなくてね。
かつてないクルマのカタチを目指して
渕野:Honda 0シリーズについては、以前ほったさんとホンダ本社に見に行きましたよね?(参照)
ほった:今はなきホンダ青山で、「SALOON(サルーン)」と「SPACE-HUB(スペースハブ)」を見ましたね。ホントのホントに最初のショーカーで、サルーンはまだガルウイングドアだった。
渕野:そうそう。で、開発の方からお話もうかがえました。そのときは皆さん、大きな期待感を抱いていたように思います。デザイン面からいっても、特にサルーンのほうは、これまでのカーデザインとはだいぶ違うことをやっていました。これを本当に市販化すると聞いたときは、驚きましたよ。
このクルマ、プランビュー(上面)から見ると、フロントフェンダーやフロントタイヤあたりが膨らみのピークで、そこからぶわーとボディーを絞っていく造形なんです。いっぽうで、ドアとサイドガラスはすごく立ってるんですよね。すごく切り立ってるものを、前後ですごく絞ってる。横から見た際のシルエットも、かなりワンモーションです。これはすごくチャレンジングな造形ですよ。「これ、本当にやるのか!?」と(笑)。
清水:俺も、「ランボルギーニ・エスパーダ」の復活か!? と思いました。
ほった:ぜんぜんカタチがちゃいますがな!
清水:違うけどさ、ちょっと似てない? 「こんなクルマ買う人いるのか」っていう疑問点も含めて(笑)。
渕野:そうなんですよ、そこなんです。チャレンジングなのはよかったんですが、あのクルマ、中に乗り込むとキャビンのヘッドクリアランスがカツカツだったんですよ。ドアを閉めたらかなりタイトに感じたはずです。
ほった:なのに車名は“サルーン”だったわけですよね。GTとか〇〇ツアラーじゃなくて。
渕野:そう。そういうところも含めて、「このクルマ、どういう人がターゲットなんだろう?」っていうのが、いまひとつわからなかった。
清水:いやー、まったく見えなかったですね。「世界のどこかに、ホントにこのクルマを求めてる人がいるのかな?」って思った。
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誰が買うの? 誰のためのクルマなの?
ほった:渕野さんは、Honda 0 αについても似たような指摘をされてましたよね(参照)。個人的に、ユーザー像が見えないデザインって意味では、テスラとか最近のKiaなんかも同じだと思うんですが、Honda 0はそこが決定的に違った気がします。パッケージングとかコンセプトも含めて「?」ってなったのは、確かにHonda 0が初めてだったかも。
渕野:そうですね。サルーンについては、その次の段階で顔まわりを変えて、ドアをガルウイングから普通のヒンジタイプにしてきました。ただこのときも、プロポーションはそこまで変わってなかった。その時点で皆さん、「もう見飽きた」とか言ってましたよね。
ほった:言ってた、言ってた。みんな気が短い(笑)。
渕野:ほかにも、出してすぐお蔵入りになったらしきミニバン(スペース ハブ)と、こちらは市販化を前提にした「SUV」もありましたけど……どれも、どうにもターゲットがわかりづらかったというのが正直なところです。
清水:ただひたすら「無縁感」しかなかったですよ。「自分とは関係のないクルマだわ」っていう。それよりさらにダメだと感じたのがアフィーラだけど。
渕野:それについても「もうやめればいいのに」って言ってましたよね。どちらも現実になっちゃいましたが。
清水:まさかホントになるとは(汗)。
渕野:情勢が変わって採算が取れないっていうのはわかるんですけど、コンセプトそのものやデザインそのものに対しても、正直なところ、疑問を抱かざるを得ませんでした。
清水:0シリーズのデザインは、あまりにも「変わったことしよう」って振りすぎてたと思うな。機能の裏づけなしに、個性的な造形であることが目的になっちゃったみたいな。アフィーラは違いますけどね。アフィーラのデザインはただただ退屈だったので。
ほった:あれで10万ドルですからねぇ。
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ホンダが培ってきた強みとアイデンティティー
清水:歴代ホンダの傑作デザインは、理想と現実とのバランス感覚が抜群だったと思うんですよ。最初の「ライフ ステップバン」に始まって、初代「アコード」、3代目「シビック」、初代「オデッセイ」と続く感じですが、どれも都会的でスタイリッシュでありながら、機能的で実用性が高かった。でも0シリーズは、そういう現実を無視したデザインだったでしょ。
渕野:ですね。加えて現代の「N-BOX」や「ステップワゴン」などは、どれもシンプルを志向してますよね。それが今の、ホンダデザインの本筋だと思います。
これは自分がつくったもので(本稿写真参照)、世界の自動車ブランドを、カーデザインの特徴に応じてマッピングしたものです。横軸はシンプル重視かキャラクター性重視か、縦軸は実用系かエレガント系かで振り分けているんですが、これを見ると、今のホンダデザインがすごく攻めていることがわかります。要はホンダは、あまたあるブランドのなかで唯一“シンプル系かつ実用系”のポジションにあるんですね。飾らない生活の道具感が強い。
ほった:無印良品をも超える潔さがイイっていう。
渕野:いっぽうで横軸の反対側、要はエレガントや洗練性を重視する側には、当然ながらメルセデスなどの高級ブランドがきます。じゃあほかの大衆車ブランドはどうなのかというと、だいたいが“実用系かつキャラクター系”なんですよ。たとえばアウトドア志向だったり、かわいらしかったり、ガンダムチックだったり。
清水:シンプルを目指した大衆車ブランドは、全世界でホンダだけなんだ。
渕野:ですね。しかもホンダは、シンプルを徹底的にやっている。一番近いのはフォルクスワーゲンですが、最近はワーゲンもだんだんキャラもの路線に振ってきているでしょう。個人的には、ホンダはこのユニークなポジションのまま、攻め続けてほしいんですよね……。
それはさておき、そんななかでHonda 0シリーズはどこかというと、徹底的にシンプルなままで、エレガント系へ移行したかったのかなと思います。つまりシンプルな高級車ですね。今そこにいるのはどのブランドかというと、究極はランドローバーです。
清水:そうか。Honda 0はレンジローバーを目指していたのか!
アートに振り切ったHonda 0に覚えた違和感
渕野:今のランドローバーって、フォルムはシンプルだけどものすごくプロポーションにこだわってますよね。Honda 0を最初に見に行ったとき、「上質感とか芸術性を目指した」って開発陣から聞きましたけど、それってつまり、アートの方向にいきたかったってことでしょう。
清水:ううむ。アートは一日にして成らずだよ。
渕野:それに、そもそもホンダは「そうじゃない」と思うんです。「M・M(マンマシキマム・メカミニマム)思想」にも表れていますけど、やっぱり生活に根づいたクルマっていうポジショニングだし、むしろそこがホンダの強みだったんじゃなかったのかと。そういう意味では、現状のラインナップはすごく理解できるんです。
ほった:そこに、ある日突然0シリーズがきちゃったわけですね。
渕野:皆さんが0シリーズに違和感を抱いたのは、今までのポジションからの乖離(かいり)が、あまりに激しかったからじゃないでしょうか。それぞれのブランドには役割とか、長年培われてきたイメージっていうのがあって、そこから外れたことをすると「あれ?」ってなりがちですよね。
清水:ポジショニングを変えて、ブランド価値を上げようっていうチャレンジはナイスファイトだけど、今回はうまくいかなかったってことですね。
渕野:皆さんが抱くホンダのイメージに、うまくリンクさせられなかったのかなと思います。
(後編へ続く)
(語り:渕野健太郎/文=清水草一/写真=本田技研工業、ソニー・ホンダモビリティ、JLR、ランボルギーニ、newspress、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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