第967回:初代「トヨタ・クラウン」や“ヨタハチ”が「ミッレミリア」を走った!
2026.06.25 マッキナ あらモーダ!今年もシエナにやってきた
数年前、YouTubeを視聴していて、ある動画を発見した。3人組テクノポップユニットのPerfumeが、イエロー・マジック・オーケストラ(以下YMO)の名曲に合わせてダンスしているものだ。それを見た筆者は、Perfumeの公式ビデオとしばらく信じ込んでいた。ところが後日あらためて説明を読むと、投稿者がYMOの音源とPerfumeの既存映像を巧みにシンクロナイズさせたものであることが判明した。「妄想共演」だったのである。
閑話休題。今回は2026年6月9日から13日までイタリアで開催されたヒストリックカーラリー「ミッレミリア」のお話を。
ミッレミリアは1927年から1957年まで開催された公道スピードレースを源流とする。今日のものは1977年に開始された復活版で、区間タイムの正確さを競うラリー形式が採用されている。
筆者が住むシエナは、オリジナル時代からの定番ルートで、2026年は第3レグの6月11日に組まれていた。当日朝にトスカーナ州の温泉保養地、モンテカティーニ・テルメを出発した参加車両は、正午過ぎに次々とシエナのランドマークであるカンポ広場(ピアッツァ・デル・カンポ)に昼食および休憩のため到着した。
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おなかいっぱい感の正体
2026年は400台を超える車両が参加リストに名を連ねた。ただし、近年のミッレミリアに対する筆者の感想を今風の言い回しで表現するなら、「おなかいっぱい感」があったのが正直なところである。30年間イタリアで観察してきた筆者としては、珍しいモデルに出会う可能性が低くなってきたのである。その背景には、参加可能車両が「スピードレース時代のミッレミリアで出走した車両、もしくはその同型車」という厳密な規定がある。欧州のオークションや専門ショーでは「ミッレミリアにエントリー可能」といった説明が付いた出品車を時折見かける。しかしそれらは既に参加済みであったり、レストアが終わった車両であったりする。いきなり数が増えるものではない。
オーガナイザーもそれを察しているのは明白だ。開催期間中に歴史車両とほぼ同一のコースをたどれる新イベントを次々と打ち出してきた。モダンフェラーリのオーナーでも参加可能な「フェラーリ・トリビュート」、バッテリー電気自動車(BEV)による「ミッレミリア・グリーン」、オーガナイザーと友好関係にある団体による「ミッレミリア・フレンズ」などが代表例だ。ただし、残念なことに歴史的文脈が希薄である。
ゆえに、2026年のミッレミリアもクルマを見たいというよりも、必ずといってよいほど沿道に現れる顔見知りの地元自動車好きたちと会うためにシエナ旧市街に立った。
ひとりの若者がミニチュアカーとペンを、あるスパイダーのナビゲーターに渡した。誰かと思えば、元F1ドライバーのジャンカルロ・フィジケラ氏だった。彼は快くサインに応じてからドライバーとともに去っていった。
やがて、従来ミッレミリアで見たことがないモデルが筆者の目の前に姿を現した。
日本ブランドとして初の参加を果たす
その金色をしたクルマを最初に見た印象を正直に記せば、旧ソビエト車かと思った。もしくは、ミッレミリアと「カレラ・パナメリカーナ・レース」の双方に出場した1950年代の米国車かとも考えた。だが、それにしては車体が小柄である。
よく観察すると、日本のナンバープレートが装着され、後部には日の丸のステッカーが貼られているではないか。トランクリッドには「TOYOPET」のバッジがある。そう、初代「トヨペット・クラウン(RS型)」だった。後方には現行型クラウンがサポートカーとして続いていた。
さらに、他の歴史的車両に交ざるかたちで、“ヨタハチ”こと「トヨタ・スポーツ800」や、「2000GT」「スープラ(JZA80型)」といったトヨタ車のほか、「レクサスLFA」も確認できた。
カンポ広場の手前で、入場待ちによるちょっとした渋滞が起きたため、乗車中のスタッフに話を聞いて理由が判明した。
今回トヨタが参加したのは「ミッレミリア・グランツーリスモ・エクスペリエンス2026」と題した企画であった。後日閲覧した報道資料を要約すると、ミッレミリアとドライビングシミュレーター『グランツーリスモ』を展開するポリフォニー・デジタルが企画した新しいサポートイベントである。
日本車および日本メーカーがミッレミリア関連イベントに出走/参加するのは、これが初めてだという。そして前述の5台を選択した理由は、「トヨタが重ねてきた歴史とモータースポーツを起点とした“もっといいクルマづくり”の歩み、日本のクルマ文化を伝える」ことであったと説明している。さらに参加の意義として「大会および地域に根付く欧州のクルマ文化を現地現物で学ぶ」とつづられている。実際、普段は開発部門に籍を置いているというクルーに筆者が聞いたところ、「こうした旧市街の石畳をはじめ、イタリアのさまざまな路面を走破することは大変いい経験になった」と感想を明かしてくれた。
素晴らしき妄想共演
1950~1960年代のトヨタ車は、イタリアでは限りなく無名である。それゆえに、クラウンRS型にはスマートフォンのカメラがたびたび向けられ、スポーツ800のドライバーには地元の少年たちが興味深げに話しかける。
筆者はといえば、カンポ広場に向かって走るトヨタ製歴史車の姿を眺めながら、ある想像を巡らせていた。クラウンRS型は1955年の発表だ。前述のとおりレースとしてのミッレミリアの最終年は1957年なので、十分間に合っていたことになる。当時のトヨタはRS型で1956年にロンドン~東京5万kmドライブに、翌1957年には豪州一周ラリーに挑戦していずれも完走している。もしもトヨタがミッレミリアにも参加していたら、今回筆者の眼前で展開されたような光景になっていたに違いない。さらにスピードレースがあまりに危険すぎるという理由で中止されていなければ、スポーツ800や2000GTも善戦していたかもしれない。
そう考えると、今回のミッレミリアは悲観から一転、冒頭のYMO+Perfumeの妄想共演に匹敵する楽しみを筆者に与えてくれたのである。
2027年は第1回ミッレミリアから100年を迎える。どのような新企画が組まれ、どのようなクルマが登場するのだろうか。
(文と写真=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/編集=堀田剛資)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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