ホンダのビーチクリーン活動が20年の節目に 本田宗一郎が涙したというそのルーツとは?
2026.07.01 デイリーコラム15人からスタートした清掃活動
さる2026年6月14日のこと。大分県の田ノ浦ビーチで恒例となったビーチクリーン活動が催されました。これは主に地域のディーラー網からなる大分県ホンダ会と本田技研工業、ホンダ太陽の3団体が共同運営する催しです。今年は活動開始から20周年ということもあり、プロアマ混合の天皇杯ではJ1キラーで名をはせる実業団系サッカーチーム、ホンダFCの選手もゲスト参加していました。
ときに、ビーチクリーン活動の端緒となったのはホンダのオールテレーンビークル=ATVの開発者が市場調査に訪れた海岸で出くわした光景だったといいます。砂浜が漂着ゴミであふれる様子をみて、素足で歩ける浜を次世代に残したいということから有志を募り、その活動はホンダ社員やOBも含め15人でスタートしたそうです。
その後、ATVの開発部隊が中心となって、砂を掘る(大きな)レーキやかき出したゴミを砂と分別するサンドスクリーンなど砂浜掃除に適したさまざまな機器を独自に開発。けん引球に接続してATVで引っ張るというお掃除の原型づくりに4年近くの時を費やしたといいます。その辺りの経緯はホンダのオウンドメディア「Honda Stories」に詳しいので割愛するとして、今ではこのビーチクリーン活動、2025年の実績で7247人が参加し、約25t超のゴミを回収したそうです。その性質上、活動は海開きの前後に集中。今年は北海道から沖縄まで計31回の開催を予定しています。
今回は20周年の節目を彩る一環として、10~15歳の子供を対象にした小さなビーチクリーナーもお披露目されました。これは主に北米で販売する90ccのATVをベースに車格に合わせたレーキを装着したもので、この10月に神奈川の由比ヶ浜海岸で行われるクリーン活動において実戦デビューする予定だそうです。ちなみに大人用のビーチクリーナーは675ccの単気筒に3段ATの組み合わせで、さらに直近では「サイドバイサイド」と呼ばれる並列2人乗りの電気自動車(BEV)バギーも活動に加わっています。
子供だって乗ってみたい
今回発表された新たなビーチクリーナーは児童向けということで、スロットル開度を物理的に制限することで速度を低く調整。見守りの大人たちが直感的に操作できるひも抜き型のキルスイッチもお尻のところに装着されています。ビーチクリーンのためとはいえ、独自の運転作法があるATVには遊園地のゴーカートのようにホイッと乗せてもらえるわけではなく、大人も子供もきちんと所定の講習を受けることが求められるそうです。特に大人用の大きなATVに関しては、習熟に1日を費やすこともあって、基本的にはその講習を済ませたホンダの関係者がハンドリングしています。
でも、ビーチクリーン活動に参加している子供からすれば、砂浜を力強く走るビーチクリーナーの姿を見れば乗ってみたいと思うのが当然のことでしょう。ならば、安全な環境のもとで、しかも社会貢献活動を通じて、モビリティーの感動や可能性を感じてもらう機会として子供が扱えるビーチクリーナーはありだろうと。いや確かにそう思います。というか、20年もやり続けているんだったら、もっと早く用意してあげてもよかったのかもしれません。でもそこはホンダとして安全性も担保しないといけませんから、さまざまな検証や検討を積み重ねて今に至ったというわけです。
ちなみにこのビーチクリーン活動、あくまでご当地のホンダ関係者が主導して行うという形式で、本田技研工業は車両や機器・什器(じゅうき)の用意とそれにまつわるスタッフのサポートというオペレーションで運営されています。それゆえか、技研側スタッフのユニフォームの「HONDA」ロゴは控えめ、関東から機材を運んできたとおぼしきパネルトラックも化粧っ気はまったくありません。通りすがりにはホンダのイベントごととは思わないほど地味なのは、まさに社会貢献の精神がこの活動の源泉になっているからなのだと思います。
ホンダ太陽とは何か?
と、ここでダラダラ長い拙文を冒頭からお目通しいただいている根気強い読者の方々も、なかなか解けない疑問に対して、さすがにイラッとしているころ合いかもしれません。
ん? ホンダ太陽??
そうなんです。大分市からも別府温泉からもほど近い県民のオアシス、田ノ浦ビーチでのクリーン活動の運営を支える一角、ホンダ太陽って一体なんですのん? とお思いの方もいらっしゃるかと存じます。
それを知るには時計の針を60年以上昔の1965年にまで巻き戻す必要があります。別府生まれで九大医学部卒の整形外科医、中村 裕博士は、留学先のイギリスで脊椎損傷者の社会復帰支援の姿勢に感銘を受け、障がい者のスポーツを通じたリハビリテーションによる自立や社会参加への道を日本で模索し始めます。障がい者を見世物にするのかと飛び交うヤジにもめげず、1964年の東京オリンピック後に行われた東京パラリンピックを主導し、その興奮さめやらぬ1965年には、彼らが社会参加するための機会を増やす社会福祉法人となる太陽の家を故郷の別府に創設しました。
障がい者には保護より機会を! と訴え続けてきた中村博士。その意は、生き抜きの厳しい社会の荒波から守ってあげなければというのではなく、その荒波のなかを自分で漕いで進む術(すべ)を身につけるための社会参画の機会を……ということだと察します。当時の風潮を思い起こせば、誤解も招きかねないほどクレバーな志だったのかもしれません。
でも、その行間をきちんと読んでくみ取れる大人な経営者たちは、時とともにじわじわと増えていきました。まずはオムロン、そしてソニーと賛同企業が名乗りを上げ、きちんと対価のある業務発注を通じて、賃金や運営費用をサポートしていこうという動きが広がっていったそうです。
障がい者が働ける環境を構築
と、そこで登場するのが本田宗一郎さんです。マブダチだったソニーの井深 大さんに誘われて足を運んだ太陽の家で、中村博士の話を聞き、障がい者たちが働く現場を見て、おいおい涙が止まんねえよとボヤキつつ、これこそホンダがやるべきことだと即日ジョインを決定。その後は周囲が驚くようなスピードで障がい者が働ける環境を構築なさったそうです。
ちなみにホンダ太陽の沿革をみると、本田宗一郎さんは1978年1月に太陽の家に来所し、その4月には精機科を発足。7月からはホンダと縁の深い日本精機のスピードメーター生産の一翼を担うようになったと記されています。時期的には2代目「シビック」のターゲットメーターの一部を手がけていたりしていたのかもしれません。当時はすでに社長を退いていましたが、重要な計器部品を半年で担わせるように仕上げたわけですから、その行動力たるや推して知るべしといったところでしょう。
その後もホンダは太陽の家との連携を強化し、1981年には日本精機も交えてホンダ太陽株式会社を共同設立。スタンレーやミツバなどホンダとの縁の深いサプライヤーも参画し、業務的に成長軌道に乗った1990年代、ホンダ太陽は太陽の家の出資を受け入れつつ、自ら別府に近い日出町に土地を取得して工場を設立。独立した会社としての体を整え始めます。そして今に至るわけですが、特筆すべきは会社としてこつこつ成長を続けていることです。現在の従業員数は400人超と、社屋的にもキャパがパンパンということで、取材に訪れた現地では福祉棟の増築工事の最中でした。
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ワールドレコードを支えるホンダ太陽の技術
現在のホンダ太陽の主な業務は、ホンダ車の部品製造に携わるティア1サプライヤーから委託された部品――例えば複雑な曲げを要する燃料や水路等の配管、細かな配線を束ねたワイヤハーネスなどの加工や製造です。見せていただいた現場は車いす向けに作業台が低い配置になっていたり、力を使わずとも動かせる部品コンテナレールをしつらえていたりと、独自の工夫が随所に盛り込まれていました。加えて身体能力に左右されないお仕事として、事務や購買業務、業務効率改善のためのソフトウエア開発、名刺やノベルティー等の製作など、ホンダグループの業務サポートが結構なボリュームを占めています。
そして独自性の高いお仕事として挙げられるのが、競技用車いすの開発です。ホンダが大分国際車いすマラソンのスポンサーを35年以上にわたって続けていることもあり、ホンダ太陽にも昔から車いすの陸上競技に参加する実業団選手がいらっしゃいます。そんな彼らの練習や実戦を通じて得られるノウハウを生かした「翔(かける)」は、直近の5月もパラ陸上競技に参加するスイスの女性アスリート、カテリーヌ・デブルナー選手によって自らの200m世界記録を更新。彼女は個人で6つのワールドレコードを持つパラスポーツ界のレジェンドですが、翔とのコンビによってさらなる活躍が期待されるところです。
障がい者の社会参加は今に始まったことではありませんが、ホンダは雇用機会だけではなく自律移動のための運転支援機能開発など、技術面からもそれを昔から積極的に支えてきました。そういった社会貢献活動の最たるものは交通戦争が叫ばれた1970年に発足した安全運転普及本部で、いくらハードの側で安全性を高めたとしても、運転者や社会の安全意識を高めなければ元も子もないという考えのもとに、さまざまな啓発活動を続けています。
こういう話は声高に喧伝(けんでん)するものではないというのは確かにそのとおりかもしれません。でもこのご時世、口下手の器用貧乏なこじらせ独身というキャラクターにまるでモテ要素がないのも確かです。でもオッさんとしては、そんな不器用なホンダがなぜか憎めない。今年は株主総会も格好のディスりネタにされそうですが、そんなホンダのちょっといい話もここに置いておこうと思います。
(文=渡辺敏史/写真=本田技研工業/編集=藤沢 勝)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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