スズキDR-Z4SM(5MT)
さく裂する刺激とエンジン 2026.08.07 試乗記 スズキ久々のスーパーモタードである「DR-Z4SM」に試乗! 最新の400cc級デュアルパーパスモデルをベースに、タイヤを17インチ化してオンロードでの機動性を突き詰めた一台は、今どき珍しいほどにアグレッシブで、強烈な個性を放つマシンに仕上がっていた。最近のスズキはお値段が強気
スズキDR-Z4S/DR-Z4SMが登場したとき(参照)は、「え、この時期にDR-Z復活?」と思った。日本や欧州では、前モデルの「DR-Z400」「DR-Z400SM」が生産終了になってから15年以上が経過している(北米では2024年まで発売されていた)。特に人気があるカテゴリー、排気量帯ではないから、もう姿を現すことはないのだろうと思っていたのだ。
DR-Z400、DR-Z400SMにはアメリカやヨーロッパにも根強いファンがいたから、大事に育てていこうということなのかもしれない。ただ、日本での販売価格は119万9000円である。同じくらいの予算で「スズキGSX-8S」や「カワサキ・ヴェルシス650」「ホンダCBR650R」が買えるし、少し足せば「ヤマハMT-09」や「BMW F900R」まで視野に入る。メチャクチャ強気な価格設定だ。
エンジンは新設計となったけれど、トランスミッションはDR-Z400、DR-Z400SMのときと同じ5段のまま。実際に走ってみれば5段でも十分なのだけれど、やっぱりそのあたりのスペックって気になるもの。実際にアメリカのDR-Z好きたちからは、「やっとインジェクションになったのに5段のままなの?」という声も聞かれた。アメリカでは、つい数年前までDR-Z400、DR-Z400SMが販売されていて、独自のポジションを確立していたから、細かい点や価格差が特に気になるのだろう。
そして問題は「KTM 390 SMC R」というライバルがいること。スペックだけ見るとDR-Z4SMよりパワーがあって6段トランスミッション、さらに車両価格も安い。ヨーロッパではKTMのオフロードやスーパーモタードに関するブランドイメージが強いから、ここに食い込むのが相当に大変だということは容易に想像できるのだが、「ライバルとか関係ねーから」ということなのかもしれない。
「スズキのバイクはコスパがいい」というイメージがあったから、DR-Z4SMの価格には相当な衝撃を覚えたが、これはたぶんアメリカ、ヨーロッパのライダーも同じだろう。「GSX-8T」「GSX-8TT」もそうだったけれど、なんか最近のスズキは思い切った値づけをするようになったなあ、なんて思うのである。もっとも、筆者ゴトーの友人たちからは「いやいや、スズキ頑張った。よくぞDR-Zを復活させてくれた」なんて喜びの声も上がっていて、実際に購入したライダーも何人かいる。全員が旧DR-Z400系からのファンで、普通のライダーに比べると強い思い入れを持っていたようである。
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エンジンのキャラクターが吹っ切れている
で、問題はDR-Z4SMが日本のストリートでどんな感じのバイクに仕上がっているかだ。スペックで比較すると、最高出力は旧型DR-Z400SMから2PSダウンの38PSとなっている。「なんかまったりしたエンジンになっているんじゃないかなあ」と予想していた。中身は新設計といわれても、見た感じはあんまり変わらないし、それでパワーダウンしているのだからそう考えるのが普通だ。
ところが、エンジンがかかった瞬間にシュドンという感じで吹け上がるではないか。めちゃくちゃエキサイティングなフィーリングになっている。クラッチをつないでスロットルを開けると、単気筒のトルク感と俊敏なレスポンスでかなりの加速。ストリートでは全域パワーバンドという感じだから、このエンジンのいちばんおいしい部分を常に使い切れる。これは楽しい。単気筒エンジンののんびりトコトコ感は皆無だけれど、そんなものは別のバイクにまかせときゃいいんだ、と言わんばかりに吹っ切れたフィーリングだ。
旧型DR-Z400SMに乗ったのは15年以上前のことだから、はっきりと比較することはできないのだが、ここまでのシャープさはなかったように思う。旧モデルが、のんびりツーリングからスポーティーな走りまで対応していたのに比べると、かなり後者に振ってあるイメージ。これはエンジンの出力特性を切り替えられる「スズキドライブモードセレクター(SDMS)」があるからで、だからこそ最もパワフルな「A」モードを、思い切って過激な特性にできたのだろう。今回試乗したのは街なかだったということもあって、「これ以上のパワーはいらない」と思うくらいの速さだった。ちなみに「C」モードにするとかなりおとなしくなるけれど、それでも250ccの単気筒バイクに比べたらずいぶん力強い感じがする。
ただ、スズキのパワーモードはA、B、Cで切り替わるから、初めて乗ると「どれがスポーツモードに相当するんだっけ?」となる。マニュアルを読んで理解しておくか、実際に試してみれば分かるのだが、初心者が借りて試乗するような場合はまごつくこともあるだろう。ほかのメーカーのように、もう少し直感的にイメージできるようにしたほうがいいんじゃないかなあ、とは思う。ちなみに、回転が上がるとタンクとハンドルに振動が比較的多めに出てくるけれど、単気筒だからこんなもんかな、と思えるレベルだ。
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ピリッとした走りが光る
エンジン同様にすごく進化したのがハンドリングだ。そもそも旧DR-Z400SMも17インチ化でオンロードを意識したセッティングが施されていた。当時はホイールを換えてフロントフォークの油面を変えただけ、なんてバイクも多かったなかで、真剣にモタードバイクの走りを追求していたのである。実際、そのハンドリングはかなりよかったのだが、DR-Z4SMは新しいフレームやサスペンションによって、さらに進化している。どんなときもニュートラルでタイヤの接地感も強いから、思い切ってコーナーに飛び込んでいける。このエンジンとハンドリングだったら、タイトなワインディングロードも相当に楽しいことだろう。
なんて感じで試乗はとっても楽しかったのだけれど、半日乗っていて閉口したのはシート。シート断面が丸くて座面も狭いし、スポンジが硬い。つらいというほどではないが、決して快適ではない。ツーリングなどを含め、オンロードをメインに走るのであればシートは交換しておきたいところだ。
というふうに気になる点はあったものの、DR-Z4SMは実によい感じで進化したバイクだった。旧型DR-Z400SMを単に環境規制に対応させただけでなく、スポーティーさにずいぶん磨きをかけている。のんびりツーリングに行こうというライダーはせわしなく感じてしまうかもしれないが、楽しくストリートを走りたいライダーにはピッタリである。
最近の中型クラスって、どれも完成されていて高性能な代わりに、なにかが突出したモデルはほとんどなかった。そんななかで、DR-Z4SMのピリッとした感じはとっても貴重なのだと思う。そして「乗ってみれば価格だけの価値があると分かる」と豪語していたスズキファンの友人の言葉が理解できたような気がしたのである。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=スズキ)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2195×885×1190mm
ホイールベース:1465mm
シート高:890mm
重量:154kg
エンジン:398cc 水冷4ストローク単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:38PS(28kW)/8000rpm
最大トルク:37N・m(3.8kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:5段MT
燃費:28.8km/リッター(WMTCモード)
価格:119万9000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
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