興味があるのはたったの3割!? 自動車業界を揺るがすSDVやAIって本当に必要なの?
2026.08.31 デイリーコラム自動車がスマホのようにアップデートされるようになる
去る2026年8月14日に発行されたマーケティング専門紙『日経MJ』に、ちょっと興味深い記事が掲載された。それは「車内環境のAIカスタマイズ、利用意向は日本で3割 先進国で最も低く」という見出しで、「日本の消費者は人工知能(AI)を使った車両のカスタマイズ機能への関心が極端に低いことがわかった」といった内容の記事である。
この記事の根拠となっているのは、大手コンサルティング会社のデロイトトーマツによる『2026年度グローバル自動車消費者調査』だ。この調査は、世界主要8市場(日本、中国、韓国、東南アジア、インド、アメリカ合衆国、英国、ドイツ)において10年以上にわたって毎年おこなわれており、調査結果の一部は公開されている。で、最新の2026年度版で初めて追加されたのが、日経MJの記事でも取り上げられている「SDV受容」という項目である。
webCGを読んでおられる皆さんならご存じのとおり、SDVとは“ソフトウエアディファインドビークル”の略称である。直訳すると“ソフト(ウエア)で定義されたクルマ”となるが、これをピタリと短く言い表す定義を、筆者はいまだに思いついていない。
あえて説明すれば、これまでハード(ウエア)が主体だったクルマづくりをソフトを基軸としたものにして、最新機能をハードに頼らずソフトのアップデートで提供できる仕組みに転換させるのがSDVである。
SDVであれば、自動ブレーキなどの予防安全や車内インフォテインメントは、スマホやパソコンと同様に、ソフトをアップデートするだけで新しい機能を追加できる。人間が触れるインターフェイス部分も自分好みにカスタマイズが可能で、かりに新しいSDVに乗り換えても、ソフトを移行させるだけで、最初から自分の手足のようにあつかえる。しかも、これらはソフトだけで完結するので、いちいちディーラーや整備工場にクルマを持ち込まなくても、ネットによる無線通信=OTA(Over the Air)ですべて片づく。
……というのが、われわれユーザーから見たSDVの直接的なメリットといえる。そんなSDV関連の項目が加えられた今回の調査では、冒頭で触れたように、日本のユーザーはSDVそのものや、AIによる車両カスタマイズというSDV最大のメリットへの関心が、はっきり薄いという結果が出た。
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日本のユーザーで興味があるのはわずか33%
具体的に調査内容を見ていくと、「SDVの有用性への認識」という項目で「役に立つ」と答えた人の割合が、インドでは81%、東南アジアでは71%、中国では68%だったのに対して、日本では33%と低かった。逆に「役に立たない」という回答は、インドで12%、東南アジアで15%、中国で16%となっているのに対して、日本では36%にのぼった。
ただ、興味深いのは、こうした傾向は日本にかぎらず、アメリカ、英国、ドイツという、旧先進国すべてに共通する点だ。これらの国々では、「SDVは役に立つ」という回答は全体の3~4割にとどまり、逆に「役に立たない」はいずれの国でも3割超で、ドイツにいたっては日本以上の40%に達した。新成長国(もしくは地域)といえるインド、東南アジア、中国とは、まさに正反対の結果である。
これに似た傾向は「AIによる車両カスタマイズ機能を利用する可能性」でも顕著に見られた。インド、東南アジア、中国のユーザーの7~8割が「可能性は高い」とし、「可能性は低い」が1割以下だったの対して、旧先進4カ国では「可能性が高い」は3~4割にとどまり、「可能性が低い」も3~4割にのぼった。なかでも日本の「可能性は高い」という回答は、冒頭のように30%と8カ国で最低。その次に低いのがドイツの34%だった。従来型クルマ産業がとくに強いイメージをもつ2カ国で、AIへの関心がとくに低かったのは興味深い。
調査を実施したデロイトトーマツも、この結果について「SDVの有用性やAI車両カスタマイズ機能へのへの利用意向は、新興国市場の消費者では高く、先進国市場ではOTAアップデートへの追加料金の支払い意向なども含めて、明確に低い」とまとめている。
今現在、世界でもっとも進んだSDVはテスラといわれており、最新の「モデル3」や「モデルY」の場合、アメリカ本国では月に数回という頻度でアップデートがおこなわれている。自動運転機能の「FSD(フルセルフドライビング)」が認可されていない日本では、アップデートの頻度もぐっと減るが、それでも2025年だけで7~8回にのぼった。内容は細かなバグの修正や、使い勝手やセキュリティーの向上がメインだが、ときには「アップルウオッチ」との連携やトラクションコントロールの追加といった、従来の自動車メーカーならマイナーチェンジレベルの大きな機能向上もある。
もっとも、SDV最大のメリットは、先進安全や自動運転の機能を強化・改良できることだろう。ソフトのアップデートによって自動ブレーキの作動対象が増えたり、もともとハンズオフ運転が可能なクルマであれば、法改正に合わせてその範囲を拡大できるかもしれない。実際、テスラでもFSDが導入されている国や地域では、頻繁にアップデートが行われる。それでも、搭載されるセンサーやカメラ(テスラの場合はカメラのみ)の基本性能によって、機能の拡充にも限界があり、同じテスラの同じモデルでも、世代によってアップデートの内容は異なる。
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今はピンとこないかもしれないけれど……
筆者個人の感想でいうと、トラクションコントロールの“後乗せ”はちょっとうらやましいが、「それだけでクルマを買い替える動機にまではならない」というのが正直なところだ。もう少し若かったら、愛車がいきなりアップルウオッチとつながったら小躍りするかもしれないが、スマホのカメラすら使いこなせていない50代後半の中高年クルマオタクである筆者に、そこまでの感動はない。つまりデロイトトーマツの調査における旧先進国ユーザーの典型といっていい。
筆者も仕事がら、専門家からSDVについての教示をいただく機会は少なくない。それでも、いまだに先のような回りくどい表現しかできないのも事実で、「クルマの基本はハード、ソフトは二の次」の思いは今も消えていない。
ただ、かつての日本車は、クルマ先進国の欧米にバカにされながらも大衆車のパワー競争に明け暮れたことで、いつしかスポーツカー大国となり、「1台のクルマに2種類のパワートレインを積むとはムダの極致」と皮肉られつつ、今はそのハイブリッドが生命線となっている。旧先進国ユーザーのSDVへの冷めっぷりと、それとは好対照の新成長国の盛り上がりを見るに、個人的にはSDVにはいまだにピンと来ずとも、あのころの日本とダブってしまうのも本当である。
(文=佐野弘宗/写真=テスラ、日産自動車、newspress/編集=堀田剛資)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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