ベントレー・ベンテイガEWBアズール ファーストエディション(4WD/8AT)
これからの主役 2022.10.20 試乗記 ベントレーが「新たな超高級フラッグシップ」として提案するSUV「ベンテイガEWB」。「ベンテイガ」の単なるストレッチ版と思いきや、さにあらず。それは、後席でも運転席でも心が満たされる、まさに本命と思える一台だった。ハイブランドでも屋台骨
ラグジュアリーSUV市場が百花繚乱(りょうらん)の様相を呈している。
最初に登場したラグジュアリーSUVは、2015年に発表されたベントレー・ベンテイガで、これに続いて「ランボルギーニ・ウルス」「ロールス・ロイス・カリナン」「アストンマーティンDBX」などがデビュー。ついにはフェラーリから「プロサングエ」(彼らはSUVでないと主張しているが……)がローンチされたことは、みなさんもご存じのとおりだ。
では、どうしてどのブランドもこぞってSUVを市場に投入しているのか? 端的にその答えを申し上げれば「売れるから」といって間違いないだろう。
例えばベンテイガは発売以来コンスタントに売れ続けており、ベントレー全体に占める販売比率はおおむね40%以上となっている。SUVが一番の売れ筋となっているのは他のブランドでも同様で、ランボルギーニはウルスを発売した途端に販売台数がほぼ倍増したほか、アストンマーティンも2021年は全体の48.6%がDBXによって占められた。
つまり、各ブランドにとってSUVは今や屋台骨も同然なわけだが、ライバルが続々と登場するなか、競争が一層激しくなっているのも事実。というわけで、一度SUVを導入したら、次には商品力の向上が求められるというおなじみの展開になっているわけだ。
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商品力アップの「最後の一手」
かくいうベンテイガは、2020年にいち早くフェイスリフトを実施。ここで主力エンジンを、それまでのW12からV8に置き換えるいっぽう、W12搭載のハイパフォーマンスモデルである「ベンテイガ スピード」やPHVモデルの「ベンテイガ ハイブリッド」などを追加。さらにはスタイリング違いの「ベンテイガS」や「ベンテイガ アズール」などを投入して幅広い層からの支持を獲得しようとしている(日本市場でハイブリッドが発売されたのはフェイスリフト後だが、欧州ではフェイスリフト以前からハイブリッドがラインナップされていた)。
そうした商品力アップの「最後の一手」として投じられたのが、ここで紹介するベンテイガEWBである。
EWBはExtended Wheel-Baseの頭文字。つまりはホイールベースの延長版だが、これをロングホイールベースとはいわずにエクステンデッドホイールベースと呼ぶのが実にイギリス的といえる。もっとも、オリジナルベンテイガのホイールベースは2995mmだから、十分長い。だとすれば、ロングホイールベースではなくエクステンデッドホイールベースと呼んだほうが、なるほど合理的というものだ。
ベンテイガEWBは、ホイールベースを180mm延長して3175mmとしたうえで、オリジナルベンテイガにはなかった4輪操舵(4WS)を初採用。ターニングサークル(Uターンの際に車輪が描く軌跡の直径)は、標準ホイールベースの12.4mよりもむしろ小さい11.8mを実現している。
安楽さを徹底追求
シートレイアウトは4シーター、5シーター、4+1シーターの3タイプ。このうち4+1シーターは、5人乗車を可能としつつ、リアの左右席にも豊富な調整機能を搭載している点が特徴とされる。
いっぽう、最もぜいたくな4シーターには「エアライン スペシフィケーション」という特別なシートがオプションで用意される。これは、スイッチひとつでシートがリクラインするだけでなく、乗員の体温や表面湿度を検出してヒーターやベンチレーションを最適設定するほか、シートにかかる圧力分布から着座姿勢を自動的に微調整する姿勢調整システムなどを装備し、移動中の疲労を最小限にするというものだ。
このエアライン スペシフィケーションの後席にも実際に腰掛けてみたが、国際線のビジネスクラスのようにフルフラットになるわけではなく、背もたれはアップライトな姿勢よりもいくぶん後ろに傾く程度。ただし、実際に山道などを走ってみると、このくらいの体勢のほうがサイドサポートは効果的に働き、コーナリング中も上半身をほどよく支えてくれることに気づくはず。要は、睡眠用ではなく、あくまで楽にクルマで移動するためのシートと考えていただければいいだろう。
前置きが長くなったが、カナダ・バンクーバーで行われた国際試乗会の模様をリポートしよう。
ベンテイガEWBに用意されるエンジンは4リッターV8ツインターボで、550PSの最高出力と770N・mの最大トルクは標準ホイールベース版と変わらない。いっぽうのシャシー系はホイールベースが延長されて前述の4WSが搭載されるものの、セッティングが微妙に異なることを除けば基本的に標準ホイールベース版と同じ。ただし、48V系を用いたアクティブアンチロールバーはEWBの全車に標準装備となる。
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どの席でも笑顔になれる
走り始めてすぐに感じるのは、タイヤ踏面のあたり方がよりソフトになった点。そこから先の、サスペンションがしっかりストロークする領域でも、足まわりが滑らかに動いている印象が強い。これはコンフォートモードだけでなく、ベントレーおすすめのBモードでも同様。しかも、乗り心地がソフトに感じられる傾向は後席でより顕著で、驚くべきことにスポーツモードにしてもゴツゴツした感触がまるで伝わってこなかった。
これには、ホイールベースが長くなって力点(ホイールの位置)と作用点(乗員の位置)が遠ざかったことが影響しているほか、エアサスペンションのセッティングなどをよりソフトに再調整した結果のようだ。
こう聞くと、ハンドリングがダルになったと思われがちだが、不思議なことにベンテイガEWBにはそれがない。標準ホイールベース版と同じように、ステアリングレスポンスは良好で、操舵量を増してもハンドリングは正確なまま。おかげで、ワインディングロードを走っても、まったく痛痒(つうよう)を覚えなかった。この点をエンジニアに指摘すると「4WSの効果が大きい」との答えが返ってきたが、ステアリングのダイレクト感は4WSが同相に作動する高速域になってからも変わらない。この辺は、アクティブアンチロールバーやエアサスペンション/減衰力可変ダンパーのセッティング見直しが功を奏したものと考えられる。
そしてなによりも、キャビンの静粛性が高まったことが印象的。なにしろ、路面を問わずロードノイズがほとんど気にならないレベルまで抑え込まれていたのだ。この辺は防音処理を徹底して実施した恩恵だろう。
ベンテイガEWBは、ただ後席の居住性を改善しただけのモデルではない。リアパッセンジャーに快適で広々としたスペースを確保するいっぽうで、ドライビングの楽しさという点でも標準ホイールベースに引けを取らない。このため、ベントレーは「ベンテイガ全体の半分程度がEWBになる」と予想しているそうだが、個人的にはそれ以上、ひょっとすると大多数がEWBになっても不思議ではないほど、魅力的なクルマに仕上がっていると感じた。
(文=大谷達也<Little Wing>/写真=ベントレー モーターズ/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ベントレー・ベンテイガEWBアズール ファーストエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5305×1998×1739mm
ホイールベース:3175mm
車重:2514kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:550PS(404kW)/5750-6000rpm
最大トルク:770N・m(78.6kgf・m)/2000-4500rpm
タイヤ:(前)285/40ZR22 110Y/(後)285/40ZR22 110Y(ピレリPゼロ)
燃費:--リッター/100km
価格:3218万円/テスト車=--円
オプション装備:--
(※価格は日本市場でのもの)
テスト車の年式:2022年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。