これが次世代アウディの源流 ハイブリッドスーパーカー「ヌヴォラーリ」に乗って気づき感じたことは?
2026.08.27 デイリーコラム写真や映像で見るより迫力満点
アウディは2026年6月4日、南仏ニースで次世代のプラグインハイブリッドスーパーカー「ヌヴォラーリ」を発表した(参照)。車名はイタリア生まれのレーシングドライバー、タツィオ・ヌヴォラーリ(Tazio Nuvolari/1892-1953)に由来する。戦前の一時期、アウディの前身であるアウトウニオンに所属してグランプリレースに出場。限界を押し上げ、壁を打ち破る果敢な走りで所属チームとファンを魅了した。
伝統のアルファベットと数字の組み合わせではなく、あえて人名にあやかった車名を採用したのは、このクルマで伝説のドライバーのように限界や壁を突き崩したいと願ったからだ。
ニースでの発表後、量産車に近いつくり込みが行われたヌヴォラーリのプロトタイプ車は同時期に開催されていたF1モナコGPのストリートコースに運ばれ、アウディF1チーム所属のドライバーによってコースを周回した。プロトタイプではあるが、ミドシップした4リッターV8ツインターボエンジンと、フロントに2基、リアに1基配置された計3基のモーターによる1001PSのシステム最高出力はきちんと発生するとのこと。最高速は351km/h、0-100km/h加速は2.6秒である。
6月にモナコを走ったヌヴォラーリは7月にイギリスのグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでも走りを披露し、8月にはモントレー・カーウイークで展示され、目の肥えた北米の潜在顧客に魅力をアピールした。生産台数は499台。デリバリーは2027年前半に開始される予定で、ドイツでの価格は約59万ドル(約1億1000万円)が予定されている。
モントレーで役目を終えたシリアルナンバー「000」のヌヴォラーリは、クルマで30分ほど山を駆け上がった先にあるカーメルの丘陵地帯に運ばれ、筆者ら各国のメディアと対面した。実物のヌヴォラーリは、写真や映像で見るよりずっと迫力がある。写真や映像から受けたのは平板な印象だったが、実車からは躍動感が伝わってきた。シンプルを旨にデザインされたのは事実だが、例えばリアフェンダーはポジティブな面からネガティブな面に変化していく造形とし、「美しく見えるよう神経を注いだ」とデザイナーのガエル・ビザン氏は説明してくれた。
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次世代アウディはよりシンプルな方向に
ヌヴォラーリはアウディの新しいデザイン哲学が反映された最初の量産モデルである。その哲学は、クラリティー(明快さ)、シンプリシティー(簡潔さ)、テクニカルオネスティー(技術的な誠実さ)の3つのワードに集約できる。
ビザン氏は「典型的なスーパーカーのような攻撃的なデザインにはしたくなかった」と、フロントマスクについて説明した。冷却と空力に必要な開口部がどこにどれだけ必要かを理解し、シンプルながらもエモーショナルで、力強さを感じるフェイスにしたという。
小さなピースが形状や角度を変えながら規則正しく並ぶフロントグリルは、「Sダクト」のインレットとなっている。F1由来の技術で、ノーズ下面から取り込んだ空気をS字状のダクトを通じてボンネット上面から排出。これにより車体下面の空気の流れが整えられ、床下で発生するダウンフォースが増える仕組み。このコンセプトをヌヴォラーリは応用した。ボンネットフードには大きなエアアウトレットが設けられている。そのため、フロントにラゲッジスペースはない。リアにもない。シートの後ろに手荷物を置くスペースが用意されている。
エンジニアは高い性能を見据えて固定式のウイングを好んだというが、デザイナーは反対し、折衷案として可変式リアウイングが採用された。普段はボディーのシルエットを崩さないよう埋め込まれ、サーキット走行などで必要な際にせり上がってくる仕組みだ。
フォーリングスのロゴはボディー背面に付けられるのが通常だが、テールパイプが高い位置にあるため適切な場所がなく、リアウイング上面に配置することになった。ただ、通常の立体的なロゴを貼り付けたのでは空力的に悪影響を与えるので、CFRP(カーボン繊維強化プラスチック)製のウイングをレーザーでカットし、アルミニウム製のロゴを隙間なく埋め込んだ。“細部へのこだわり”の一例である。
「ヌヴォラーリを皮切りに、これから登場するクルマはよりシンプルなデザインになります」とアウディのCEO、ゲルノート・デルナー氏。「2027年にも何かサプライズがあるかもしれません。2028年以降もたくさんの量産モデルが控えています。すべて、新しいデザイン哲学に基づくことになります」と言う。
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日常的に乗って使えるスーパーカー
インテリアはドライバーにフォーカスした設計。「デザインの傑作でありながら、非常に快適」とスポーツカー担当パフォーマンスマネージャーのヴィクター・ウンダーベルク氏は説明する。ステアリングホイール上に操作系のスイッチ類を集中配置したのは、2026年シーズンから参戦を始めたF1のコックピットを参考にしたからだ。空調のルーバーも含め、手に触れる部分はすべてアルミニウム製。プラスチックは一切使っていないという。
エンジンの力を借りず、モーターとバッテリーのみで最高150km/h、最大18kmの走行が可能だという。ステアリングを握るデルナーCEOの横でEV走行における静粛性の高い走りは確認したので、自分で運転する際は最初からエンジンに火を入れた。アイドリングからしてなかなかのボリュームである。すぐ後ろに音の発生源があることが容赦なく伝わってくる。
アクセルペダルを強く踏み込むと、エンジン回転の上昇とともに音質は高周波の官能的なトーンになり、ボリュームは激しさを増し、軽い振動を伴って強い加速が襲ってくる。暖機が完全に済めば1万rpmまで回る。暴力的なサウンドと加速の快感を味わった後では、ヌヴォラーリに対する見る目が変わることだろう。アクセルを強く踏み込んだ後でサッと戻すと、バババババッというバブリング音が響き、高揚感をより引き上げる仕掛けだ。
操舵反力は軽め。前後重量配分がやや後ろ寄り(46:54)で重心に近い位置にエンジンを搭載するミドシップだからか、左右のトルクベクタリングと前後の駆動力配分が黒子に徹してそう感じさせるのか、とにかく回頭性がいい。全幅2023mm、全長4720mmのサイズと1750kg(乾燥重量)のウェイトから想像する以上に身軽で、それが驚きだった。
「オンロード」「フラットトラック」「バンピートラック」の3種類から選択できるシャシー設定のうち、オンロードを選択していたのもあるが、それにしても乗り心地がいい。サーキットを5周連続して走っても性能劣化しないことを確かめた高性能タイヤ(ブリヂストン・ポテンザ レース)を履いているとは思えないほど当たりはソフトで、減衰が利いた乗り味。ヒョコヒョコした落ち着きのない動きは一切みせなかった。
コレクションルームに置いておくだけではもったいない。ヌヴォラーリは日常的に使ってこそ価値を引き出せるスーパーカーだし、アウディもそれを望んでいる。
(文=世良耕太/写真=アウディ、世良耕太/編集=櫻井健一)
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世良 耕太
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