ポルシェ・カイエン【海外試乗記】(前編)
“らしさ”増量(前編) 2010.05.10 試乗記 ポルシェ・カイエン初のモデルチェンジを果たしたポルシェのSUV「カイエン」に、ドイツはライプツィヒで先行試乗。まずはシリーズの中核をなす、ガソリンV8モデル2台を試した。
ファミリーを強く感じるデザインに
4ドアサルーンの「パナメーラ」とともに生産が行われる、旧東独領のライプツィヒに位置する工場をベースに、新型「カイエン」の国際試乗会が開催された。
その大きなトピックは、見ての通り「よりポルシェらしく」なったスタイリングとともに、ボディ部分だけでも111kgに及ぶというその大幅な軽量化策にもある。「最もベーシックな6気筒のMT仕様で、確実に2トンを下回る」という具体的な目標を掲げて開発が行われたという新型カイエンは、8段ATの新採用や2ペダルモデルへのアイドリングストップシステムの標準採用、スターターバッテリーへの減速時回生システムの装着なども含めて、今の時代の要請を、いち早く採り入れたモデルと言えるものだ。そうした事柄はハイブリッドモデルの設定にも象徴される。大きく、重く、燃費の悪いSUVには強い逆風が吹きつける現代だが、そうした環境の下で新たな模索が行われたのが、2002年の誕生以来、初のフルモデルチェンジとなった新型カイエンというわけだ。
ヘッドライトよりも低いフードや側面へと回り込んだリアコンビネーションランプ、さらには、キャビン後部の強い平面絞りなどによって、ポルシェファミリーとしての印象を先代よりも確実に強めた新型のルックス。そんな“らしさ”の強調が、今回の重要なデザインテーマとなったであろうことは、インテリアの仕上がりからも見て取れる。それを象徴するのがメーターパネルとセンターコンソールで、前者は「911」から、後者はパナメーラからと、そのデザインモチーフを譲り受けていることは、誰の目にも明らかだろう。
SUVの乗り味ではない
まずは21インチシューズやエアサスペンション、アクティブスタビライザーなどをオプション装着した自然吸気8気筒エンジン搭載の「S」でスタート。すると、なるほど開発陣が意図したリファインが、走りのテイストからも明確に理解できる。路面とのコンタクト感はより濃厚だし、ハンドリングの正確性もさらに向上した。ロールもきっちりと抑制が効いたその乗り味は、およそSUVのそれとは思えないものであるからだ。
「S」から「ターボ」へと乗り替えると、むしろフットワークの印象が市街地を中心にややマイルドに感じられた。これは、こちらもオプションながらシューズのサイズを20インチに抑えていた影響が大きそう。実際、シャシー開発のトップに話を聞いても「実はベストマッチは20インチ」という答えが返ってきた。Sでは18、ターボでは19インチが標準の新型カイエンだが、見た目と走りのバランスでは、どうやら20インチが正解であるようだ。
満を持しての回答
軽量化が進んだおかげもあり、自然吸気モデルでも十二分な動力性能を備える新型カイエンだが、一方でターボの怒涛(どとう)の加速力ももちろん魅惑的だ。変速レンジがよりワイド化されたATとの組み合わせがもたらす、シームレスで、すこぶる滑らかな加速感は、これもまたSUVに乗っていることを忘れさせる。正直、4.7秒という0-100km/h加速や278km/hという最高速は、実用性を考えれば過剰もいいところだろう。しかし、SUVに限らず自動車に対して1500万円をはるかに超える対価を支払う用意のある人にとって、さまざまなポイントでの過剰性というのは“必須の要件”でもあるはずだ。
見た目も走りもちょっとポルシェらしくない−−これまで一部で聞かれたそうしたコメントは、開発陣にとっては最大の屈辱でもあったはず。新型カイエンはそんな声に対する、満を持しての回答なのだ。(後編に続く)
(文=河村康彦/写真=ポルシェ・ジャパン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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