日産フーガ370GT タイプS(FR/7AT)/250GT(FR/7AT)【試乗速報】
一皮むけた 2009.12.16 試乗記 日産フーガ370GT タイプS(FR/7AT)/250GT(FR/7AT)……589万500円/497万7000円
高級セダン「日産フーガ」の2代目がデビューした。「走・美・快」を開発コンセプトに掲げる新型の走りと乗り心地をチェックした。
随所に溢れる本物感
「日産フーガ」は外観を大きく変貌させた。比較的シンプルな面構成を採っていた従来型に対し、今度は抑揚のあるうねったパネルや、多角的波形処理によるディテールを特徴とする。これらはここ数年世界中で流行している“華流デザイン”に他ならない。どこのメーカーも今や中国市場になびいている。この傾向はこの先まだ続くだろう。
ふくらみのあるフェンダーラインからは懐かしさすら漂う。Aピラーを後退させてフードを長く見せているのもクラシックなデザイン手法だ。最近の大きく寝かせたスクリーンがもたらす広いダッシュボードとは違い、フーガのそれは狭く短く、内側から拭くのにも便利な造りだ。複雑にプレスされたドアは、映り込む景色によってはぶつけて凹んだようにも見えかねないほどだが、アルミ製のやわらかな曲面は板厚も感じさせてくれる。
内装は外観以上に、“R”の小さな曲面や曲線が多用されている。そこに貼られたウッドパネルも凝っていて、銀粉をすり込んだ木目処理は豪華さも演出。合わせ目の木目が合っていないことが却って本物であることを伺わせる。表皮の柔らかい本革シートも、手触りだけでなく、座り心地やホールド性の点でもドライバーを満足させてくれる。
操縦性はピカイチ
エンジンやシャシーは同社がもつ既成コンポーネンツの改良型。電子制御システムの進化により、ドライビングのサポート技術は守備範囲を広げている。時代を反映する環境性能に関しては、ハイブリッドバージョンが1年後に登場するものの、小排気量化など根本的なところではやや他社に遅れをとる。とりあえずは売れる商品を、という切実な訴えが優先されている。
走りだして最初に感じるのは、乗り心地が格段に洗練されたことだ。従来のフーガは「GT」の名前そのもので、「いったいこのクルマでどれだけスポーツ走行するユーザーがいるのだろう?」と疑問に思うことすらあった。特にリアシートの乗員からはクレームがついたはずだ。
今回はその辺を十分配慮した上で、あえてタイヤサイズを18インチ/20インチと大径化している。18インチモデルは「これならリアシートの高齢者からも文句は出まい」と思えるレベル。さすがに20インチはヤリ過ぎだろうと予想して乗ると、これが十分に許容するレベルにまで調教されていることに驚く。
その20インチモデルは、この1760kgの重量級で大型サイズを感じさせないほど、グイッと切れる軽快な操舵入力を実現している。大径タイヤ特有の、ロールセンターを重心高に近付けた感覚を持っており、そのロールしないかのような感覚が頼もしい。操縦性はクラス随一だろう。ただし、リアの横剛性を低めにとって、トーコントロールしているデバイス(4WAS)の感触は、やや人工的なもので、まだ改善の余地がある。
![]() |
![]() |
![]() |
「タイプS」こそ“らしい”グレード
シャシーチューニングはおおむね良好ながら、細部においては雑だ。足回りは、フラットな領域からバウンド/リバウンドを開始する、まさに動き出しの部分をスッキリさせることなどにより、更に洗練させることができると思われる。エンジンは333psの3.7リッター、225psの2.5リッターともに、既存のもの。動力性能は十分だ。V8がラインナップから落とされたのは残念。やはり多気筒エンジンのステータス性は高いから、たとえ排気量を下げてでも残せば、メーカーも高価格を設定できたのに……。
ドライビングをサポートするさまざまな電子デバイスも盛り沢山で、ここに全てを紹介することはできないが、いろいろ試した結果、それらが前提とする領域は普段使いの範囲外にあるといえる。公道で常識的な使い方をする限りお世話になることはない。根幹をなす設定がうまく出来ているから、枝葉の部分に頼らないでも走れる。
そんな新型「フーガ」、370GTと250GTのどちらを選ぶか? と問われるならば、今回は370GTの、なかでも「タイプS」をお勧めする。動力性能もさることながら、20インチタイヤよる個性的な特性こそ日産車らしいからだ。4WD仕様もあるにはあるが、依然としてセンターデフ無しのパートタイム4WDで新味はない。以前は「技術の日産」を標榜していたのだから、こんな時代にこそ意地をみせてほしいところだ。
(文=笹目二朗/写真=峰昌宏)

笹目 二朗
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。