ポルシェ・パナメーラ4S(4WD/7AT)【試乗記】
こんなセダンはほかにない 2009.12.10 試乗記 ポルシェ・パナメーラ4S(4WD/7AT)……1851.0万円
この秋、ついに登場したポルシェの5ドア4シーターセダン「パナメーラ」に下野康史が試乗。全長約5mのビッグポルシェは、想像をいい意味で裏切るモデルだった。
「カイエン」に続けるか
「セダンもポルシェでなきゃ」という人のための新型ポルシェが「パナメーラ」である。「SUVもポルシェでなきゃ」という人のためのクルマが、2002年登場の「カイエン」で、これは(少なくともリーマン・ショックの前まで)アメリカで大成功を収めた。先進国ほど道路事情がよくない新興経済国でもよく売れている。とくにロシアでは、ポルシェといえばカイエンを指すほどの高い人気を誇る。道が悪かったり、凍ってたりしたら、そりゃどう考えたって「911」よりカイエンである。
永遠にスポーツカーメーカーであってほしい、なんていう願望はポルシェ・フリークのセンチメンタリズムに過ぎないのだ。果たしてパナメーラは、カイエンに次ぐヒット作になれるだろうか。
昔、パンナム(パン・アメリカン航空)というアメリカのエアラインがあったが、パナメーラも車名からしてアメリカンな大型5ドアセダンである。5mをわずかにきる全長は、「メルセデス・ベンツSクラス」や「BMW7シリーズ」より短いが、1930mmの全幅はそれらをしのぐ。
このクラスにはないハッチバックというユニークなボディ形式で、屋根が後ろまで延びているため、サイズ以上にながーいクルマに感じられる。今回走ったのは高速道路とワインディングロードが主だったが、“押し出し”とは引き換えに、狭い市街路ではいささか持て余しそうな体躯である。
拡大
|
拡大
|
拡大
|
うれしい誤算
試乗車は中間グレードの「4S」。自然吸気の4.8リッターV8に4WDの駆動系を組み合わせる。
ドアの構成部材にマグネシウムやアルミを使用するなど、軽量設計にも努力が払われているとはいえ、車重は1940kgに達する。ドライバーが乗れば2トン超の、全長5m近いビッグな5ドアハッチやいかに、と興味津々で走り出せば、第一印象はうれしい誤算だった。これはまごうかたなき“ポルシェ ”である。それも911に近いポルシェだ。
パワーユニットやサスペンションの近似性はカイエンだから、てっきり「車高短カイエン」的な重厚長大サルーンを想像していたら、いい意味で裏切られた。
ポルシェ・スポーツカーのテイストを感じさせるのは、まずフットワークだ。これほどの巨体なのに、加減速時の姿勢変化や旋回中のロールがほとんどない。電子制御エアサスペンションは、一瞬たりともフワリとした挙動を許さず、いつも路面に吸いつくようなスタビリティを与えてくれる。
コーナリングもコンパクトで、長いホイールベースをそれほど感じさせない。エンジン、変速機、サスペンションを“最強”にするスポーツプラス・モードを選択してワインディングロードを走れば、手応えはスポーツカーである。
総額416万円のオプションを満載した試乗車は、50万円以上する20インチホイールセットを履いていたが、乗り心地もワルくない。硬いのはたしかだが、品質感の高い硬さだ。リアシートは膝まわりも頭上空間もたっぷりしているから、お抱え運転手付きのリムジンとして使うのも無理ではない。
ポルシェ・スポーツカーの血
カイエン用の90度V8に手を加えた4.8リッターエンジンは400ps。パナメーラはこれに7段PDKを組み合わせる。その新型オートMTは、デュアルクラッチ式ならではの素早い変速をみせる一方、シフトマナーは「911」や「ボクスター」のPDKよりさらに洗練され、よくできたトルコン式ATと区別がつかない。
ポルシェだから、速いのは言わずもがなで、メーカー発表のパナメーラ4Sの0-100km/h加速タイムは5.0秒。911には負けるが、「ケイマンS」とほぼ互角である。
直噴V8はカイエンより静かだ。本気で黒塗りの公用車ユースも考えたのだろうか。とはいえ、エンジンの“存在感”は強い。滑らかさと静粛性を極めて、エンジンを消し去ったようなエンジンでは全然ない。とくにアイドリング時に後席まで届く、圧力感とでもいうべきエンジンのプレゼンスは、やっぱりポルシェ・スポーツカーの血だ。
そのため、停車直後、オートスタート/ストップ機構が作動してアイドリングが止まると、「死んだのか!」と思う。それはまあいいにしても、このアイドリングストップ機構、欠点は再始動がワンテンポ遅いことだ。ポルシェ党なら、アルマジロのようなスイッチパネルにあるキャンセルボタンを押したくなるだろう。
しかし、気になる点といったら、それくらいだった。パナメーラは、まったく新しい立ち位置のクルマである。こんな大型セダンはほかにない。ガチンコライバルを「マセラティ・クアトロポルテ」とする見方もあるが、パナメーラはよりスポーツカー的である。というか、ヘンな言い方だが、クアトロポルテよりずっと“ポルシェ”である。
どんなカタチだろうが、どんなサイズだろうが、あるいはエンジンをどこに置こうが、水平対向だろうがV8だろうが、ポルシェがつくると、こんなにポルシェになる。ポルシェの血の濃さをあらためて感じさせるクルマである。
(文=下野康史/写真=荒川正幸)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】 2026.10.17 三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。
-
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】 2026.10.16 欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。
-
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】 2026.10.13 電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
NEW
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。





























