メルセデス・ベンツE350アバンギャルド(FR/7AT)【ブリーフテスト】
メルセデス・ベンツE350アバンギャルド(FR/7AT) 2009.08.17 試乗記 ……902.5万円総合評価……★★★★★
新型に生まれ変わったメルセデス・ベンツの基幹モデル「Eクラス」に試乗。3.5リッターV6モデルで、居住性や運動性能を確かめた。
すでに食べごろ
3600万km。地球900周分にあたるこの長距離を、走行試験にあてたという新型「メルセデス・ベンツEクラス」は、なるほどデビュー直後のクルマとは思えないほど、その動きはこなれていて、すでに“食べごろ”を迎えていた。ランニングチェンジを重ねて、年々熟成を図るのがドイツ車の常であるが、ニューEクラスは初めから2〜3年目のような貫禄を見せたのだ。
ただ裏を返せば、E350のエンジンやトランスミッションは、基本的には旧型からのキャリーオーバーだし、前3リンク/後マルチリンクのサスペンションは手なれたもの。油圧式のセレクティブダンピングシステムもすでにCクラスで実績があるから、ニューEクラスの高い完成度は当然ともいえる。メルセデスの主力モデルだけに、ハズすことは許されないし……。
そうなると、次なる興味は、これから日本に導入される4気筒直噴ガソリンターボ(CGI)や“BlueTEC”ディーゼルの出来映えということになるが、E350の仕上がり具合からすれば、きっと期待に応えてくれるに違いない。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
7年ぶりとなるフルモデルチェンジを果たし、2009年5月に日本上陸した現行「Eクラス」。サスペンションは、フロントが先代モデルの4リンク式から3リンク式に変更。リアは引き続きマルチリンク式を採用する。シャープなデザインに生まれ変わり、ボディの拡大による居住性の向上、安全装備の充実などに力が入れられた。
エンジンは3および3.5リッターのV6と、5.5リッターV8の3種をラインナップする。2010年にはディーゼルモデルも追加予定。
(グレード概要)
中間グレードとなる「E350アバンギャルド」は、272ps、35.7kgmを発生する3.5リッターV6エンジンを搭載。トランスミッションは7段のオートマチックが組み合わされる。ダンパーには油圧式のセレクティブダンピングシステムである「ダイレクトコントロールサスペンション」を採用。タイヤは245/45R17サイズを装着する。
衝突時にボンネットが浮き上がり歩行者の衝撃を軽減する「アクティブボンネット」や、ESPなどの安全装備は標準。テスト車には、車線の逸脱をカメラで監視しドライバーに警告する「レーンキーピングアシスト」がオプション装着されていた。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
旧型からガラリと雰囲気を変えたコクピット。一番の違いは、シフトレバーがステアリングコラムに移ったこと。おかげでセンターコンソール付近がすっきりし、カップホルダーを2個横に並べることができた。これでパッセンジャーのドリンクを取り違えずに済む。エッジの効いたエクステリアにならい、インストゥルメントパネルも直線を多用したデザインとなった。水平に伸びる幅広のウッドパネルは高級感を高めている。メーターパネルの中央に大きな速度計が配置され、その内側には各種情報を表示するディスプレイが収まっている。そのあたりのデザインはCクラスと似ており、ひとクラス上のモデルだけにもうひとひねりほしかった、というのが正直な気持ちだ。
ニューEクラスには、さまざまな運転支援デバイスが用意されているのも売りのひとつ。ドライバーの疲労を感知して休憩を促す「アテンションアシスト」をはじめ、走行状況にあわせてヘッドライトの照射領域を変えてくれる「インテリジェントライトシステム」、ハイビーム/ロービームを自動で切り替える「アダプティブハイビームアシスト」は標準装備。また、試乗車にはオプションの「レーンキーピングアシスト」が装着されていた。クルマが車線から外れると、まるで段差を越えるときのような軽いショックがステアリングに伝わってくる。ブルブル振動するより自然でいい。
(前席)……★★★★
シートベルトを締めると、ベルトが自動的にググッと巻き上げられる。これは、ベルトの弛みを防ぐための機能だが、だからといって窮屈な感じはない。このグレードでは、本革のパワーシートが標準となるが、オプションの「コンフォートパッケージ」が装着される試乗車では、バックレストやクッション前端のサポートがきめ細かく調節できるので、楽な姿勢をとることができた。シートヒーターに加えて、シートベンチレーターが付くので、夏場でも快適に過ごせそうだ。
ステアリングコラムに移されたシフトレバーは、初めのうちは操作に戸惑ったが、案外すぐに慣れるもの。走り始めれば、パドルシフトでギアレンジが変更できるのも便利である。エンジンのスタート/ストップはステアリングコラム脇のボタンで行う。こうなると、昔ながらの足踏み式パーキングブレーキが古くさく感じられる。Sクラスのように、電動パーキングブレーキを採用してもよかったのではないか?
(後席)……★★★★
頭上にも、膝の前にも広いスペースが確保されるEクラスのリアシート。とはいえ全長4870mm、全高1470mmというサイズを考えれば、とくに驚くほどではない。フロアからシートクッションまでの高さが適切で、自然な形に膝が曲がるのもいいが、前席のポジションを低くしてしまうと爪先が入れにくく、足が伸ばせなくなる。後席にゲストがいるときには、前席のポジションは少し高めに設定しておこう。
張りのあるレザーは腰のあたりをしっかりとサポートしてくれる。「コンフォートパッケージ」には後席のシートヒーターが付くが、車格を考えると標準装着としてほしいところだ。
(荷室)……★★★★★
開口部の広いトランクは、奥行き、高さとも余裕があり、また、リアホイールハウス後方のトリムを抉ることで十分な幅も確保(E550を除く)。これにより、ゴルフバッグを4セット積むことが可能だという。日本からの要望に応えたということらしいが、そういった柔軟な対応はうれしいものだ。
後席は分割可倒式で、荷室のレバーを操作することで倒すことが可能。トランクスルーも備わり、ラゲッジスペースに収まらない大きな荷物を積むときは重宝する。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
先代のEクラスをはじめ、SクラスやSL、SLKなど、幅広いモデルに搭載されて高い評価を得ている3.5リッターV6エンジン。このニューEクラスでも、7段ATの7G-TRONICと組み合わされて、実にスムーズで力強い動きを見せる。余裕ある排気量のおかげで低回転からトルクがあり、1500rpmくらいでも力不足を感じない。回転が上がるにつれて勢いを増し、とくに3500rpmを超えたあたりからは、気持ちのいい吹け上がりが堪能できる。これほどの実力を誇りながら、燃費もまずまず。100km/hが約1800rpmというギア比や優れた空力特性、そして低転がり抵抗タイヤなども手伝って、リッターあたりの燃費は、高速なら10数kmは楽勝だ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★★
E350を試乗して、もっとも感心したのがその洗練された乗り心地だ。走り出した瞬間から、マイルドな乗り心地としなやかに動くサスペンションに目を細めてしまった。かといって決してソフトなわけでなく、終始落ち着いた挙動を示すのが、このクルマのキャラクターに似合っている。
高速でも十分なフラット感があり、道路の継ぎ目を超えるときのショックも上手に遮断する。直進性もまずまずだから、ロングドライブの友にはまさにうってつけだ。車速感応式パワーステアリングに加えて、中立付近でスロー、舵角が増すとクイックになる可変ギアレシオを採用する「ダイレクトステアリング」は、高速を直進する際に多少ステアリングフィールがあいまいに感じられたのが気になるものの、アクティブステアリングのような違和感がないのがうれしい点。大きなボディにもかかわらず、小回りが利くのはメルセデスらしい一面だ。
(写真=荒川正幸)
【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2009年7月3日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2009年型
テスト車の走行距離:2920km
タイヤ:(前)245/45R17(後)同じ(いずれも、ピレリ CINTURATO P7)
オプション装備:コンフォートパッケージ=45.0万円/レーンキーピングアシスト=7.5万円
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4):高速道路(4):山岳路(2)
テスト距離:213.5km
使用燃料:25.58リッター
参考燃費:8.3km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。