レクサスIS250C“バージョンL”(FR/6AT)【ブリーフテスト】
レクサスIS250C“バージョンL”(FR/6AT) 2009.07.28 試乗記 ……589万2850円総合評価……★★★
もっとも新しい“オープン・レクサス”「IS250C」。リトラクタブルハードトップを得た走りは、どのようなものなのか? 初夏の箱根でテストした。
現実的なハレぐるま
IS250Cのようなスペシャリティーカーは、走りのためのテクノロジーを前面に押し出したスポーツカーとは違い、「なんにも気にせず乗れる」ことがひとつの大事な性能だ。ドライバーが肩肘張らずに乗るために、高度な技術が注がれる。
そういう意味でレクサスIS250Cは、率直に「いいクルマ」といえる。そしてその影に、実に入念なボディチューニングの努力が隠されている、と確かに感じられた。
その詳細は後述するとして、最近のレクサスは、初期にみられたようなキャラクターを前面に押し出すための直情的なハンドリングやエンジン特性が影を潜め、トヨタとしての本分を取り戻したように感じる。つまり、派手さはないがしっとりとした味付けで、毎日乗るユーザーにとって強い味方になるはずである。
また価格的にみても、このIS250Cは優秀だ。4.3リッターV8と2.5リッターV6の違いはあれど、同じレクサスの兄貴分「SC」よりも遥かに現実的な数字だし、ラゲッジなどのユーティリティ面でも上をいく。BMWの335iカブリオレ(802万円)やメルセデスのCLK(885万円)に比べても価格的なアドバンテージは圧倒的。これなら、初めての4シーターカブリオレに挑戦することも夢ではなくなる!?
派手過ぎない外観のおかげで、お隣さんを必要以上に刺激することもないだろう。若干間延びしてしまったサイドビューが気になるところではあるけれど……。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
「レクサスIS 250C」は、セダンの「IS250」をベースとした4人乗りのオープントップモデル。ルーフの素材には軽量なアルミ合金が用いられ、3分割して電動で格納(開閉ともに20秒)。
セダンと似た外観だが、ヘッドランプ、ボンネットフード、アウターミラー、ドアハンドル以外は専用のデザインで、内装も、オープン時の視認性に配慮したメーターなど専用品が用いられる。
パワートレインは、セダンと共通の2.5リッターV6(215ps、26.5kgm)+6段オートマチックトランスミッションを採用。足まわりの基本構造はセダンと同一だが、ルーフ収納スペースの都合上、リアサスペンションは取り付け位置が下がり、専用のセッティングとなっている。
オープン時、外気温や車速などをもとに風量や温度を制御するエアコンなど、細かい機能もオープンモデルならではのものだ。
(グレード概要)
試乗車“バージョンL”は上級グレードで、ベーシックグレードの「IS250C」に比べて、セミアニリン本革シートや本木目パネルの採用など、主にインテリアの装備が異なる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
インストゥルメントパネルはこれといったギミックもないが、スッキリとした印象で心地よい。まさに「L-finesse」的なインテリアセンス。バージョンLに標準となる本木目パネルは、やはりバージョンLで選べる本革シートとの兼ね合いが難しい。というのも、パネルがユーザーの年齢に応じた落ち着いたものなの対し、シートの色遣いが結構派手なのだ。もしアルミやカーボン地のパネルが選べれば、若年層が(とはいえ、価格を考えると40代前半だろうが)積極的に2トーンの若々しいレザーシートを選択できていいと思うのだが……本木目の明るいパネルにメローホワイト&レッドやブルーのシートを選ぶと、“かなりハイカラなおじさま仕様”ができあがる。色合い的にはなかなかお洒落だが、乗り手を選ぶことになりそう。
(前席)……★★★
サイドサポート部が色分けされるために形状が立体的に感じられるが、サイドのホールド感は緩め。クッションが柔らかく沈みこみ、全体的にカラダを包み込んでサポートするタイプだ。オープンモデルとして耐候性やクリーニングのしやすさを考えた処理のせいなのか、レザーの表皮は若干滑りやすい感じがする。でも、モケットを選ぶかといえばそうではない。クルマのキャラクターには断然レザーシートの方が合っている。
(後席)……★★★
2ドアクーペと考えれば、合格点。レクサスの4シーターと考えれば、直立した背もたれの角度や座面クッションの薄さで惜しくも落第。レッグスペースは、身長170cmの筆者には広くもなく狭くもなく、という感じ。決してエマージェンシー用ではないものの、大人4人がゆったりと……というのはちょっと言い過ぎ。
(荷室)……★★★
一番気になる部分であろうトランク容量は、ルーフを閉じている時で553リッターと充分な広さ。9インチゴルフバッグが2個積めるという。オープン時は折りたたまれたルーフが侵入してきて、積めるゴルフバッグは1個になってしまう。が、リアシートに荷物をまとめれば、ふたりでオープンドライブを楽しみつつゴルフに行ける寸法だ。
トランクフードは、ルーフを収納する関係上、車幅一杯のサイズ。お鍋のフタのような形で開く。見た目は少々悪いが、トランクへのアクセスがしやすくなるという副産物もある。メーカーオプションのランフラットタイヤもしくはパンク修理キットを選択すると、本来スペアタイヤが収まるところが30リッターのサブトランクとして使えるようになる。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
IS250に搭載される2.5リッターV6エンジンは、その最大トルクを2000rpmという低回転で発生するのだが、その恩恵は160kg重くなったボディで感じられるほどのものではなかった。逆にいえば、160kgも太ったのに、「ちょっと非力かな?」くらいにしか感じさせなかったのは大したもの、といえるかもしれない。
最初は誰でもアクセルペダルを踏み込みがちになるかもしれないが、このクルマのキャラクターがわかってくると、不必要なペダルの踏み込みはしなくなるだろう。
エンジン自体は、非常にすっきりとした吹け上がりが好ましい。6段ATのステップ比もよい。パドルシフトはあまり必要性を感じなかった。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
クローズド時のボディ剛性は高く、その静粛性と合わせて、メタルトップの完成度の高さが推し量れる。ただしオープン時に比べて重心は高くなるし、ダンパーのダンピングは緩めでロール量が多いために、若干の揺り返しは避けられない。これが、個人的にIS350の3.5リッターV6エンジン(318ps)を切望しない理由でもある。オープン/クローズド専用セッティングの可変ダンパーシステムでも付けない限りは、現状がシャシーとエンジンの最もバランスした領域だと思う。
一方、オープン時は重心が一気に低くなり、ナチュラルで気持ちいい走りを見せてくれる。メタルトップを収納すればボディ剛性は若干落ちるが、緩めに味付けられた足まわりや、低めのエンジン出力のおかげで、飛ばすよりも快適に走ることを必然的に選ぶようになる。このあたり、エンジニアがこのクルマで狙った速度域に自然とドライバーをエスコートできている、ということではないだろうか。
さらに付け加えたいのは、VIDMやVSCといった電子制御の介入が非常に自然だったこと。IS250Cが、これらの安全装備をカットオフしたくなるような“ヤンチャな性格のクルマ”でないことを考えても、これらの絶妙な制御は、特筆に価する。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:山田弘樹
テスト日:2009年6月16日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2009年式
テスト車の走行距離:1948km
タイヤ:(前)225/40R18(後)255/40R18(いずれも、ブリヂストンTURANZA)
オプション装備:/18インチタイヤ+アルミホイール(6万6150円)/プリクラッシュセーフティシステム+レーダークルーズコントロール(14万7000円)/クリアランスソナー(4万2000円)/本木目+本革ステアリング&シフトノブ(4万9350円)/アルミ製スポーツペダル(3150円)/マークレビンソンプレミアムサラウンドサウンドシステム(23万5200円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1):高速道路(7):山岳路(2)
テスト距離:249.4km
使用燃料:32.05リッター
参考燃費:7.78km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(前編)
2025.10.19思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル」に試乗。小さなボディーにハイパワーエンジンを押し込み、オープンエアドライブも可能というクルマ好きのツボを押さえたぜいたくなモデルだ。箱根の山道での印象を聞いた。 -
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】
2025.10.18試乗記「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。 -
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】
2025.10.17試乗記「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。 -
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する
2025.10.17デイリーコラム改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。 -
アウディQ5 TDIクワトロ150kWアドバンスト(4WD/7AT)【試乗記】
2025.10.16試乗記今やアウディの基幹車種の一台となっているミドルサイズSUV「Q5」が、新型にフルモデルチェンジ。新たな車台と新たなハイブリッドシステムを得た3代目は、過去のモデルからいかなる進化を遂げているのか? 4WDのディーゼルエンジン搭載車で確かめた。 -
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの
2025.10.16マッキナ あらモーダ!イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。