アウディR8 5.2 FSI クワトロ(4WD/6AT)【試乗速報】
良家のアニキはつらいよ 2009.07.17 試乗記 アウディR8 5.2 FSI クワトロ(4WD/6AT)……2236.0万円
アウディのスーパースポーツ「R8」に、V10エンジンを搭載する最強グレードが登場。サーキットの全開走行でわかった、その素性とは?
香りからして美味しそう
国内屈指の高速コーナーである、富士スピードウェイの100Rを下ってターンに入る。アクセルをじわり戻すと、クルマは慣性でサーッと向きを変えた。コーナリング中にスピードメーターを見る習慣はないが、明らかに高い車速で景色は流れ、そのなかをまるでリア駆動の軽量スポーツカーをコントロールしているかのような感覚のままヘアピンへと駆け上がってゆく。
「なんてあけすけなクルマなんだ!」
これが「アウディR8 5.2 FSI クワトロ」の第一印象。このクルマが2000万円くらいするという事実さえ忘れることができれば、その走りはさらにファン・トゥ・ドライブを高めてくれそうだ。
まずは社交辞令……なんていうまどろっこしいプロセスは不要。ひっさびさに本音で語れるスポーツカーだな、とウォーミングアップランですっかりホットにしてくれたR8に、少し感心した。
さて、R8 5.2 FSI クワトロのトピックスは、なんといってもそのV10エンジンにある。最高出力525psを、8700rpmという高回転で発生。さらにその心臓を低く搭載するために、そして高G領域でもオイルをとぎれさせないように採用したドライサンプの潤滑方式。そんなレーシングカーのごとき組み合わせが、V8モデルで好評を博したシャシーで実現したら、一体どれほどの走りになるのか!?……しかも、重量配分は44:56と、フルタイム4WDのクワトロシステムを採用しながら、理想的なミドシップの数値。期待は高まるばかりなのだ。
アツくなったらドリフトマシン
しかし、周回を重ねるほどに、その考えは変わっていった。
ちょっとばかり、あけすけ過ぎじゃないか? それほどラフに振り回したわけじゃない。なのに、ヘアピンや300Rの折り返しはもちろん、富士のメインコースをゆくR8はどこでもすーっとテールをスライドさせる。
ストレートエンド、250m看板のあたりに設けられたパイロンシケインでブレーキングし、事前に決められたとおり260km/hから150km/hへと減速する。充分に減速したはずの第1コーナーでも、ブレーキを少しでも残していようものなら、派手に横に向きを変える。
そこからアクセルを踏み込めば、4WDのクワトロシステムのおかげでググッと車両姿勢が安定し――と思いきや、テールの流れは止まらない。
「富士スピードウェイを全開で走ったR8 V10」は、「ややセンシティブなスポーツカー」なのだった。
ライバルとして名が挙がる車種だって、ポルシェなら「911ターボ」、フェラーリで言えば(ノーマルの)「F430」なのだし、本来ストリート走行が向いているクルマなのかもしれない。しかし、「アウディといえば鉄壁のスタビリティ」のイメージがあった僕は、ちょっとばかり驚きが隠せなかった。
タイヤを冷まし、空気圧をやや抑えて臨んだ2回目の走行ではその挙動もかなり落ち着いたが、やっぱり基本は同じ。タイヤへの依存度がかなり高く、リアタイヤが発熱すると途端にドリフトマシンへと早変わりする。それを「コントロールが楽しめる」と評する人もいるかもしれないが……これがウェットだったらと思うと、考えてしまう。
この性格を考慮してか、ESPの制御も介入のしかたも極端だ。1回ボタンを押すとトラクションコントロール機能が解除、長押しすると全てのサポートを止めるそれは、スポーツ走行のアシスタントというよりは、完全な安全装置になっていた。
醍醐味得るのに四苦八苦
また、アクセルレスポンスはペダル操作に対するリニア感に欠ける。エアクリーナーボックスに一度空気を滞留させてから一気に吸気するかのような“タメ”があり、リアのスライドを止めるには少しばかりタイムラグができる。そこまで見越さないと、マシンを安定させるのは難しい。
これらの特性を、肯定的に捉えることは、できないのか?
積極的にアクセルコントロールをするタイプのドライバーなら、このR8 V10の醍醐味は十分味わえるはず。もし、あなたがそうでないなら、コーナーのターンイン時はリアの振り出しを極力抑え、小さく回って全開で脱出するといいでしょう。ただし、前述のとおり、4WDはアシスト程度のトラクションコントロールしかしないから、ハイテク兵器のごとき「日産GT-R」のようなハイパーダッシュは望めない。パワーオーバーステアに対してはステアリング操作やアクセルワークで細かく修正を入れながら、丁寧に立ち上がってゆくことになる。
この走りそのものは、リア駆動のマシンを操るセオリーに当てはまるのだが、そうなると、なぜV10モデルにクワトロシステムを採用したのか、疑問に思えてくる。過去にV8モデルでサーキット走行をしたときには、これほどオーバーステアを感じなかったのだから。
そんなV8モデルがもつ「ミドシップ+クワトロシステム」のパッケージングは、それこそロードユース最高峰といえるものだった。
しかし、R8のV10モデルは、コーナーを攻めるミドシップスポーツとしてはリアのスタビリティが低すぎ、コーナーでVラインを描きながら立ち上がる4WDスポーツとしては4輪のトラクションが足りない。
個人的には、どんなに速くても無機質でコーナリングファンに乏しい、フルタイム4WDスポーツの走りがいいとは思わない。だからこそ、いっそうR8への期待は大きくなるのだ。このリアのスタビリティだけ、なんとかしてくれればなぁ、と。
(文=山田弘樹/写真=高橋信宏)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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