アウディR8クーペV10パフォーマンス5.2 FSIクワトロ(4WD/7AT)
毎日のスーパースポーツ 2020.02.10 試乗記 最高出力620PSのV10エンジンをミドシップする「アウディR8」だが、いざ寄り添ってみればその表情は極めて温和で、付き合いづらいところはみじんもない。いかにスーパースポーツであっても、高い実用性を付与するのがアウディ流だ。例によってクール
さらにワイドになったシングルフレームグリルによって新しいアウディR8は精悍(せいかん)さが増したように見える。グリル上の3本のスリットは、かつての「スポーツクワトロ」のエアアウトレットを模したものという。最近のアウディお気に入りのデザインモチーフである。それでも、スーパースポーツカーとしては全体的に落ち着いたたたずまいである。真っ赤なレザーシートやドアトリムは鮮やかだが、シートに座った眺めはこれまで通り。理路整然としたインストゥルメントパネルはいささかビジネスライクに感じるほどだが、隅々まで緊張感が漂う緻密なインテリアの仕立てはいかにもアウディらしく隙がない。一つひとつのスイッチの操作感や表面処理なども実に洗練されている。兄弟車というか従兄弟(いとこ)モデルに当たる「ランボルギーニ・ウラカン」にはミサイル発射ボタンのようなカバー付きスタータースイッチが設けられているが、R8はその種のムードづくりにはあまり関心がないらしく、至ってクールで機能的だ。この辺りが今や基本的なコンポーネントを共用しているウラカンとの最大の違いだろう。そのせいか、他のスーパースポーツカーに比べて肩に力が入りすぎることもなく走りだせる。
渋滞の中でもまったく不都合なく扱えるということは、もはやスーパースポーツの世界でも常識だが、その中でもR8の洗練度は飛び抜けている。普通に走る限りは従順そのものだ。この5.2リッターV10エンジンにはアイドリングストップはもちろん、低負荷時には片側バンクを休止させるシリンダーオンデマンド(COD)や、コンフォートモードでのアクセルオフ時のコースティング機能も盛り込まれているが、片バンクシリンダーの休止・再始動も当然ながらまるで感じ取れない。もちろん回せば回しただけの強力なパワーがダイレクトに湧き出すのが自然吸気マルチシリンダーエンジンならではの魅力。今どきありがたい貴重品である。5.2リッターの大排気量ながらレブリミットは8700rpm、さらにステアリングホイール上のパフォーマンスボタンを押せば以前よりも豪快に荒々しく吹け上がる上に、7段Sトロニックもガツンと直接的なショックをむき出しにして爆発的に加速する。2速でさえおよそ120km/hに達するほどだから、一般道ですべてのパワーを解き放つことはできないが、舞台が許せば0-100km/h加速3.1秒、最高速331km/hのパフォーマンスを発揮するという(従来型「R8 V10プラス」は3.2秒と330km/hだった)。
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「プラス」から「パフォーマンス」に
R8の歴史をちょっとだけ振り返ると、2007年に登場した最初のR8はもともと4.2リッターV8エンジンのみだった。2016年に2世代目にフルモデルチェンジした際にV8が落ち、初代に後から加えられていた5.2リッターV10エンジン一本に絞られ、同時に5.2リッターV10ユニットはさらに強力になった標準仕様に加え、高性能版も追加された。すなわち「R8 V10」は従来型より15PSアップの540PS(397kW)/8250rpmと540N・m(55.1kgf・m)/6500rpmを発生、いっぽうのR8 V10プラスは610PS(449kW)/8250rpmと560N・m(57.1kgf・m)/6500rpmのスペックを与えられていた。
今回のマイナーチェンジではアウディ史上最強を誇ったそのプラスのエンジンが620PS(456kW)/8000rpm、580N・m(59.1kgf・m)/6600rpmに一段と強化された。併せて車名も「クーペ/スパイダー」ともにV10プラスから「V10パフォーマンス」に変更されたのが最大のトピックである。ただし、今や「EVO」に進化したランボルギーニ・ウラカン(640PSと600N・m)よりは若干抑えられている。
優れたバランス感覚
4.2リッターV8(420PS)を搭載したオリジナルのR8はどのように振り回しても手の内でコントロールできる軽快感が特徴的だったが、最新のR8は、少なくとも一般路上で試せるレベルでは危うさを感じるレベルまで追い込むことも難しい。ステアリングはウラカンEVOに比べればスローに感じられるぐらいだが(オプションで可変レシオのダイナミックステアリングが用意される)、実際には十分にシャープで、何より正確でリニアだ。むやみやたらと牙をむき出しにしてファイティングポーズを取るのではなく、クールにスマートにとんでもなく速いのだ。いかにもスーパースポーツカーらしいけれん味には乏しいが、高性能と実用性とのバランス感覚がR8の真価である。
何しろ常用域での乗り心地は滑らかで快適だし、高速道路でのスタビリティーも文句なし。さらにシート背後にはゴルフバッグを積めるスペース(容量は226リッター)もあり、フロントには小さいが深い112リッターのラゲッジスペースも備わっている。実際に試してはいないが、「ポルシェ911」同様、機内持ち込みサイズのキャリーオンケースならぴったり収まるはずだ。
使い倒す人に
にもかかわらず日本ではいまひとつ人気がないのは、皮肉なことにその完成度の高さゆえと考えられる。1940mmの全幅と地上高にさえ注意すれば、掛け値なしに毎日使える実用性を備えるが、非日常性と驚きを求める人にはまっとうすぎてつまらないと見えるのかもしれない。インテリアも同様に上質だが簡潔で機能的だから、確かに「ハレ」のクルマには見えない。せっかくスーパースポーツカーを買うのなら、やはりランボルギーニかフェラーリだろう、と考える人には控えめにすぎるし、実用性と堅気に見えることを重視する人には目立ちすぎるということだろう。ポルシェ911に傾くのも理解できる。それがどっちつかずな感じと受け止められているのかもしれない。
だが、世界的に見ればR8は2007年のデビューから10年足らずでおよそ2.7万台を販売(初代の累計)したヒット作である。平均すれば年間ざっと3000台だが、これは2000万円超クラス(最新型は3000万円に達したが、初代のV8モデルは1800万円台)のスーパースポーツとしてはまれに見る好成績、「ガヤルド」の倍のペースで売れているというウラカンにも勝るとも劣らない売れ行きだ。付け加えればGTレース用の「R8LMS GT3」もこれまでに250台以上が生産され、世界中のサーキットで活躍している。派手で分かりやすく、誰が見ても「スーパーカー」というタイプとはちょっと違うが、高性能を日常的に使いこなす人には打ってつけ。アウディR8は中身に凝る玄人好みの使い倒せるスーパースポーツカーである。
(文=高平高輝/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
アウディR8クーペV10パフォーマンス5.2 FSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4430×1940×1240mm
ホイールベース:2650mm
車重:1670kg
駆動方式:4WD
エンジン:5.2リッターV10 DOHC 40バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:620PS(456kW)/8000rpm
最大トルク:580N・m(59.1kgf・m)/6600rpm
タイヤ:(前)245/30ZR20 90Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:3001万円/テスト車=3148万円
オプション装備:ファインナッパレザー<スポーツシート・電動調整機構>(21万円)/拡張デコラティブパネル<グロスカーボン>(50万円)/ヘッドライニング<アルカンターラ/ダイヤモンドステッチング>(40万円)/Bang & Olufsenサウンドシステム(28万円)/セラミックブレーキ<グロスレッドブレーキキャリパー>(8万円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:2584km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:312.7km
使用燃料:55.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.7km/リッター(満タン法)/5.8km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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