日産NV200バネット(FF/4AT)【試乗記】
はたらくグローバルカー 2009.06.03 試乗記 日産NV200バネット(FF/4AT)……186万3750円
2009年5月に発表された「NV200バネット」。その特徴は、かなり個性的なデザインと、抜群の機能性がマッチしていること。クルマを道具として使い倒したいユーザー必見のニューモデルだ。
本職は商用車です
そのカタチは、「ルノー・カングー」あたりの欧州フルゴネットを思わせる。2007年の東京モーターショーに出展されたコンセプトカーほぼそのままのサイズとスタイルで登場した「NV200バネット」(以下NV200)が、このように一部のマニア(ワタシも含む)にもツキ刺さりそうなカタチで登場したのには、それなりの理由がある。
5ナンバー登録のワゴンモデル(7人乗り)も用意するNV200だが、主力はあくまで4ナンバー登録の商用車だ。スタイリングは独特だが、強いていえば、従来型バネット/ボンゴ/デリカ(すべてマツダ製OEM)やトヨタ・ライトエース/タウンエース(インドネシア製)などの小型ワンボックスバンと競合するクルマである。しかし、「優先すべきは人間の空間より荷室長」という日本の商用車設計の定石からすれば、ご覧のように、NV200はハナが長すぎる。なんとなく同じ日産のセレナに似ていると思ったら、担当したチーフデザイナーはセレナと同一人物だそうだ。
NV200がこういうカタチなのは、これが日本だけでなく、ヨーロッパや中国でも現地生産して真剣に大量販売をもくろむ世界戦略車だからだ。もちろん、日本の商用車はこれまでも世界中で作られて売られてきたのだが、基本パッケージからこれほどグローバル販売を想定した商用車は日産でも初の試みだとか。フロントタイヤと運転席が近すぎる日本流ワンボックスパッケージでは、小回り性や積載性能にはメリットがあっても、ヨーロッパで求められる高速性能や運転席環境をクリアできないのだろう。
室内はゆったり広々
NV200の基本設計は、日産小型車でお馴染みのBプラットフォームをベースに、リアに専用のリーフリジッド形式のサスペンションを組み合わせたもの。520mmという「AD」より低い荷室フロア高も、いかにも設計の新しさを感じさせる。ボディ全幅が5ナンバー枠いっぱいの1695mmなのはもちろん日本市場への配慮だが、「5ナンバーと両立するのは大変で……」と開発陣が苦笑する1220mmという荷室幅(ホイールハウス間)は、欧州のパレット規格に合わせたものだ。日本だけを考えれば、ここは基本的に1100mm強でいいらしい。
このボディスタイルから想像されるとおり、2名乗車時で2040mmという荷室フロア長は数値的に物足りなくもない。しかし、FFレイアウトゆえの前席下の空間を生かすと、配管などの細長いものなら3mまでOK。「積載性能でトヨタさんのあのクルマに負けているところは皆無」と開発陣は胸を張る。
まあ、学生時代のアルバイトから本厄を迎えるこの齢まで、生ぬるい文系仕事の経験しかないワタシには、NV200の真の戦闘力を語ることはできないが、ひとつだけ、このクルマの絶大な美点については自信を持って書ける。それは運転環境だ。
NV200のドラポジの自然さとスペース的余裕は、現在・過去を問わずに、日本の商用ワンボックスで圧倒的に優れている。足もとにステアリングシャフトが突き出ることもなく、広々としていてペダル配置も文句なし。さらにステアリングにチルト調整もつく。最新の乗用ミニバンと比較すると、わずかにステアリングを抱え込むようにアップライト気味な姿勢だが、そのぶん視界も良好だ。さらに、瞬間燃費、平均燃費、デジタルタコメーター、走行時間、走行距離、航続距離、平均燃費、平均時速などを切り替え表示するトリップコンピュータが全車標準装備なのも、イマっぽくて嬉しい。
乗り心地の良さは予想以上
今回試乗したのはシリーズで唯一の5ナンバー登録となる「16S」だ。パワートレーンは全車共通だが、7人乗りになることに加えて、ヘッドレスト付きの本格的なセカンドシートや一部シルバー塗装のインパネ、荷室周辺の防音用カーペット……など、16Sの専用部分は少なくない。また、商用モデルほどの大荷重を想定しないためにリアサスが専用チューンとなり、バネやダンパーを商用モデルよりソフトにしたうえで、スタビライザーを追加しているという(商用モデルは前後スタビライザーレス)。
その乗り味は、想像以上に好ましい。防音カーペットの効果は大きく、商用モデルより明らかに優れる静粛性は、Bセグメント級コンパクトカー(の廉価モデル)のそれと大差ない。今回のように1名乗車の空荷状態でも、乗り心地は意外なほどソフトで快適だ。ロールはそれなりに大きいが、カーブで急激にスロットルオフという意地悪をしても、安定性を失うことはない。なにより4輪の接地感がバツグンなので、動力性能をフルに使い切っても怖さはまったくない。
聞くところによれば、欧州仕様のシャシーは前後スタビライザー付きで、さらに高速安定性を高めたチューンだという。個人的にはこれが非常に興味深い……って、やけにマニアな話で恐縮だが、そういうことが気になるくらいにNV200の走りは優秀だったのだ。
NV200が商用車として成功するかどうかはわからない。しかし、かつてのサニトラ、ブルーバードバン、セドリックバン、最近ならルノー・カングーなどなど、マニアックな商用車好きの方々にとって、これが注目すべきニューカマーであることは間違いない。
個人的にも、16Sベースの2列5人乗りで欧州仕様サスペンション……なんて、まさに“和製カングー”とでもいうべきモデルがあったら、すぐにでもハンコを押したいくらいだ。このクルマが日本でも売れてくれれば、そんなワタシの妄想的願望も実現するかもしれない。というわけで、マニアのみなさん、NV200バネットを買いましょう。ワタシ、欧州サス仕様が出るのを待ってますから。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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