マクラーレンMP4-12Cスパイダー(MR/7AT)【海外試乗記】
ミドシップスパイダーの新機軸 2012.11.19 試乗記 マクラーレンMP4-12Cスパイダー(MR/7AT)「マクラーレンMP4-12C」に、待望のオープンモデルが登場。クーペのパフォーマンスを受け継ぐその走りを、スペインはマラガで試した。
パフォーマンスはクーペと同等
パワートレインからビス1本まで新開発のミドシップスポーツカー「MP4-12C」を引っさげて、堂々とスーパーカーメーカーの仲間入りを果たしたマクラーレン。この夏のペブルビーチ・コンクール・デレガンスで、クーペに続く第2弾モデルとして待望の「12Cスパイダー」が追加されたことは記憶に新しい。日本でも既に、東京と大阪の両ショールームにて、実物を間近に見ることができる。
“クーペ→スパイダー”という商品化の流れは、今やプレミアムスーパースポーツの世界でも常とう手段となった。それゆえ、いずれのブランドでも、開発の当初から、“屋根を切る”ことを想定して設計されている。とはいえ、クーペモデルとオープンモデルとでは、昔ほどではないにしろ、乗り味や性能に明確な差が出ることもまた常識であった。
ところがマクラーレンは、「ルーフシステム以外、両車はまったく同じ」と言ってはばからない。
もちろん、3分割油圧開閉式リトラクタブルハードトップ(RHT)による、およそ40kgのシステム重量増や、空力性能の違い、高速域の加速や最高速のわずかな低下といった変化は当然ある。それでも、通常は変更されるはずのシャシーやサスのセッティングなどをまったく変えず、スーパーカーとしての常識的な使用範囲内におけるパフォーマンスは、スパイダーもクーペのそれと全く変わらない、と関係者は豪語していたのだ。
果たしてそれは、本当なのだろうか……。そんな12Cスパイダーの実力を確かめるべく、スペインはマラガ近郊のプライベートサーキットに出向いた。
使い勝手はむしろ向上
RHTの開閉機構は、「フェラーリ458スパイダー」とほぼ同様だと思えばいい。トノカバーが開き、そこに2分割されたルーフがコンパクトに畳み込まれる。
開閉に要する時間は17秒以下、時速30kmまでなら、走行中でも操作可能……なんてことよりも感心したのが、天板収納用のスペースを、クローズド時(クーペ状態)にはちょっとしたラゲッジスペースとして使えることだった。わずか52リッターとはいえ、2、3泊用の荷物ならすんなり飲み込む大きさ。実際、筆者もサーキットからホテルへの帰りには、愛用のゼロハリバートン(機内持ち込みサイズ)をそこにしまっておいた。開閉操作も、ドアの下に備えられたボタンで可能という平易さだ。
もちろんクーペと同様に、スパイダーのノーズにも144リッターという、この手のスーパーカーとしては非常に“使いで”のあるスペースが用意されている。けれども、12Cに限らず、実際にスーパーカーに乗ってみれば、フロントフードを上げて荷物を積み込み、再び閉めるという作業は、いちいち億劫(おっくう)なもの。面倒くささのみならず、「フードをへこまさないように閉めなきゃ(実際には、そう簡単にはへこまないのだが)」という精神的負担が伴うのだ。そんな煩わしさがないぶん、このエクストラスペースは随分とありがたい。
そう、12Cスパイダーはクーペよりも、「なんと実用的!」とも言えるクルマだったのだ。
これぞ正真正銘の“人馬一体”
まずは、アスカリサーキットのパドックからワインレッドメタリックの12Cスパイダーを借り出し、周辺の公道をオープンで流してみた。
窓を上げて走るぶんには、風の巻き込みは最小限といえるレベルで、まずは心地よいクルーズフィールである。それよりも、やっぱり驚かされたのは乗り心地の良さだった。クーペもそうだったが、12Cのコンフォート性能は、スーパーカーのレベルはもちろんのこと、“ハーダーサス”自慢のスポーツサルーンのレベルさえもはるかに超えている。
もちろん、ソフトという意味ではない。この感覚を理解してもらうには試乗してもらうのが手っ取り早いのだが、フラットフィールに終始しながらも、例えばハンドルの切り始めや戻す瞬間におけるノーズの動き、わだちを越えたときの車体の上下動、アクセルペダルから伝わるパワートレインの重量感など、すべての動きに対する手応え・足応え・腰応えが正確かつ素早い。予感と後引きのバランスが、人間の感覚として非常に理にかなったものに感じられるのだ。
しかも、それらがすべてバランスよく、ドライバーまで含めたひとつのシステムとして調律されている。これぞ、正真正銘の“人馬一体”感覚というべきだろう。
超高速域におけるクルージングも、オープンのまま何の不安もなくこなしてくれたことも付け加えておく。
専用チューニングのサウンドにシビれる
しかし、すべてはクーペと同じではなかった! なんと、クーペよりも刺激があって、ドライビングの一体感があって、気分が盛り上がったのだ。
その理由は、サウンドだ。オープン時はもちろん、クローズド時でもリアウィンドウを下げれば、スパイダー用に専用チューニングされたエキゾーストノートが、衝撃波を伴って室内にも響き渡る。
これはクーペにはなかった、実にミドシップのスーパーカーらしい感動だ。正確に言うと、クーペも外で聞くぶんには迫力満点だったのだが、室内で聞こえるサウンドは快適方向に抑制されていたのだ。
確かにフェラーリのように心ゆさぶる高音で嘶(いなな)く、というわけじゃない。むしろ、パワートレインやボディーの力強さを、そのままアピールする咆哮(ほうこう)といった方が正しい。
内燃機関付きの乗り物を思いのままに操作できるということが、何よりもクルマの根本的な楽しみにつながるのだなあ、とあらためて実感する。
サーキットでは、2013年モデルから数値アップしたエンジンパフォーマンスも試すことができた。もっとも、トルク特性に変更がなかったためか、加速フィールに以前との明らかな違いを見いだすことはかなわなかった。けれども、トップエンド付近でのパワーの“ノリ”は明らかに上。ちなみに、すでに納車済みの2012年モデルでも、このエンジンのアップグレードを受けることができるという。
ヘルメットをかぶり、窓を上げて、ハイスピードドライビングを楽しむ。数周するうちに、“屋根がないこと”などすっかり忘れて、ドライブに没頭している自分がいた。ライバルとは似て非なる方向性を実現してみせた、言うなればフェラーリやランボルギーニと並ぶスーパーカーの第3軸と呼ぶにふさわしいミドシップのスパイダーの誕生だ。
(文=西川淳/写真=マクラーレン・オートモーティブ)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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