フォルクスワーゲン・パサートCC V6 4MOTION(4WD/6AT)【ブリーフテスト】
フォルクスワーゲン・パサートCC V6 4MOTION(4WD/6AT) 2009.01.09 試乗記 ……602.0万円総合評価……★★★★
実直な「パサート」をベースに企画された、スタイリッシュな4ドアクーペ「パサートCC」。デザインの洗練はさることながら、さて、その乗り味はいかに?
素材とソースの幸福な出会い
背が低い4ドアHTの「トヨタ・カリーナED」が一世を風靡したのは1980年代後半から90年代にかけてのこと。「親不孝グルマ」と言われ、リポーター自身最初は「理念も何もないクルマ」と批判した覚えがあるが、モデル末期になると「カッコがいいから、それなりにいいんじゃないか?」と考え直すようになっていた。良きにつけ悪しきにつけ、クルマという商品にとって、何が大切なのかを考え直させてくれたものだ。それと同じ流れに乗ってメルセデスが「CLS」を登場させたとき、賛否両論が起きたのも思い出される。
今回デビューした「パサートCC」も、やはり背の低い4ドアピラードハードトップクーペ。ヨーロッパではこの種のクルマによって、比較的余裕があるユーザー相手に、新しい市場を開拓したいという気持ちが生まれているようだ。
ベースはその名前が示すように、実用性や合理性を徹底追及し、遊びの要素になど見向きもしていないパサートセダン。これを元に、一転して華やかなイメージを追求した路線にと開き直ったのがCCだ。
結論から言うなら、CCは予想外に洗練されて上質なクルマに仕上がっていた。その美点の大半は、土台となったパサートの高い完成度に依存している。だが、その生真面目さとは対照的に艶やかなルックスや雰囲気も大きな魅力だった。やはりどんな料理でも、素材が大切なのはもちろん、ソースによってそれはさらに引き立てられるということを、あらためて知らされた。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
CCの由来は「コンフォート・クーペ」と説明されるように、パサートをベースとした背の低いセダンというよりは、リアドアを持った4座クーペというべきである。大きく低くされたボディに加えて、パサートセダンよりエンジンを強化し、装備も上げることによって、「フェートン」を販売していない日本においては、最もハイクラスなセダンと位置づけられる。
セダンを押しつぶして広げられたボディは、4ドアのセンターピラー付きハードトップ。4815X1855X1425mmとパサートセダンより30mm長く、35mm広く、65mm低い。リアは純粋に2シーターとすることで、実用車ではないことを強調する。
ラインナップは、4気筒TSI+ティプトロの「2.0TSI」と、上級の3.6リッターV6FSI+DSGと4WDの4MOTIONを組み合わせた「V6 4MOTION」の2種。ともに電子制御による可変サスペンション、アダプティブシャシーコントロール「DCC」が標準で装備される。またV6版にはレーダーで前方のクルマの動きに合わせる低速追尾機能付きアダプティブクルーズコントロール「ACC」と、これのレーダーを利用したプリクラッシュシステムなど、VWグループの先進テクノロジーが盛り込まれている。
加えて全モデルに、コンチネンタルと共同開発したモビリティタイヤたる「ContiSeal」が採用された。これはトレッド内部に粘着性の高いシーラント層が入っており、パンク時にはこのシーラント剤が穴を塞ぐというもので、通常のランフラットに比べると乗り心地が犠牲にならないとメーカーは言う。
(グレード概要)
試乗したのは上級版、つまり日本におけるV6のトップモデルとなるV6 4MOTIONである。セダンV6の3.2リッター250psよりも大きく、トゥアレグ用と同サイズの3.6リッターをベースに299psにパワーアップしたユニットである。ということは、最近登場し、日本ではバリアントモデルにだけ限って輸入されるパサートR36とまったく同じユニットが、6段DSGと組み合わされて搭載される。当然ハルデックスカプリングを使った、フルタイム4WDシステムである4MOTIONもセットになる。
CC全モデルにナパレザー張りの内装が与えられるが、今回の試乗車は受注生産のベージュとブラックの2トーン。またインストゥルメントパネルは2.0のアルミに対してV6はウッドとなるが、そのほか大半の装備は2.0と共通する。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
サッシュレスドアを開くと出現するインテリアは、とても品が良くて好ましい。ダッシュやフロント周りは、基本的にはこれまでのパサートと同じレイアウトを踏襲しながら、巧みに上質で上品なイメージを演出している。もとは機能主義的というかモダニズムデザインから出発しているが、クロームベゼルに囲まれたメーターの照明は、見慣れたブルーから上級のフェートンと同様のホワイトにしただけでも、一段とクラスが上がったように目に映る。
専用ステアリングホイールが与えられ、センターコンソールも大型化。さらにディナウディオのプレミアムオーディオや操作ロジックが明快なHDDナビとマルチメディアコントローラー類など、必要な装備はほとんど標準で与えられる。そのインテリアの光景だけでも、もはやVWではなく、立派にヨーロッパのプレミアムクラスの世界を作り出している。
(前席)……★★★★★
このクルマはあくまでもパーソナルカー、プライベートカーであり、ドライバーを一番大切にしているが、フロントシートはその意図をはっきりと形にしている。CCは全車ナパレザーのシートが付くが、テスト車はその中でも受注色というべきベージュとブラックの2トーンでまとめられていた。この配色がライトベージュの外装とぴったり合っているし、シートそれ自体の造形も、実際に座った感じ、そして触感も含めてとても気持ちがいい。サポートと快適性の両立という点でスポーツシートとしては申し分ないし、8ウェイのパワーによってどんな体型をもカバーする。
横に張り出したボディサイドの造形ゆえに、シート左右、ドアパネルとの間の空間も広く取られ、スペース的にも余裕を感じる。唯一の難点は、どんなに高くシートを上げても、長く幅広いノーズの位置が確認できないことだが、これはシートの責任ではなく、デザインのためだし、このクルマ、相当カッコイイのだから、これは仕方ない。
(後席)……★★★
最大の特徴は、はっきりリアを2座として割り切ったことである。横方向の寸法としては3座も可能なはずだが、敢えてスポーティなリアシートを2つだけにして、その間は大きなアームレスト兼物入れにしている。これは論議が分かれるところだろう。この中間にもう一つシートを設けた方が顧客には喜ばれるという見方もあるだろうが、リポーターは室内のルックスを重視し、どうせ遊びクルマなんだからというこの思い切りが気に入った。
ただし2座ではあっても、低いルーフと強いタンブルフォームゆえに、リアの住人は頭の片方に圧迫感を感じる。またバックレストもちょっと突っ張って硬い感じで、見栄えほどは快適ではない。
上下に浅いリアウィンドウはドライバーにとってはあまり歓迎できないだろうが、後席の人間にとってはプライバシーが守られているような感じがするだろう。ただしこういうクルマの後席に座るということは、なんとなく自尊心が傷つけられることだけはたしかである。
(荷室)……★★★★
トランクルームは驚くほど広い。正確に言うなら奥行きが異常に深い。さらにリアシートは折り畳み可能だし、中央部だけのトランクスルーも使える。ルックス重視のパーソナルカーとしては、珍しいほど大量の荷物収容が可能である。全体的にスクエアだから使いやすいはずだが、手前のシルがやや高いのが難点である。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
まず印象的だったのはエンジンの洗練性と活気である。V6は静かでスムーズ、通常は裏に隠れているが、瞬時に気持ち良く反応してくれる。特に4000rpmぐらいから上、6000rpmのレッドゾーンまで軽々と吹け上がりながら、鋭くパワーを放出する。
一方で本当の低速ではちょっとトルクが物足りない。たとえば100km/hで大体1800rpmだが、ここから2000まではやや出遅れた感じになった後、ズーンッとトルクが生まれてくる。だが、DSGのレスポンスは通常のDモードでもいいし、ドライバーの気持ちを素直に汲み取るから、通常はこれを感じる直前にダウンシフトをしてトルク特性をカバーする。そしていざ2500rpm以上になると、DSGとV6とは、素晴らしいコンビプレーを演じ始め、比較的大きなボディを軽快に操りながら、心地よい移動感覚をドライバーに味合わせてくれる。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
このクルマで最も失望したのが乗り心地である。新採用になったコンチネンタルのモビリティタイヤが意外とドタバタして、その振動がフロアからリアへと伝わってくるし、なんとなくリアが突っ張った感じがする。CCにはDCCなるシャシーコントロールが標準で、ダンパーレートはノーマル、スポーツ、コンフォートの3段階が選べる。コンフォートはともかく、ノーマルモードでも硬さを感じさせるし、スポーツを選んだ場合、高速での段差を通過したときのショックはプレミアムセダンというよりは、太いタイヤを履いたスポーツカーのようだった。
同時にロードノイズもまたプレミアム感覚を損なう。サッシュレスドアにも関わらず風切り音が最小限に抑えられているがゆえに、余計にタイヤを中心としたノイズの侵入が気になった。
一方、ハンドリングは図体が大きいわりには軽快で、とくに4MOTIONによる適切なトラクションの配分、それがステアリングに与える感覚を好ましく感じた。
(写真=荒川正幸)
【テストデータ】
報告者:大川悠
テスト日:2008年12月10〜12日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2008年型
テスト車の走行距離:4122km
タイヤ:(前)235/45R17(後)同じ(いずれも、コンチネンタル ContiSportContact3 CS)
オプション装備:なし
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5):高速道路(5)
テスト距離:213.3km
使用燃料:27.5リッター
参考燃費:7.76km/リッター

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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