フォルクスワーゲン・パサートCC 2.0TSI(FF/6AT)/V6 4MOTION(4WD/6AT)【試乗速報】
見てよし、乗ってよし 2008.11.20 試乗記 フォルクスワーゲン・パサートCC 2.0TSI(FF/6AT)/V6 4MOTION(4WD/6AT) ……500.0万円/602.0万円フォルクスワーゲン初の4ドア4シータークーペとなる「パサートCC」が日本上陸を果たした。VWがいう「コンフォートクーペ」の第一印象を報告する。
美しいVW、いかがですか?
CC?……「クーペカブリオ」、じゃない。「コンパクトクーペ」……それだと正反対。……「コンフォートクーペ!」だ。
そう、これがフォルクスワーゲンの新しい4シータークーペ「パサートCC」の“CC”が持つ意味である。
女子高生たちの短縮コトバのようにアルファベットを羅列する自動車のネーミングは、実にややこしい。これだけ自動車が当たり前のものとなってきた現代では、むしろダイレクトにわかりやすいもののほうが重宝されるはずだ。たとえば、「パサート・エレガント」でいいじゃないか、と思う。
セダンよりひとまわり大きくなったボディは、全長で30mm(全幅で35mm)長くなっているというが、ホイールベースは2710mmで同じ。そのことからも、オーバーハングにゆとりを持たせて美しさを演出することが、このクルマの狙いだとわかる。ひとことで言うなら、パサートCCの魅力は、“カッコ良さ”なのである。
ちなみに、全高は2リッターモデルで50mmダウン、重心も下がる。見てもよし、乗ってもよしな4ドアクーペはいかが? と、質実剛健が信条だった「フォルクスワーゲン」が言い出したわけだ。
パサートCCのラインナップは2グレード。3.6リッターの狭角V6エンジンを搭載した「V6 4MOTION」と、2リッター直噴ターボの「2.0TSI」である。筆者がイチオシするのは後者。このデカいボディに、ターボとはいえ2リッター? と思われるかもしれないが、最近のVWは小排気量エンジンを得意としていて、これが実によく走る。そしてそれは、パサートCCにも充分以上にあてはまるのだ。
2リッターにもDSGを
2.0TSIのアクセルを踏み込むと、ターボモデルらしい若々しさでスピードが跳ね上がる。ただしエンジン回転上昇感には、国産ターボに見られがちな子供っぽさはない。テノールボイスを響かせながらしっかりと回る様子に、基本の違いを見せつけられたようだった。
フットワークも実にいい。235/45R17コンチネンタルスポーツコンタクト3というタイヤのチョイスは、コンフォートライドを妨げない扁平率と外径、そして適度に粘る心地よいグリップ感を実現している。
ステアリングのレスポンスは、この手の4ドアクーペとしてはシャープな部類で、「ゴルフ R32」や「ゴルフ GTI」から乗り換えるステップが、ぬかりなく作られていると感じた。
グイッと鼻先をコーナーに入れるフロントに対して、リアは粘るというよりスクオートさせない動きをする。ホイールベースが長いから、リアの浮き上がり角度が緩やかになるのだろう。実に安定していた。
残念な部分もないわけではない。2.0TSIのトランスミッションは、オーソドックスなトルコン式の6段ATで、シャシーレスポンスの気持ちよさに対してシフトの反応が緩慢。トルクの細さを積極的にカバーしようとシフトダウンをすれば、一瞬タメを作ってから一気にエンジンブレーキがかかったりする。サポート部分を盛り上げた高級スポーツシートで盛り上がった気分を落とさないためにも、このグレードにこそDSGが欲しいと思った。
どちらか一方、選ぶなら……?
かたや、伝家の宝刀である狭角V6ユニットは盤石。緻密に組み上げられた3.6リッターエンジンの音質、パワー感、吹け上がりとも「やっぱフォルクスワーゲンのV6はいい」とひとり言をつぶやかせるだけの実力がある。排気量の拡大はボア(+3mm)×ストローク(+5.5mm)と両方向でなされているから、「トルク重視で回らなくなった」という感覚もない。
いっぽう、3.6リッターにのみ設定される6段DSGは、反応速度がややおとなしくセッティングされており、このエンジン特性をあますところなく使おうという意図は感じられなかった。とはいえこの排気量の余裕と、伸びやかなエンジン回転の上昇感が味わえれば、それは些細なことだ。
試乗当日は晴天。秋晴れの箱根では第4世代となった「4MOTION」の実力を試すことはできなかったが、こちらも進化を遂げているという。前後輪の回転差にかかわりなくクラッチ制御がおこなえるようになったフルタイム4WDは、スタート時や車両が不安定になったときに制御を入れるというから、冬の朝などの心強い味方となるのだろう。
どちらかを選ぶなら、やはり2.0TSIがお勧めだ。V6 4MOTIONは従来型上級セダンの方程式で手堅く作られているのに対し、「デカいクーペに小さなエンジン」という提案と、それを様式美としてだけでなく実力的にもしっかり消化している2.0TSIは、流行りのエコフレーバーもあってクール。混み合う都内で大きなクルマに乗ること自体エコじゃないだろ? という指摘もあるが、交通弱者に目を向けにくい、むやみに背の高いクルマたちよりはマシだと思う。少なくとも後部座席に乗るパッセンジャーたちは、重心が低いクルマの方がくつろげるのではないだろうか。
そんなパサートCCの乗り手は誰か。少々値段は張るが、先に述べたようにゴルフを卒業したユーザーたちだと思う。BMWや「メルセデス・ベンツCLS」に対抗して……なんてとんでもない。フォルクスワーゲンは自分たちのユーザーを見ているはずだ。華美すぎず、野暮ったくもない。絶妙のラインをついたこの感覚を一番わかってくれるのは、ほかでもない、フォルクスワーゲンを乗り継いだ彼らなのだ。
(文=山田弘樹/写真=峰昌宏)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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