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第70回:コレは強敵だ! 「iPod」はクルマを滅ぼす!?

2008.12.06 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第70回:コレは強敵だ! 「iPod」はクルマを滅ぼす!?

ワイヤレスウォークマン

「最高の音楽鑑賞は生演奏に限る」と信じてきたボクは、これまでの半生、オーディオに大枚をはたいたことはなかった。
ましてや、音質が限られる携帯音楽プレーヤーに関しては興味がなかった。高校時代、同級生は「ウォークマン」欲しさにアルバイトをしていたが、「何もそこまでしなくても」と冷静な目で傍観していたものだ。

そんなボクが唯一過去に所有したウォークマンは、1990年代初頭、通勤電車で語学学習するために買った「ワイヤレスウォークマン」だけだ。

本体・イヤホン間をFM波で飛ばす仕組みだったが、これがひどい代物だった。満員電車では他の客が持つ同型機の電波とたびたび混信した。割り込んでくるのは、大抵耳をつんざくヘビメタだったりした。そのたびボクは反射的にあたりを見回し、発信源と思われるイヤホンをした人物を、思わず怖い目で探してしまったものだ。まあ、それでも使い続けてしまったところがソニーファンの悲しい性であるが。

「ルノー・トゥインゴ」のカタログ写真。“剣山”トレイには「iPod nano」が。
「ルノー・トゥインゴ」のカタログ写真。“剣山”トレイには「iPod nano」が。 拡大

人もすなるiPodというものを……

そんなボクである。iPodが社会的に認知され始めてからも、さして興味を抱かなかった。
しかし考えを改め始めたきっかけは、ここのところクルマが売れなくなってきたことだった。多くの業界関係者や評論家先生が「若者は、クルマよりもパソコンやiPodに関心が向いてしまっている」と呪文のごとく嘆くようになった。
といって、ぼやきばかり聞いていても仕方がない。そんなに魅力があるというなら、ボクもiPodというものを遅ればせながら試してみようと思った。

そういえば今年春に、ヴィラ・デステのコンクール・デレガンスで同時開催されたデザイン・フォーラムでも、BMWのクリス・バングルをはじめとする当代一流のデザイナーたちが、さまざまなアイテムとともに「iPhone」のデザインを分析していた。
フランスを代表する自動車誌『ロト・ジュルナル』誌も、最近の号で広告を含め13ページにわたってiPod対応機器を含むAV特集を組んでいる。

そんなわけで先日東京に出張していたボクは、iPodシリーズのなかでも、全面タッチパネルでウェブ端末機能のついた「iPod touch」を物色してみることにした。
とはいえ、滞在費が底をつき、毎日スーパーの閉店セールを待って売れ残り惣菜を漁っていた身に、最低モデルの8ギガでさえ2万5000円を超える価格は痛い。そこでアキバで中古を購入することにした。そうした中古品は背面などにキズはあるが大事なのはタッチディスプレイと中身である。いろいろ見たが、結局「入会すればさらに千円引き。そのうえ年会費無料」という言葉によろめき、いらないクレジットカードまで申し込み、第1世代モデルのiPod touchを1万5000円で手に入れたのだ。

同じく「トゥインゴ」にて。コネクティング機能の解説写真。
同じく「トゥインゴ」にて。コネクティング機能の解説写真。 拡大

これは強敵

以下、すでにiPodやマック系PCを活用しておられる方は、「バカな奴」と思って読んでいただきたいのだが……。
家で箱を開けると、充電ケーブルが入っていない。「おい欠品だぞ!」と買った店に怒鳴り込もうと思ったところでネット検索してみると、パソコンと繋ぐデータ転送用ケーブルで充電もこなすことが判明した。

さらに「iTunes」というのが、簡単にいえばウィンドウズの「メディアプレイヤー」に似たものだとわかるのに、しばらく時間を要した。
そして、画面に表示される「Safari」という見知らぬアイコンにもビビった。ボクはとっさに日産の4駆を思い浮かべてしまったが、それがウィンドウズにおける「IE(インターネットエクスプローラー)」に相当するブラウザだと理解し、タッチする勇気を起こしたのは数日後のことだった。

さらに、イタリアの我が家で日頃使っているレンタルモデムとWiFi機能の相性が悪いことが判明。せっかくウェブ端末機能が付いているのに試せないのはつまらない。そこで新しいモデムを買うまで、用もないのに街に出てフリーの公衆無線LANに繋いで、インターネットを楽しんでいる。

そしてこれも既存iPodユーザーに「何を今さら」と呆れられそうだが、「iTunes」を介して、好きな曲だけをCDやインターネットから、しかも簡単にダウンロードできる。そのうえ、曲の間の行き来の容易さは、CDや、ましてはカセットテープの比ではない。

逆に言えば、曲が簡単に選べることによる弊害もある。アーティストが1枚のアルバムの中で必死に起承転結を考え、さまざまな曲を挿入しても、聴き手が一旦嫌いと思ってダウンロードしなければ、捨てた曲の良さを一生再発見することはないからだ。だが、このいわば“超・個人主義”は、カタログから選ぶクルマでは到底叶えられない快感である。

ちなみに、「最近再生した項目」というアイコンを押してみると、ブラームス→竹内まりや→ベートーヴェン→綾小路きみまろ、とボクの支離滅裂な音楽趣味が露呈された。

クルマに乗るときも一緒に持っていき、FMトランスミッターとドッキングすると、音質に少々不満は残るがラジオで聴くことができる。長旅のときCDを何枚もバラバラ持って歩くことから解放された。

カバーや対応スピーカーといったアクセサリーを探したりするのも楽しい。他社製品の携帯音楽プレーヤーもたくさん発売されているが、iPod対応系のアクセサリデザインは、クールでおしゃれなものがダントツに多い。金額的にも、クルマのタイヤが4本で5〜6万することを考えれば、遥かにお金をかけず楽しめる。勢いついでに、今まで所有したことがないアップル系コンピューターにも、興味が沸いてきた。

iPodはたしかにエンターテインメントとしてクルマの強敵になり得るツールだ。近年クルマのニューモデルに増えてきた「iPod」コネクティング対応は、自動車業界から「iPod」へのラブコールのようで、どこかいじらしい。

「フィアット500」でのiPod使用例。
「フィアット500」でのiPod使用例。 拡大
こちらは「日産キューブ」
こちらは「日産キューブ」 拡大

iPhoneに発展するワケがわかった

iPod touchにはもちろんカレンダー機能やメモ機能も付いている。そのため予定を書き込んだり、原稿のアイディアをiPodに入力するようになった。そのため今まで持ち歩いていた手帳や筆記用具が要らなくなり、カバンは軽くなった。携帯電話機能の付いた「iPhone」は、ついでにデジカメ機能と携帯電話も一緒にしちゃえ、という発想から生まれたものであることが容易に想像できる。

残念ながら、iPhoneは携帯通信事業者と切り離すのは難しい。イタリアであまり携帯を使わず、日本には毎年1カ月前後しかいないボクにとって、両国でおトクな契約プランが無いのは悔しいところだ。

蛇足ながら先日さらに携帯電話で歯痒い思いをした。初対面の女子からメールアドレスを頂戴することになった。彼女は「今、赤外線通信で送りますから」と。
筆者が東京滞在中に使っている携帯は超ベーシックなプリペイド携帯である。赤外線通信なんてものは付いていない。チクショー。

と、このときとっさに思いだしたのは、昔、小林彰太郎氏が『CAR GRAPHIC』創刊号を振り返って言った「当時メルセデス300SLを運転するということは、今ならスペースシャトルを操縦するに等しかった」という逸話。

それにならって、「その昔、ヒラ社員で携帯など持っている奴などいなかった時代、初の民間移動通信会社IDO(現KDDIの前身のひとつ)ができると同時に10万円の大枚をはたき、自腹でアナログ式携帯を手に入れた」などとうんちくが口に出かかった。

だが御大・小林氏と違い、ボクが若い娘の手前そんなことを話してもウケるはずはない。それどころか林家三平の落語のごとく「今のネタ、何が面白いかっていうと……」と説明しなければならなくなる。
たった20年前のことなのに。電子アイテムの進歩は、クルマの世界よりもずっと早い。それだけは確かだ。

注)iPhoneには、赤外線通信機能はありません。

(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/・写真=Renault、FIAT、NISSAN、大矢アキオ)

日産のキューブのiPod操作ディスプレイ。
日産のキューブのiPod操作ディスプレイ。 拡大
ヴィラ・デステでのひとこま。ゲストの工業デザイナーS.ディエス(右)がiPhoneに見入る。
ヴィラ・デステでのひとこま。ゲストの工業デザイナーS.ディエス(右)がiPhoneに見入る。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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