三菱トッポG(FF/4AT)【ブリーフテスト】
三菱トッポG(FF/4AT) 2008.11.25 試乗記 ……144万2700円総合評価……★★★
軽ハイトワゴンがあふれるなか、「トッポ」という一台の個性的な背高軽自動車が加わった。広い室内空間と使い勝手を確かめるとともに、その走りをテストする。
気負わない軽自動車
「ミニカトッポ」で軽自動車の背高ワゴン化の先鞭をつけながら、近年は「eK」シリーズに注力していた三菱が、久々に送り出した背高モデルが復活の「トッポ」である。しかし、なんだろうこの既視感はと思ったら、サイドやリアのボディパネルには2003年に販売が終了した「トッポBJ」のものをそのまま使っていた。
別にそれが悪いわけではない。けれど、正直「三菱も大変なんだなぁ」と思わされてしまうのは事実。eKシリーズは現行モデルになって勢いがなく、「i(アイ)」も最近は月販1千台にも満たないだけに、販売現場からの「売れるものを」という突き上げは相当厳しかったに違いないからだ。
中身に関して言えば、eKシリーズと60%もの部品を共用化することで開発コストを抑えると同時に、今の基準を満たすハードウェアへの確実な進化をも果たしている。しかし見た目のとおり、コンセプトは昔のまま。要するに、たしかに背は高いが、それを空間設計に活かせたとはいえず、結果的に後発の「スズキ・ワゴンR」や「ダイハツ・ムーヴ」に大きく先行を許してしまったトッポシリーズから進化していない。もちろん支持者もいるのだろうが、メインストリームに対する勝負権を自ら放棄しているようにも見える。やりたくてもできないくらい、大変なのだろうか。
ただし実際に乗ってみると、あり合わせの材料で作ったものとはいえ、そこは手慣れた感じもあって、まとまりは良い。昨今の軽自動車の、小型車を凌駕しようというような潮流に乗っているとは言えないものの、走りは軽快で乗り心地だってそこそこ良いし、インテリアも決して高級ではないが、気持ち良い雰囲気にまとまっている。エレクトロニクス関係の装備の充実による使い勝手の良さも、目を見張る。
決して皮肉ではなく、闇雲に上級志向に走る昨今の軽自動車のなかにあって、このスニーカー的な気負わない感覚は、うるさいだ安っぽいだと言いつつも、乗っていてなんだか気分が良かったというのが本音である。だからこそ、コンセプトの面でもうひと踏ん張りしてくれていたらと、なおさら強く思わされてしまうのだ。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1990年にデビューした軽乗用車の「ミニカ」ベースの背高バージョン「ミニカトッポ」が始祖。1998年に軽規格の変更に伴い「トッポBJ」と名を変えて登場。その販売終了後にトッポシリーズは途絶えていたが、2008年9月に「トッポ」として背高コンセプトはそのままに復活した。
シャシーはeKシリーズのものを流用。エンジンは0.66リッターのNAとターボがラインナップされ、NAのベーシックグレードは3段AT、それ以外は4段ATを採用する。エアロパーツを装着した「ローデスト」も用意される。
(グレード概要)
NAモデルでは最上級グレード(ローデスト除く)となるのがテスト車の「G」。スポーティな装備はターボの「T」に譲り、どちらかというと便利装備が充実する。ディスチャージヘッドライトや助手席シートバックポケット、本革巻きステアリング、4スピーカーオーディオ標準で備わる。安全装備としてABSが採用されるのは、このグレード以上。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★★
ブラック基調にホワイトの文字盤をもつセンターメーター、シルバー塗装されたセンタークラスターで構成されたインストゥルメントパネルは、スッキリとしたまとまり。シンプルで扱いやすいレイアウトだ。
収納もとにかく豊富。運転席側アッパーボックス、助手席側グローブボックス、左右アンダートレイ、サングラスホルダー、脱着式のプチごみ箱、左右ドアポケット……と、いたるところに物入れがあるのは重宝しそう。運転席限定解錠機能やリモコンでパワーウィンドウを閉じる機能を備えたキーレスエントリー、ヘッドライトオートカット、欧州車ばりにワンクリックで3回だけ点滅するウインカーなど、エレクトロニクス関係の機能も充実の一言。さらに寒冷地仕様にはシートヒーターまで備わる。
試乗車のGには手触りの良い革巻きステアリングも備わる。ベンチ式のシートと一体のカップホルダーだけはちょっと使いにくく感じたが、ウォークスルーの利便を考えれば、それもガマンできないほどではない。紫外線、赤外線ともに抑えるガラスや消臭天井、脱臭機能付きエアフィルターなど、快適な空間づくりのための配慮も行き届いている。
試乗車はカーナビも装着していたので、装備にはまったく不足を感じなかった。強いていえば、関連企業製であるその純正カーナビの操作性はいまひとつか。
(前席)……★
背の高さ、クラストップの1430mmという室内高から想像するより、着座位置はうんと低く、ベルトラインも同様に低め。側方や後方、斜め後ろまで含めた見切りは悪くないが、今やこの手の背高ワゴンに誰もが期待するであろう見晴しの良さは期待できない。直立するかのようなAピラー、大きなフロントガラスには一見圧倒されるが、高さはほとんど、縦にしたこぶし3つ分も入る頭上空間に費やされている。たしかに初代ミニカトッポからこうだったが、ハッキリ言って、これでは背が高い意味が解らない。狭いよりはいいが、それより素直に着座位置を上げてくれれば、背高ワゴンを選ぶ意味もあるはずだし、しっくりこないドライビングポジションも解消されるだろう。
シート自体も、腰掛けた瞬間にはふんわりとしていて悪くなく思えるが、フルフラットを実現するためかサイズが小さく、肩まわりもまったくサポートされないなど、見た目優先の形状もあって、すぐに腰や肩が痛くなってしまった。今や軽自動車はファーストカー時代。必ずしも短距離のゲタというばかりではない。このあたりにも、もう少し気を遣ってほしい。
(後席)……★★
着座位置が低いため、せっかくの室内高を活かせていないのは前席と同様。フロントシートバックなどに埋もれてしまって開放感は期待できない。ベルトラインが低いのだけが救いである。
空間的には、前席を身長177cmの自分のドライビングポジションに合わせた状態でも、膝頭がバックレスト背面に触れるか触れないかというゆたりが確保されているため、狭くはない。しかしシートは特に座面が前後方向に短く、そこにちょこんと腰掛け、バックレストは低いのに背筋を伸ばすかたちになるため、こちらも長距離はキツそう。サスペンションへの入力を、そのまま伝えてくるかのような乗り心地を含めて、あまり乗りたい席とはいえない。
しかし、やむを得ず乗らなければならない時のために、前席同様ちゃんと高さ調整式で、しかも自立式バックルを備えたシートベルトが付いているのは評価したい。
(荷室)……★★★
バックドアは横開き式で、跳ね上げ式に較べると、特に閉めるのがラク。スペースに余裕がなくても、ちょっとだけ開けて隙間から物を放り込むことができる。
荷室の広さはそれなり。後席シートにはスライド機構は備わらない。しかし左右5:5分割式の背もたれは、ヘッドレストを付けたままでもワンタッチで倒すことが可能。アレンジに凝るより、実際はこのぐらいの方が使い勝手はいいと感じる人も少なくないはずだ。
フロア下には収納が用意されており、壁面にはコンビニ袋などをかけておけるフックや小さなポケットも備わる。またバックドア内側にも大型のポケットを用意。トノカバーがあればいうことはないが、少なくとも細々としたものが荷室に見苦しく転がる心配はしなくてよさそうだ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
最高出力50psの自然吸気エンジンは、踏めばそれなりに騒がしいものの、軽い音質はそれほど耳障りなものではなく、引っ張るのも苦にならない。面白いのは、すべての共振点が一致するのか、100km/h巡航時の室内が、それまでの速度域からすれば不思議なほど快適なこと。エンジンもがなり立てないし、風切り音も気にならなくなる。この個体特有の話ではないとしたら、感心してしまう巧みな味つけである。
4段ATは、NAだけにちょくちょく遭遇する全開にしなければならない時の変速に滑らかさを欠くなど不満も感じるが、軽自動車用のATとしては平均的なデキだ。ただし、街中では4速に入らないよう3レンジに入れておきたい、などと考えると、インパネシフトは、もう少しリーチが近いと嬉しい。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
手触りは心地良いステアリングホイールだが、操舵感は褒められたものではない。中立位置の座りが非常に甘く、セルフアライニングトルクも心細いため、真っ直ぐ走らせるには常に意識的にステアリングを中立に戻して、保持する必要がある。
乗り心地は、かなりソフト。路面の細かな荒れやうねりをさらりと受け流して、突き上げてくることがない。それでいてクタクタというわけではなく、グラッと傾くような不安なロール感とは無縁。100km/hあたりでの巡航中も、しなやかな乗り味と安定感をうまく両立していて悪くない印象だ。
こうした走りには、低い着座位置はもちろん、サスペンションの巧みな設定が功を奏しているのだろう。またミニカトッポ以来、長く培ってきたノウハウも活きているはず。上質だとか小型車と変わらないだとか、そういう類いのことは言えないが、うまくまとめられた乗り味には好感をもった。
ただし、ABSがこのGグレード以上にならないと標準装備されないのは論外だ。そこはコストとして削る対象にすべき項目にしてほしくはない。
(写真=荒川正幸)
【テストデータ】
報告者:島下泰久
テスト日:2008年10月7日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2008年型
テスト車の走行距離:--
タイヤ:(前)155/65R13(後)同じ(いずれも、ヨコハマS-217F)
オプション装備:フォグランプ=1万5750円/三菱マルチエンターテインメントシステム(HDDナビ)=17万8500円/13インチアルミホイール=3万6750円/寒冷地仕様=1万4700円
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(7):高速道路(3)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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