ポルシェ911カレラ4シリーズ【海外試乗記】
かつてない走り 2008.08.29 試乗記 ポルシェ911カレラ4シリーズいまや911シリーズの販売は、5割以上が4WDだという。その中核を担う「911カレラ4」シリーズが新型となり、新世代の直噴エンジンと2ペダルMTが与えられた。その走りはいかに?
RRはもう古い
意外と思われるかもしれないが、世界のポルシェ911シリーズのセールスにおいては、実はその50%以上が四輪駆動モデルで占められているのだという。カイエンを含むポルシェ全体のではない。あくまで911シリーズの内訳としてだ。もはや「911の基本はRRレイアウト」という表現は、正しくないのかもしれない。
そんな現代の911の主力である911カレラ4シリーズが、つい先日のカレラシリーズに続いて997型になって初の、大幅なマイナーチェンジを敢行した。もちろん、その成り立ちや位置づけはこれまでと変わりはなく、変更内容も基本的にはそれに準ずる。すなわち目玉はいよいよ登場した7段ツインクラッチギアボックス、PDK(ポルシェ・ドッペル・クップルング)の搭載であり、完全新設計の直噴化された水冷水平対向6気筒ユニットの採用であり、またランプまわりを中心とした外観のリファインということになるのだが、カレラ4シリーズについては、さらにいくつかの注目すべきポイントがある。
まずはフルタイム4WDシステムが、従来のビスカス式からPTM(ポルシェ・トラクション・マネージメント)と呼ばれる電子制御式へと一新された。これはすでに911ターボに採用されているものだ。そして後輪駆動のカレラ・シリーズに対して40mmワイドなボディをさらに強調するべく、左右のテールランプ間に赤色のガーニッシュが渡されたのも目をひくポイントといえる。
走りを変えるPTM
すでに911ターボでその真価を体感しているとは言え、PTMがもたらした走りの変化はやはり鮮烈なものだった。普段使いの場においては、フルタイム4WDを意識させられることはほとんどないが、ワインディングロードなどに足を踏み入れ、少しペースを上げてコーナーへとステアリングを切り込んでいけば、すぐにその差を感じとれるはずだ。PTMは各種センサーによって車両がターンインしようとする動きを感知すると、前輪に向かう駆動力を制限してコーナリングに最大限のグリップを使えるようにする。おかげでコーナー進入では、従来の911の常識を覆すが如く軽快にノーズがインを向くのだ。
一方で立ち上がりの際に、パワーをかけて後輪が流れ出しそうになると、駆動力を前輪に配分して挙動を安定方向に導くところまでは従来と同じである。しかしPTMは、その結果としてヨーを消してしまうことがなく、あくまで後輪主体で蹴り出すような挙動をキープ。コーナリングの醍醐味を決して阻害しないのである。
もっとも、それにはPTMだけでなくシャシー全体のセッティングも効いている。カレラ4シリーズは新たにリアLSDが標準装備とされ、またサスペンションも、より旋回性重視に設定されているのだ。つまりPTMによって、フルタイム4WDは安定性を高めるだけでなく、より楽しく、そして速いコーナリングのためにも、これまで以上に積極的に活用されていると言える。参考までに、オプションを装備しない素の状態では、ニュブルクリンク旧コースのラップタイムは、カレラ4が2秒ほどカレラを上回るそうだ。
最新911の魅力と実力を味わうなら
このPTM、特にPDKの組み合わせでは、かつてない走りの醍醐味をもたらしている。たとえば、PDKのスポーツクロノパッケージプラス装着車に備わるローンチコントロールは、カレラ4の場合、発進時から45km/hに到達するまでの間、4WDを直結状態にする制御を追加。これによって素晴らしく安定して、しかも猛烈な速さのダッシュを可能としている。
また、やはりPDKのサーキットシフトプログラムは、Dレンジのままでも素早くダイレクトな変速と、ドライバーの意思を先読みしているかのようなギア選択で、まさに意のままとなる走りを可能にする。正直、PDKはステアリングシフトスイッチもフロアセレクターも、配列や操作ロジックには納得いかない部分が多々あるのだが、これなら敢えて自分で操作しなくてもいいかもしれないと思えてしまった。
そうは言いつつも、まだまだ自分の五感と手足を駆使して操縦する醍醐味を捨てられない筆者は、もし自分が新型911を買えることになったとしても、きっと後輪駆動のカレラ+6段MTを選ぶだろうと思う。しかし、それは以前にも増して迷った末での決断となるはず。新しい911の魅力と実力をフルに味わうならば、このカレラ4シリーズにPDKという組み合わせ以外にない。そう感じているのは、紛れもない事実なのだ。
(文=島下泰久/写真=ポルシェ・ジャパン)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】 2026.6.2 かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
NEW
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か 『シラート』
2026.6.4読んでますカー、観てますカー失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.4あの多田哲哉の自動車放談ひさびさに日本市場に戻ってきた、ホンダを代表するSUV「CR-V」。最新世代の仕上がりを、トヨタの車両開発者だった多田哲哉さんはどう評価する? まずは、ワインディングロードを走らせた第一印象から。 -
NEW
第964回:フィアットグッズのコレクターから学ぶ人生訓
2026.6.4マッキナ あらモーダ!イタリア在住の大矢アキオが、トリノで著名なフィアットグッズのコレクターを取材。若き日の苦労を経て大成した人物が語る、人生で大切なものとは? フィアットやイタリアの歴史を物語る、貴重なコレクションの数々とともに紹介する。 -
NEW
気づけばすでに4モデル スバルのBEV戦略と水平対向エンジンの未来を考える
2026.6.4デイリーコラム「ソルテラ」に続き、「トレイルシーカー」「アンチャーテッド」「ゲッタウェイ」と、いつの間にか4モデルが顔をそろえたスバルのBEV。伝統的な水平対向エンジンやシンメトリカルAWDはこの先どうなるのか? スバルの未来戦略を探る。 -
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。






























