第19回:クルマ大好きMr.ビーンがスパイになって大活躍! − 『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』
2012.01.10 読んでますカー、観てますカー第19回:クルマ大好きMr.ビーンがスパイになって大活躍!『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』
「マクラーレンF1」で大クラッシュ
Mr.ビーンことローワン・アトキンソンは、熱狂的なクルマ好きとしても知られている。2011年8月には自ら運転する「マクラーレンF1」で派手な全損事故を起こした。レースにも大いに興味を持っており、2011年10月のF1インドGPでルイス・ハミルトンとフェリッペ・マッサの接触事故が発生したときには、得意の変顔でマッサへの不満を表すところがテレビに映されていた。ドラマ『Mr.ビーン』の中では「ミニ」(最初は69年の「モーリス・ミニMkII」で途中からは77年「ミニ1000」)を愛車とし、なぜか三輪自動車「リライアント・リーガル」に激しい敵意を示していた。
2003年に公開された映画『ジョニー・イングリッシュ』でも、もちろんクルマが活躍した。英国諜報(ちょうほう)部MI7のスパイであるジョニー・イングリッシュが「アストン・マーティンDB7」に乗って大暴れする。アストンに乗るスパイなんてまるでジェームズ・ボンドのようだが、もちろんこの映画は007シリーズのパロディーなのだ。オープニングだって、あの有名な映像をもろにまねしている。ただ、これはパクリではない。昨年の大ヒット日本映画に海外のマイナー作品をモロパクリしたものがあったけど、ああいうセコいやり口ではなく、ちゃんとリスペクトがある。
今回はその続編で、日本版サブタイトルの「気休めの報酬」というのは、2008年のダニエル・クレイグ主演作『007慰めの報酬』からとっているわけだ。ちょっといまさら感は拭えないけれど、日本映画でもなぜか無意味に「報酬」をタイトルに使ったメジャー作品があったな……。ちなみに、本家の「007シリーズ」は現在製作中で、今年12月1日に『スカイフォール』が日本公開されることが発表されている。
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英国諜報部のスポンサーとは?
前作ではイギリス王室を乗っ取ろうとする陰謀を見事に(?)阻止したジョニーだったが、今はチベットの僧院で修行と瞑想(めいそう)の日々を送っている。モザンビークでヘマをやらかし、いたたまれなくなった彼は任務から逃亡して引きこもっていたのだ。チベットのはずがなぜか少林寺(しょうりんじ)風の拳法の修行をしていたりして、そのあたりは大ざっぱな東洋の神秘ということらしい。
そこにMI7から復帰命令が下る。英中首脳会談で中国首相暗殺の計画が動いているということで、かつての敏腕スパイが呼ばれたのだ。8年ぶりに戻ると、MI7はすっかり様子が変わっていた。民営化の流れには逆らえず、スポンサー付きなのだ。日本の家電メーカーがネーミングライツを取得したようで、ロゴにも誇らしげに企業名が入っている。「Spying for You」とキャッチフレーズも付けられている。
新たな上司はやり手の女性局長ペガサス(ジリアン・アンダーソン)で、「銃も速いクルマも男尊女卑も、今のスパイには時代遅れよ!」と古き良きスパイ像を全否定されてしまう。ダンディズムの消えた世界では、ボンドだって居心地が悪いだろう。
そもそも、東西冷戦が終わってしまい、スパイの活動範囲はずいぶん狭くなってしまった。上映中の『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』だって、敵は国家ではなくてサイコ気味な個人なのだ。悪が存在しないと、ヒーローは輝くことができない。
見えないところがスゴいファントム
女性局長からは否定されていたが、悪者退治には銃に加えてスパイグッズが必要だ。007における「Q」のような工房があって、さまざまな秘密兵器を開発している。もちろん、ボンドカーならぬイングリッシュカーも提供してくれるのだ。スピリット・オブ・エクスタシーをボディー先端に擁した「ロールス・ロイス・ファントム・クーペ」である。
諜報活動用に仕掛けが施されている設定なのだが、実際にこのロールスは特別仕様のものだったらしい。通常のファントムのエンジンは6.8リッターV12だが、映画で使われたモデルには9リッターV16エンジンが搭載されていたのだ。どうやら、ロールス・ロイス社がこの巨大なエンジンを開発したことを知ったアトキンソンが、直談判で頼み込んだらしい。クルマ好きらしいエピソードではあるが、巨大なパワーを映像で表現するのは困難だ。イギリスからスイスへと移動する途中で、警察の取り締まりに遭った際にスピードガンの表示が214km/hになっていたが、映画では実際にそんなスピードを出す必要もない。
クルマではないが、高速移動のツールがもうひとつ出てくる。電動車イスだ。バッキンガム宮殿の外側で、警察のクルマやバイクに追われて逃走する。本当に速い車イスを製作し、80km/hほどのスピードが出たそうだ。危険なシーンだから普通ならスタントマンが演じるはずだが、アトキンソンは自分でやりたいといって譲らなかった。もう57歳だっていうのに、困ったことに乗り物のことになるとガキ同然である。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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